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⑥皆が望む未来の姿

――――――――


 アルトの森と湖。

 かつては王都の西に存在していた小さな宿も、一年と経たずして王都の名店と知られるようになり、朝帰りの冒険者から仕事を終えて(ささ)やかな一杯を求めに来た出稼ぎ労働者まで、分け隔てる事なく迎え入れている。

 しかし、今晩だけはその店の扉が頑なに閉められていた。外の扉にかけられた『貸切』の札が、寒い夜空の下で空しく乾いた音を立てている。



「しょれではぁ………きゃんぱぁぁい!」

 既に二桁を越えた音頭に、周囲の者達が仕方なく木製のジョッキを掲げる。

 一人で音頭を取り続けているカレンが、赤くなった顔を維持しながら高笑いを続け、物言わぬ壁相手に果実酒を飲み続けていた。


「一体、誰があの娘にお酒を—――」「ん。あそこに」

 カウンター席に座り、一人額を押さえて首を振るコルティ。その横、厨房から新たな料理を運んできたリールが、通り過ぎ様にある一点に向かって顎を突き出す。

 コルティが振り返るように視線を向けると、高笑いするカレンの周囲を、ケリケラが原始的な踊りに近い足取りでうろついていた。

「千鳥足とか………」

 コルティの溜息が一層深くなった。


「何ともまぁ、平和なものですな」

 コルティの横に、くすんだ鱗で覆われた老齢な蜥蜴亜人(リザードマン)が、木製のジョッキを持って近付いて来る。

「………シュタイン殿。申し訳ありません、うるさい子達で」

「いやいや、お気になさらず」

 かつて魔王軍の軍師を務めていたシュタインは、申し訳なさそうな彼女の顔に対して固い手のひらを見せながら小さく振った。

「蛮族と蔑まれてきた我々が、こうして人と同じ場所で同じものを食べ、同じ酒を飲み、共通の話題で盛り上がっている………今、我々の目の前に映っている光景が、魔王様が目指そうとしていた世界。この国や大陸全体で目指すべき姿なのだと感じましてな」


 人間と亜人との共存。

 その目標が、個人という最小単位ではあるが、目の前で現実と化している。シュタインは、自分達が理想として目指す姿が決して夢物語ではないのだと、酔っぱらって回るカレンとケリケラを通し、遠い目で語っていた。

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