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⑩双方に託された未来

 迷いのない力強いコルティの返事に、クレアは口元を緩ませる。

「なら、あなたにもこれを渡しておきますわね」

 そう言って、懐から一冊の本を彼女に手渡した。

 コルティは本の表裏を確かめるが、どこにも本の名前が載っていない。それを不思議に思いつつ、クレアの表情を伺う。

「あなた達の言葉で飾るなら、そうね………魔王の予言書、というのはどうかしら」

 その表現に目を大きくさせたコルティが本を開く。近くにいたシュタインも彼女の背中に立ち、本の内容を覗き込んだ。


 面白い程に食いついた二人の姿を見たクレアは、さらに深い笑みを返す。

「今、ロデリウスが彼の残した本の中で、有用な情報をまとめていますわ」

 経済、政治、物流、社会問題から戦争に至るまで、この世界にまだ浸透していない未知の知識とその対応がまとめられている。クレアは、これらが人類の未来に対して重要な情報である一方、持つべき者が誤れば、安易に世界を変えてしまう危険な情報となると、写した本人が警告していたと語る。

 そして、ケリケラと共に酔いつぶれているカレンの姿を寂しく見つめると、クレアはコルティに申し訳なさそうな表情を向けた。

「あの子には悪いのだけれど、ロデリウスが借りている本も含めて、彼の本は王国によって管理される事が決まりましたわ………今頃、彼女の家では、相田の私物だけを盗む変わり者の賊が入っているはず」

 他の物には決して手を付けない。クレアは、なけなしの言葉を一応添えてみたが、コルティの複雑な表情を戻す事は叶わなかった。


 今から戻っても、間に合う事はない。コルティは沸き立つ感情を抑え込みつつ天井を一度仰ぎ、ゆっくりと正面へと戻す。

「………どうして私に、この本を? この本は、ロデリウス殿から貴女に託されてたのでは?」

 ウィンフォスとカデリアの橋渡しを担う彼女に、未来を託したという事は、コルティにも理解できた。それだけに、この本の価値は一国に相当するという認識もあった。

「問題ありませんわ。その本は写本………そんな目をしないで、大丈夫だと言っているでしょう? 私が写した物だから、私達以外には漏れていませんことよ」

 本物はクレアのバージル家管理。そして魔王側にはクレアの写本を、という事だった。

 クレアが続ける。

「書き写しながら中を読みましたわ………確かに、その本の中は恐ろしい情報ばかり。有り得ないと願いつつも、いつ起きてもおかしくないものばかり。まるで誰かが、未来に行って見てきたかのような現実感を感じましたわ」

 だからこそ、人間と魔物の双方が持つ必要があるとクレアは言い放ち、そして立ち上がる。

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