⑤消されていく軌跡
食べ終えた皿が片付けられ、代わりに食後の珈琲が運ばれてくる。
「この街では、この店の珈琲が一番マシだ」
湯気の立つカップを手に取った大魔王は、匂いを鼻に運び、静かに口元へと傾ける。
「そこは、一番旨いと言い換えた方がよろしいかと」
「そうか。次からはそうしよう」
コルティも珈琲の匂いと味を楽しみ、その後ミルクを注ぐ。
「ボクは果実ジュースで」
自前の木製ストローをジョッキに差し込むと、ケリケラは一気に半分程飲み干した。
「………それで、話して頂けますか?」
コルティが大魔王に話の続きを求める。
大魔王は、彼女の声を聞きつつも珈琲を口に少しずつ運び、口の中に広がっていく苦みと喉に落ちていく温かさを交互に味わいながら、同じ行為を繰り返す。
そして半分程に減ったカップをソーサーの上に戻すと、ようやく静かに語り始めた。
「初めに言った通りだ。何も変わらない。貴様達が探している者達は、人間によって追い出され、あるいは消されていった」
「そんなっ!」
思わず立ち上がりかけたコルティだったが、周囲の視線に気付き、すぐに腰を下ろす。
大魔王は彼女の同様にも変わらず、落ち着いた姿勢で口元にカップを傾けてる。
「御主人様も、魔王軍の同胞達も………皆、なかった事にされているのですか。そんな馬鹿な話が」
「事実だ。そして今では虚が真となり、この国の常識となりつつある………中々にどうして、人間共も我々に劣らず、随分と面白い手を使う」
大魔王は人間から学ぶべき部分はまだまだ多いと肩を揺らしながら評価する。
そこへケリケラが私見を挟んだ。
「でも、人間との共存は果たせているんだから、全てが嘘というのも極端じゃない? リリア女王やロデリウスが、そこまでやるかなぁ」
「まぁ、もっともな意見ではある」
大魔王は空になったカップを置き、尖った爪で軽く弾く。
「だが、前宰相はもう随分と前に死んでいる。奴の置き土産だけでは、ここまで周到に進める事は出来ないだろう」
「………噂は、事実だったのですね」
コルティ達が旅に出た後、ロデリウスは復興中の旧カデリア領を視察中、建築物の資材落下に巻き込まれて死亡したという情報を、既に耳にしていた。




