③世界の潮流
「………その顔では、随分と苦労してきたようだ」
注文を受け終え、厨房へと向かう店員の背中を見送り、大魔王から話を切り出した。
「覚悟しての結果です。それに、労せずして手に入れたものなど、今の私達にとって大した価値はありませんから」
コルティも負けじと言い返す。
「ふ、そうだったな」
大魔王がつまらないことを聞いたと、小さく鼻で笑う。
「余とお前達の目的を考えれば、常人の努力など、到底足元にも及ぶまい」
肩を細やかに揺らし、食事を再開する大魔王。
「そう言う大魔王様は、この五年間、どうしていたんですか?」
ケリケラが唐突に尋ねた。
大魔王は視線を彼女に送ると、すぐに元に戻し、口に含んだ物を全て飲み込んでから、椅子の背もたれに体を預ける。
「余か………余は、あらゆる場所で、あらゆる人間の姿を見てきた」
単純な上に抽象的な答えであったが、言葉にした時の大魔王の深い目は、その言葉が虚構ではなく、純粋な真実や摂理かのように訴えていた。
コルティ達の喉が同時に鳴る。
「かつての余は、人間が余を打ち負かす程に強大な力をもっていながら、何故その力をもっと効率的に使わないのかと疑問に感じていたが、誰もその問いに対する十分な答えを持っていなかった」
余がこの世に生を受ける前の話だと、後付けする。
そして、この世界でも同じ理だったと、大魔王が首を振った。
「人間は弱く脆い。弱いが故に群れを成し、脆いが故に社会や国家といった組織を形成する。そしてどのような形であれ、人間の中で強さをもった者は、主に二つの流れを選ぶ」
大魔王は腕を組み、目を瞑る。
「力を自分の欲の為に使う者と、他人の為に使う者だ」
「そのような話であれば………ご主人様は後者になります」
大魔王はコルティの言葉を否定せず、話を続けた。
「だが、結論は同じだ」
「同じ?」
ケリケラが眉をひそめる。




