②大事と小事
リリアが選んだ言葉に、ロデリウスは大きく息を吐き、そして頬を僅かに緩める。
「事実を知らなければ、背負う事はありませんので」
彼は否定しなかった。
それが彼女の矜持を酷く傷付ける。
「私は、あなたの掌で生かされていると? ロデリウス、貴方は私に何も知る必要はないと、そう言っているのですか?」
リリアの語気が強くなる。彼の言葉は、互いに運命を共有し、共に地獄に落ちるとまで約束した絆を貶める発言だった。彼女にとって、最も信頼している仲間の一人から、自分が女王という飾りに置かれたと受け取りかねない態度に近い。
だが、ロデリウスは静かな怒りを見せるリリアに、目を瞑り、首を左右に振るう。
「そうではありません」
その言葉が何度も反芻するように、首を何度も振るう。
「女王陛下。私は、陛下に大事を見誤らないようお願いしているのです」
「大事? 知人の家に賊が入り、私にとって大切な人の物が盗まれ、しかも賊の入った原因が、私が最も信頼する男にあるという事が、大事ではない。ロデリウス………貴方はそう言うのですか」
リリアの目が潤む。
怒りとは別の、あらゆる感情が彼女の心から喉を通じ、言葉へと代えられていく。
そしてそれを知りつつも、彼は平然と頷いて見せた。
「はい。小事であります。陛下にとっての大事とは王国の復興と繁栄、そして人間と亜人達との共存であり、それ以外は全て些事に当たります」
迷いなく平然と断言する。
「そう………か」
リリアは自分が求めた答えとは異なる冷たい言葉に、ついに視線を下げ、肩の力を落とす。そしてロデリウスに背を向けて、静かに数歩離れた。
彼女が顔を半分程見せるように振り返る。
「王都の警備を改めて見直しなさい。特に賊に入られた者の家の周辺警備を。しばらくの間、重点して行うように………それくらいは、聞いていただけるのでしょう?」
ドレスを掴む拳が震える。
「はい。適切な処置かと………すぐに、王都の警備担当と王国騎士団に指示を出します」
ロデリウスは静かに頭を下げると踵を返し、部屋を後にする。
そして、静かに扉が閉まっていく。
だが、リリアにとっては、部屋全体に響くかのような大きな音に聞こえて仕方がなかった。




