①小さな事件
定例の朝議を終え、ロデリウスが会議室を後にしようとした時、女性の声が彼の足を止めさせた。
「ロデリウス」
彼は声の正体とその先の内容を理解した上で踵を返して小さく頭を下げ、椅子に腰かけていた声の主に礼を尽くす。
純白のドレスを身に纏い、銀の髪がより際立って光沢を作る。二十歳に満たない彼女は、この過酷な状況において、王国の全ての責任を背負う女王であった。
「リリア女王陛下」
他の者達が、部屋からいなくなるまで頭を下げ、扉が閉まると同時にロデリウスは上半身を起き上がらせる。
リリアも傍にいた女中に声をかけ、席を外させた。
部屋には二人だけとなった。
リリアは眼鏡を一旦外すと、レンズの部分を専用の白い布で拭き上げ、再びかけ直す。そして鋭い目で彼を直視し、静かに立ち上がる。
ロデリウスは、微動だにせず静かに主の言葉を待ち続けた。
リリアが静かに彼に近付き、ロデリウスを見上げる位置で足を止める。
「昨晩………カレンさんの自宅に、賊が入ったそうですね」
「はい。報告は部下より聞いております」
ロデリウスは目を閉じ、女王の言葉を肯定する。
「幸い………と言うべきかは分かりませんが、彼女は例の店で外食しており、怪我はありませんでした」
「そして、金目の物は盗まれておらず、彼の私物ばかりがなくなっていた………という訳ですか」
女王のまっすぐな瞳に、ロデリウスは目を閉じたまま短く『はい』と答えた。
平然と事実を肯定していくロデリウスの態度に静かな動揺を生みつつも、リリアは言葉を続けようとする。
「………何を考えているのですか?」
「何の事でありましょうか」
ロデリウスがようやく目を開けた。
自分に関する点のみ、あからさまに否定し、短い言葉で話を切る。問題を追及する側からすれば、相手の言葉を利用し辛く、彼女は苦虫を噛んだかのように目を細め、表情を崩し始めた。
リリアの中で、あらゆる予測に対する選択肢が浮かび上がり、どれか一つを手にする事に迫られる。
実際の時間では数秒での出来事であった。
リリアの視線は、ぶれることなくロデリウスを捉え続ける。
「何故、私に相談しなかったのですか?」
追及でも、容認でもない一手。彼女の手元に、明確な証拠が握られている訳ではないが、結論に間違いのない認識の下、リリアは彼に言葉を投げつけた。




