③女王の抵抗
部屋には、リリアが一人残された。
会議室の机や椅子は王城に相応しく高級な物で占められ、かつ綺麗に整えられているが、机上には、会議で使い終えた本が隅に積まれ、書類は散逸し、地図は置かれたままになっている。
リリアは、そんな部屋を一瞥する。
「私は………」
誰にも聞こえない声で、今はいない者の名を口にする。
――――――――――
その日の夜。
夕方から降り続けた激しい雨がしょうやく収まり始めた頃、コルティはカレンの家に訪れた客人に目を大きくさせた。
「夜分いきなりの訪問。まずは謝罪を」
水を弾く動物の革であしらわれた頭巾を外すと、長い銀色の髪が解けるように流れ降りる。
「………リ、リリア陛下?」
一騎当千のコルティも流石に反応が遅れた。だが、すぐにメイド服の裾のしわを直し、深々と一礼する。
そしてすぐにリリアへと近付き、濡れて動き辛くなっている雨よけの外套を外す手伝いを始めた。
「ありがとうございます。恥ずかしい話ですが、一人で脱いだ事があまりありませんので………ご迷惑をおかけします」
「い、いえ。そんな恐れ多い」
人間の礼儀として正しいかは分からなかったが、コルティは失礼のないようにと、懸命に外套と頭巾を外し、抱きかかえるように預かる。
リリアは濡れた髪をほぐすように首を振ると、まだ濡れていた手足の水が跳ねないように指先で擦り落とす。
「も、申し訳ありません! 只今手拭いをお持ちします!」
コルティが駆け足で玄関を上がり、廊下を走る。
そして持っていた外套と頭巾から落ちた水に足をとられ、リリアの見えない所で盛大に転倒する。
「ふぎゃぁぁぁ!」
玄関で待たされているリリアにとっては、何が起きているか分からないが、聞こえてくる音からして何か大きなものが倒れたかのようだった。
「あの………そんなに慌てなくても大丈夫ですから」
覗き込むように声をかけるが、当のコルティはとんでもない、と声を高くする。
「い、いえ! 陛下に風邪を引かれては、メイドとしての面目がありません! すぐに手拭いを………ってあわわわわ!」
再び何かが倒れる音が響く。今度は、ガラスか陶器の類が割れた音に違いない。リリアは、かえって自分の言葉が相手を慌てさせると悟り、指先や毛先から滴る水に耐えながら、彼女が落ち着くのを待つ事にした。




