⑨始まりの地
「コルティ! 上を見て!」
「………すごい」
ケリケラが見上げ、天井へと視線を送る。最初は、転移によって時間が経過して夜になってしまったかと二人は感じていたが、その認識が異なっていた事にすぐ気が付く。
周囲は樹齢が最低でも数百年、平均しても千年に近い巨大な木々が壁のように伸び、天井も伸びた木々の枝が絡み合うように空を完全に塞いでいた。その為、太陽がまだ出ている時間にも関わらず、夕方のように薄暗く、周囲には多めに設置された街灯が周囲を照らして、光量を維持していた。
まるで巨大な木の器で蓋をされたかのような世界である。
「ここは一体」
コルティも、この場所がどこなのか、何の為の場所なのか全く想像がつかない。集落には人間をはじめ、亜人も多く見られ、それぞれが農作業を行い、木材を運び、家畜の世話をしていた。
一見して、どこにでも見られる、のどかな景色の一つである。
大魔王が知った道を歩き始めた。
「この場所に明確な名はない。だが、ここに住む者達は『始まりの地』と勝手に呼んでいる」
「………始まりの地」
いつの間にか大魔王は黒い角を生やし、服装も初めて会った時と変わらぬ王の姿へと戻っていた。その姿に気付いた人間や亜人達は、一斉に作業を止めて静かに膝を付き、あるいは両手を合わせ、各々が最も深い礼法で頭を下げる。
「よい。作業に戻るがいい」
決まった流れか、大魔王が小さく頬を緩めながら右手を軽く上げると、村人達は何事もなかったかのように作業を再開し始めた。
大魔王がコルティ達に顔を向ける。
「この場所は余の魔力で生み出した、言わば結界だ。この村の存在を知らぬ者達にとっては、周囲からはただの大きな森としか映らぬ。仮に近付こうとしても方位を狂わされ、運よく足を踏み入れても、無意識の恐怖によって振り返るか、気が付けば森の外に出ている」
長い年月を過ごすに当たり、大魔王は拠点が必要になったと理由を話す。
「ここに住んでいる人達は?」
ケリケラの質問に、大魔王はこの集落で働く人間や亜人達を一瞥する。
「拠点を維持する為の人材として集めたが、人選は余の気紛れだ。無理強いはしなかったが、どうやら、各々に理由があるらしく、物好きにも己の意思で社会との繋がりを断ち、望んでここにいる」
権力者に見捨てられた者、友人に騙された者、生活の全てを失った者、病気で明日をも知れぬ者、人格者や技術者として優れていても、必ずしも社会が受け入れてくれるとは限らない。




