②長く伸びた見えない腕
「じゃぁ、他の皆もここに?」
この集落で生きている。ケリケラが嬉しそうに立ち上がったが、シュタインは静かに首を振った。
「残念ながら、助かったのは私だけです。既に聞いているかもしれませんが、クルマンもベルゲンも………既にこの世にはおりませぬ」
「………あ」
ケリケラが力を失い、椅子に体を落としていく。
他の主だった者達も、消息が分かっておらず、生きているのか、そうでないのか分かっていないと、シュタインが零す。
そこに、大魔王が湯呑の淵に指を沿わせながら補足する。
「会社の情報網は、想像以上にかなり広い。魔王軍の主だった幹部や実力者達は、生きていたとしても既に補足されていると見るべきだろう」
「………リコル殿とマキ殿も、襲われたとの事です」
苦しそうに吐くシュタインの情報に、コルティとケリケラも驚きを隠せなかった。
「え、どうしてあの二人が?」
魔王軍ではない。むしろ当時は敵対的な関係にあったはずだとケリケラが挟む。
「恐らく、魔王軍とその後の関係を鑑み、敵として認定されたのでしょう」
「それで、二人は………いえ、二人だけでなくフォースィさんは?」
コルティの問いに、シュタインはここで初めて大魔王に視線を送る。大魔王はお茶を半分程飲み干すと、彼の視線に答えるかのように、天井を見上げた。
「………そろそろだ」
「そろそろ?」
コルティとケリケラが大魔王と同じ向きに視線を送った瞬間、まるで頭上で落雷が発生したかのような光と空気が張り裂ける音が同時に発生し、向かい合っていた机を粉砕させながら周囲に白煙と誇りが舞い上がった。
突然の出来事に、コルティ達は咄嗟に椅子から飛び退きながら咳き込み、腕や翼で顔の半分を隠しながら、状況を把握しようとする。
「い、一体、これは何事ですか!?」
「大丈夫だ。問題ない」
湯呑を持ったまま避難していた大魔王が立ち上がり、天井から床にかけて貫通した穴へと向かう。穴と言っても、立ち上がって数歩の位置にある居間の中央で、先程まで机があった場所である。
大魔王もシュタインも慣れたかのような雰囲気で、煙や埃が落ち着くのを待っていた。
「………畜生。いつも、いつも、最後に失敗しやがる」
落下の中心から、大きく咳き込み続ける男の、掠れた声が聞こえてくる。
死にかけた男の声に対し、シュタインが顎に手を置きながら覗き込む。
「ですが、最初と比べれば随分と改善されたかと。何せ初めての帰還では、四肢は跡形もなく吹き飛んでいましたからね」
大魔王が煙の中心に向かって右手を突き出すと、無言のまま淡い緑色の光を放つ。それが回復魔法である事はコルティにも分かったが、煙が落ち着いて、ようやく男の正体に気が付き、そして驚いた。




