⑬作られていく笑顔
「成程。確かに………この本は、恐ろしい知恵を含んだ予言書かもしれませんな」
きっと異世界の本から得た知識を応用したのだろうとシュタインが察し、改めて目の前の本の価値を認識する。
「力や魔法でも同じ事が言えますが、分不相応なものは、やがてその身を滅ぼします。そして、残念ながら大抵の場合、その影響は自分の身だけに留まらない事が歴史の常です」
「………その通りです」
老齢なシュタインの経験論に、コルティが深く頷く。
この本は厳重に扱わなければならない。みだりに見せるものではない。コルティは、周囲に気を遣うような笑みを浮かべながら、手にした本をシュタインに軽く向けたが、彼は意地が悪いと眉を潜めて首を左右に振った。
「………またしばらく、皆と会えなくなりそうな話かな?」
誰も手を付けなくなった食材を重ねた食器の上に乗せてきたリールが、コルティ達の横を通り過ぎる。
彼女は厨房の中に入ると、食器を置く音の後に再びカウンター越しに現れ、濡れた手を前掛けで拭き始めた。
「ほんの少し前までは、皆で馬鹿騒ぎしていただけだったのに………本当に、難しいね」
問題や悩みがなかった訳ではないが、半年前までは見知った顔ぶれで飲み食いし、騒ぎ、笑い合っていた。しかし、時間が経つにつれ、この店を訪れていた仲間達は一人、また一人といなくなり、代わりに異なる顔ぶれが増えていく。
ついには家族に等しい大切な人ですら帰って来なかった。リールの表情は、日に日に作られたものになっていた。
「………リールさん」
大切な人を守り切れなかった後ろめたさを拭えずにいるコルティは、彼女に返す言葉を持っていなかった。
だがリールは首を左右に振り、震えた頬で笑顔を作り出す。
「ごめんね、私ばっかり。本当はコルティも、他の皆も同じくらい辛いのに………」
「いえ、我々の方こそ」
シュタインが浅く、しかし丁寧に頭を下げた。
「軍師という立場でありながら、魔王様を貴女の下に返す事が叶いませんでした。あの御方は御自身の性格を押し殺しながらも、魔王たらんと努力し、まるで自分を傷付けるかのように戦っておられました」
ですが、と続ける。
「………今思えば、我々はどこかで魔王様の優しさと、力に甘えていたのだと思います」
彼の優しさを汲み取り、彼に近しい者達は、その想いに値する行動を返してきた。だが、本当に必要だった事は、強引であっても彼の優しさを窘める力と言葉が必要だったと、シュタインが自らを省みる。




