①長い時間の果てに
「いらっしゃいませぇ!」
ドアの上辺に取り付けられた小さな鈴が鳴り、反射的に店の女性が振り返り、慣れた笑顔で対応する。
女性は入って来た客層を見て、僅かに表情を固めたが、すぐに業務的笑顔に戻した。
白と黒のメイドの服を纏った猫亜人だけでも珍しいのに、それよりも遥かに背の高い白銀の斧を背負った客が入って来れば、誰でも驚く。この店が冒険者ギルドや荒くれ者御用達の酒場や食事処でなく、街の住民が通う喫茶店であれば、なおさら違和感は大きい。
その思考は、店の従業員だけでなく、既に座っていた客が視線を向ける程、全員の共通認識でもあった。
「お、お客様………当店では、そのような大きな武器の持ち込みは―――」「あ、気付かずに申し訳ありません。すぐにしまいますから」
メイド姿の猫亜人は、慌てて右の人差し指で何もない空間をなぞると、まるでカーテンのように空気をめくり、肩にかけていた白銀の斧をしまい込む。そして右手を巻き戻すようになぞり直すと、何事もなかったかのように空間の裂け目が無くなっていた。
当然ながら、目の前で起きた出来事に理解が追い付かず、店員達の顔が強張っていた。
「お姉さん。二人でお願いします!」
メイドの後ろから陽気な有翼亜人が乗りかかるように声をかけ、ようやく女性の時間が進み出す。
「あ………は、はい。二名様ですね!」
どんなに忙しくても慌てない程の経験を積んできた彼女であったが、初日の店員のような失態を見せた事を誤魔化すように、そそくさと周囲を見渡し始める。
「え、えぇと―――」「あちらがまだ空いていますね」
メイドが店の奥に指を向けた。
「え、そちらは………既に」
「大丈夫です。待ち合わせていた知人が見つかったので」
コルティはエプロンのポケットから銀貨を数枚取り出して女性に手渡すと、それ以上の言葉を塞がせる。彼女もその意図を察し、苦笑のままであったが、何も言わなくなった。
周囲の視線を気にしながら、メイドと有翼亜人が奥の席を目指す。
かつて王国と戦った蛮族と呼ばれた者達が、一括りに亜人と呼ばれるようになり、ウィンフォス王国の一部となって随分な時が経過していた。労働者や商人、農民となって王国の民となった彼ら彼女らが街中にいる事は珍しくなくなっている。
だが、それでも気になる人間は様々な感情で視線を送って来る。物珍しさ、卑しさ、侮蔑、憎悪、どちらかと言えば、負の感情の面は未だに多い。
それでも、そんな視線に一々反応する事なく、メイド達は目的の席に到達する。




