②再会
「お食事中、大変失礼致しますが、相席をよろしいでしょうか?」
メイドが声を掛けると、既に食事をしていた銀髪の男の動きが止まる。
男は季節感を無視したかのような全身黒ずくめの服と上着を纏っていた。生地も絹か革なのか全く分からないが、全ての色を吸い込むかのような一切の妥協のない黒は、一周回って美しさを感じさせるようでもあった。
一般的には珍しい種の亜人程度にしか見られないだろう。側頭部の二本の黒い角こそないが、伸ばした髪の隙間から生える尖った耳は、メイドの記憶と一致していた。
男は、スパゲティを包めていたフォークを皿の上に静かに置くと、膝上に乗せていたナプキンで口をなぞり、再び元の位置に戻す。
そして顔を声の主へと向ける。
「好きにするが良い………確かに知り合いには違いない」
「それでは、失礼します」
窓からも入口からも遠い、やや影がかった隅の座席。メイドと有翼亜人は男の正面に向かうように座った。
「………お久しぶりです、大魔王様。もう、何年振りになるでしょうか」
「コルティと王都を出てから、二年目までは正しく数えていたんだけどねぇ」
細目で大魔王と呼ばれた男を睨む有翼亜人のケリケラが、メイド姿のコルティの問いの上に、皮肉を乗せる。
「五年と三か月だ………余にしてみれば、懐かしむ程の長さというものではない」
大魔王は右手を肩のあたりまで小さく上げた。
「お前達からすれば、余に聞きたい事が山程あるのだろうが………その前に食事を頼むが良い。店に入って何も頼まないのは品位に………何だその顔は」
大魔王と言う存在が街の一角の喫茶店で麺類を回しているだけでも驚きであったが、コルティはそれ以上に、人間らしい振る舞いを自然体で行えている姿に驚いていた。
「いえ、随分と人間らしい、と」
素直に大魔王の一連の動きを、そう評価する。
「そうか………人間共に確認しても首を傾げられるばかりだったのでな。お前がそう判断するのであれば、今までの余の対応は間違っていなかったのだろう」
「………一回一回、自分の行動が正しかったかどうか、聞いていたんだ」
ケリケラの顔が引きつり掛ける。
コルティは、先程の女性店員に声をかけて呼び出すと、男と同じメニューと野菜のスープ、そして日替わりのサラダを注文する。




