⑧女王は自分に問う
リリアは上半身を起き上がらせると、潤ませた目を手の甲で拭い、鋭い眼で見下ろす。
「立ち上がりなさい。騎士カレン。あなたはそれでも、我が王国の英雄にして、私の命の恩人であるデニスの娘ですか?」
リリアの拳が強く握られる。
父の名を出され、カレンの肩の震えは徐々に小さくなっていった。
「そこで泣き続けて何が変わるというのですか? 大切だと叫ぶ仲間の時間を無駄に使い、多くの慰めと同情を貰い、その上何を求めているのですか!?」
「………女王陛下」
余りにも鋭利な言葉に、コルティが顔を覗かせて来るが、リリアは左手を横に広げ、背後にも睨みをきかせた。
「お下がりなさい………これは、私と私の友である彼女との問題です。何人たりとも口を挟む事は許しません」
この家に来た時とは明らかにリリアの表情は異なっていた。その顔に気付いたコルティは、小さく頭を下げたまま後ずさる。
「カレン」
改めてリリアは前を向き直す。
「私はお父様の国政と比べれば依然幼く、貴女のお父上の勇気と比べれば、到底足りない未熟者です。ですが、そんな私でも、多くの人達に支えられて、今の私があるのです」
その分野毎に、優れた者がおり、互いに不足している部分を補い合い、支え合って社会が成り立っている。リリアは自分自身に聞かせるように、他者の優れた点を並べ、いかに自分が一人で何もできない事をさらけ出した。
「………女王陛下は、決して無能ではありません」
カレンの顔が上がる。
「ありがとうございます」
胸に手を当て、リリアは素直に感謝を伝える。
「同じように、貴女も無能ではありません。貴女が無能ではないと証明してくれた私が保証します」
彼女は腰を曲げ、自分の顔をカレンの顔に近付けた。
「私は、国民と国家の安寧の為、未来を作らなければなりません。時には、自身の感情に反する事もあるでしょう。許せずとも許さなければならない事もあるでしょう」
言葉を一瞬詰まらせたが、リリアはカレンの瞳をしっかりと捉え続ける。
「ですが、私は皆が支えてくれる限り、自分に負けない事を誓います」
「陛下は………ご立派であられます」
カレンは座ったままだったが、体を起こし、何度も涙を拭いながらリリアと正対する。




