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⑧生きる為に

「そう言えば、早々に街の商人と取引をし始めたのも小鬼(ゴブリン)族でしたね」

 魔物が住む森の奥地で取れる農産物や鉱物を、人間の商人から食料や生活用具と交換している事をコルティが思い出す。

 クルマンはジョッキと肉串を持った両手を上げ、自分事のように喜んだ。

「そうだギー。頭のいい奴らは人間と商売して、そうじゃない奴等は森から交換できそうなものを見つけて来るようにしているんだギー」

 何も考えず、単純で短絡的ように見える行動が、実は並み以上に効率的な行動だった事は割と多い。故に、手強いとも言われている。


「そういう意味では、自尊心(プライド)が高すぎる蜥蜴亜人(リザードマン)や我ら狼亜人(ライカンスロープ)は、同胞達の中では出遅れているのかもしれませんな」

「おぉ、ツヴァイール殿か」

 シュタインが、背後から現れた懐かしい顔を見てジョッキを交わす。元魔王軍の幹部であり、今は王国との交渉を行う代表団の一員であった彼だが、つい先日までは土亜人(ドワーフ)との交渉に赴いていた。

 ツヴァイールはコルティの顔を見ると、ジョッキをシュタインに預け、胸の前で手を合わせた。

「コルティ殿。報告が遅くなりましたが、無事に彼等と契約を結ぶ事に成功しました」

「畏まらないでください、ツヴァイール殿。私はもう、ただの窓口にすぎません。以前のように親衛隊の長としての役割はもうないのですから」

 優しく微笑み返したコルティは椅子から降り、ツヴァイールの手を解くと、シュタインが持っていた彼のジョッキを手渡した。

「ですが、気難しい彼らと武器製造の契約が取れた事は大きい成果です。本当に御苦労様でした」

「いえ、それもこれも、コルティ殿から頂いた教本のお陰です。あの本を見た彼らの顔、貴女にも是非お見せしたかった」

 頬を緩ませながら、彼はジョッキを傾ける。


 この世界には存在しない造りの本。そして本の中には、まだ誰も見た事がない、誰も作った事のない武器や防具の絵が、まるで本物のように描かれていた。

 その本はコルティにとって、大切な人の持ち物であったが、彼女はそれを交渉の材料として彼に託したのである。その気持ちは断腸の想いでありつつも、亜人達の未来とを天秤にかけた結果の決断であった。

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