⑨敗戦国の令嬢
「土亜人の金属加工技術は、私達でも舌を巻く程。けれど、その気難しさから商品として出回る数は少数、故に貴重で高価ですわ。それをたったの本の一冊で彼らの首を縦に振らせるなんて………魔法よりも気味が悪いですわね」
腰まで伸びた赤毛を揺らした女性が、厨房から姿を現す。女性は右手に持っていたジョッキをコルティの横のカウンターに置くと、そのまま寄りかかる。
「遅くなりましたわ」
「………クレアさん」
コルティは彼女に振り返り、小さく会釈する。クレアもそれに応えるように小さく笑い、ジョッキに手を伸ばして口元に傾けた。
「何も裏口から入られてこなくとも」
「あまり顔が知られているというのも、存外面倒ですの」
カデリア王国があった頃も、彼女は時折学校や館から忍んで街まで繰り出した事が何度もあったが、ここでは少し意味合いが違うと天井に息を漏らす。
「心中、お察しします………が、我々と同様に、耐え慣れて頂くしかありません」
敵国であり敗戦国であるカデリア王国の大貴族、加えて元勇者一行という肩書は、戦争が終わっても決して拭いさる事は出来ない。この王国の人々がもつ感情は、言葉にするまでもない。
その上、旧カデリア王国領の戦後処理に関わる一切の責任を負わされた事への心理的、精神的負担は計り知れない。コルティは、彼女の背中に重くのしかかるものを知っていた。
「ありがとう。その言葉だけでも、随分救われますわ」
改めてクレアはコルティとジョッキを重ね合った。
「人間との商売品の確保。順調そうですわね」
「王国との約束がすぐに履行されない以上、こちらとしても備えは必要かと」
クレアもコルティ達、復興中の王国側の台所事情、そのどちらも把握している。そしてカデリア王国との戦後処理を含めると、三すくみ問題が絡み合うように影響し合い、少しでも目的がずれると、他の二要素までも歪が生じ、目を放せば一体どこから解決していいのかまるで見えなくなる。
それを彼女は、この四か月で何度も経験してきた。
「………相田の事は、ロデリウスから聞きましたわ」
クレアの視線が遠くなる。
彼女は喉を規則的に鳴らしながらジョッキの中の液体を半分程落とし込むと、『最後の最後まであいつらしかった』と味気なく呟いた。
それでも、とコルティが口を開けると、クレアは彼女の目に視線を向ける。
そして数秒程凝視すると、クレアは顔を反らし、残りの酒を飲み干した。
「そう、貴女達は会いに行くのね………何年、いえ何十年かかっても」
「はい」




