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Lost12 優しき青年は、冷酷な魔の王になれるのか  作者: JHST
第五章 耐えがたきを耐えてこそ
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③女王の抵抗

 部屋には、リリアが一人残された。

 会議室の机や椅子は王城に相応しく高級な物で占められ、かつ綺麗に整えられているが、机上には、会議で使い終えた本が隅に積まれ、書類は散逸し、地図は置かれたままになっている。

 リリアは、そんな部屋を一瞥する。

「私は………」

 誰にも聞こえない声で、今はいない者の名を口にする。



――――――――――


 その日の夜。

 夕方から降り続けた激しい雨がしょうやく収まり始めた頃、コルティはカレンの家に訪れた客人に目を大きくさせた。

「夜分いきなりの訪問。まずは謝罪を」

 水を弾く動物の革であしらわれた頭巾を外すと、長い銀色の髪が解けるように流れ降りる。

「………リ、リリア陛下?」

 一騎当千のコルティも流石に反応が遅れた。だが、すぐにメイド服の裾のしわを直し、深々と一礼する。

 そしてすぐにリリアへと近付き、濡れて動き辛くなっている雨よけの外套を外す手伝いを始めた。

「ありがとうございます。恥ずかしい話ですが、一人で脱いだ事があまりありませんので………ご迷惑をおかけします」

「い、いえ。そんな恐れ多い」

 人間の礼儀として正しいかは分からなかったが、コルティは失礼のないようにと、懸命に外套と頭巾を外し、抱きかかえるように預かる。


 リリアは濡れた髪をほぐすように首を振ると、まだ濡れていた手足の水が跳ねないように指先で擦り落とす。

「も、申し訳ありません! 只今手拭いをお持ちします!」

 コルティが駆け足で玄関を上がり、廊下を走る。

 そして持っていた外套と頭巾から落ちた水に足をとられ、リリアの見えない所で盛大に転倒する。

「ふぎゃぁぁぁ!」

 玄関で待たされているリリアにとっては、何が起きているか分からないが、聞こえてくる音からして何か大きなものが倒れたかのようだった。


「あの………そんなに慌てなくても大丈夫ですから」

 覗き込むように声をかけるが、当のコルティはとんでもない、と声を高くする。

「い、いえ! 陛下に風邪を引かれては、メイドとしての面目がありません! すぐに手拭いを………ってあわわわわ!」

 再び何かが倒れる音が響く。今度は、ガラスか陶器の類が割れた音に違いない。リリアは、かえって自分の言葉が相手を慌てさせると悟り、指先や毛先から滴る水に耐えながら、彼女が落ち着くのを待つ事にした。

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