⑪十二冊目の本
「御言葉ながら」
ロデリウスが反論する。
「必ずしも、陛下のような理解ある王が誕生し続けるとは限りません。カデリア王国が何故滅びる事になったのか………人の歴史の中で、愚王が自国を亡ぼしてきた例は、別段珍しい話でもありません」
聞く人間によっては不敬だと指を向けられても仕方のない発言であったが、彼はリリアにしか聞こえない程度の声で、視線を変える事なくリリアの案に疑問を当てつけた。
「その程度の問題ならば、大した事ではありません」
リリアもまた、彼に対して飾る事なく言い返す。波風を立たせないようにと周囲を気にしていた彼女からは、想像できない言葉の返し方に、ロデリウスの方が思わず目を細めていく程だった。
「その時は、この国が亡ぶだけです」
「陛下っ!」
ようやくロデリウスが慌てた表情を見せるも、リリアは左手を軽く上げて言葉を制止させる。
「貴方の言う通り、人の歴史の中で愚かな王が即位し、自ら国を亡ぼしてしまう事は左程珍しくありません。ですが、その度に新しい国や指導者が生まれていく事も、また人の歴史ではありませんか。栄枯盛衰………物事には必ず始まりと終わりがあるのです」
違いがあるのだとしたら、それは遅く滅びるのか、早く滅びるのかの長さでしかない。リリアは、いつ滅びるのか分からない未来を心配するよりも、今よりも良くなっていく未来に希望を注ぐべきだと訴えた。
「必要なら、十二冊目の本に、『そんな国はさっさと滅びてしまいなさい』と記しておいてください」
ウィンフォスの王族は、即位から崩御までの歴史の全てを書物として作成し、代々保管している。それらは王族のみ閲覧が許されており、彼等が国政を見誤らないようにと先祖代々の希望や警告が記された真実を未来に残していた。
リリアはロデリウスの名を漏らす。
「私の考えは、間違っているでしょか」
それは無意識に近い形で、最後の言葉を零していた。
ロデリウスは彼女のやや後ろ隣りを維持しながら歩き、前を向き続ける。
そして口を開く。
「もしも隣に、彼がいたら、私が考えている以上に良い言葉を陛下に送っていたと思います」
「………感謝を」
遠回しの回答に、リリアは小さく笑っていた。
二人はそれ以降、何も言葉を交わすことなく王城へと向かった。




