④言葉が含む意味
「申し訳ありません。かえって部屋を汚してしまいましたね」
肩に大きめの手拭いを乗せながら、居間のソファーに腰かけるリリア。彼女は、部屋の隅に寄せられた食器の破片を横目にしつつも、温かいスープの入ったカップを包み込みながら口に付けて苦笑する。
根菜類を長く煮詰めたような濃厚な、しかし野菜が殆ど見えない液体が、冷え切った彼女の体を内側からゆっくりと温め、広げていった。
「いいえ、とんでもありません! こちらこそ、粗末なスープしかありませんが、どうかお体を冷やさないようにしてください」
小さなテーブルを挟んで立つコルティは、激しくなった心臓の鼓動を押さえるように胸に手を当て、夜の賓客に精一杯対応しようと表情をつくる。
だが、そんな真面目なコルティを、リリアは肩をすくめて笑って見せた。
「そんなに畏まらないでください。まだ即位する前にお会いした時の表情の方が、貴女らしいですよ?」
「は、はい」
リリアに諭され、コルティは耳を垂らし、何度も深呼吸を繰り返す。
「………それでは」
コルティも相対する形でソファーに腰掛けた。
「女王陛下自らの御訪問………しかも護衛等ない所を見るに、お忍びでと察しますが、どのような御用件でしょうか」
言葉を並べ終える頃には、コルティの心は落ち着きを取り戻していた。むしろ背筋が伸び、真剣な眼差しで女王を見つめられるようになっていた。
リリアは、スープが二口程残しているカップをテーブルに置き、周囲を見渡す。コルティが慌てて破壊した部分を除けば、掃除が行き渡り、整理整頓と清潔が共存、調和している様子が伺える。
「聞いてはいましたが、本当に金目の物には手を付けなかったのですね」
何も知らない人間からすれば、彼女の言葉の意味を察する事は困難だが、コルティはやや目を細めるだけで、聞き返す事も、動じる事もしなかった。
「………賊の事です」
リリアが一応の意味を込めて付け加える。
「存じています」
コルティも短く答えるだけに留めた。
そんな彼女の言葉の意味を、リリアは彼女の瞳から察する。そして『そうですか』とだけ返し、リリアは再びカップに手を伸ばす。
既にカップは人肌よりも冷めていた。




