③かつての同僚
「その偽の魔王に、君は会ったのか? フランカ」
ロデリウスは女性の名を呼ぶと、彼女の行いを咎める事なく淡々と尋ねる。
フランカは太ももを見せるように足を組むと、さらにグラスを傾けて中の液体を減らす。
「いいえ、会っていないわ。私があったのは銀髪の男、たぶんあれが途中から現れたっていう大魔王の方ね」
「………そうか。そういう事か」
背もたれに体を預けたロデリウスの中で、多くの疑問が紐付けられて解決していく。
「でも、心配しないで。社長に偽魔王の存在は報告しておいたから。私からの、せめてものの嫌がらせよ?」
空になったグラスをやや強めに机の上に置き、女性は机から離れた。
「あなたこそ、会社に戻って来る気はないの?」
フランカはロデリウスの過去の業績をいくつか口にし、その度に指を曲げながら、最後にもったいないと肩をすくめる。
だが、ロデリウスはそれらを鼻で一笑すると、首を左右に振り、彼女の勧誘を丁重に断った。
「悪いけれど、僕はもう会社には戻る気はないよ。ここで筆を走らせている方が何倍も面白い」
それに、と付け加える。
「僕は、この国を作った責任をとっていく必要があると、あの日から決めている。フランカ、そして彼らと共に作った、このウィンフォスをね」
昔話を語ろうとした時、フランカは振り返り机の上に両手を乗せるや、ロデリウスの顔に自分の顔を近付けた。
「あの時の話はもう………しないで。あれは、ただの企画なのよ? 大陸西部に点在する小領主の土地をまとめて一つの国家を作り、安定した経済圏を築く為。ただそれだけの企画」
「その企画の為に、一体どれだけの人々が亡くなったのか………今回の一件だってそうだ」
ロデリウスが眉をひそめ、細やかな感情を見せる。
「異世界から来た、異なる時代から来た………だが一人では生きていけない過酷な環境。そんな僕達が、自分達の能力や知識、技術を使って平和な世の中にする為に、役立てる為に設立された会社。この世界に来て、社長に拾われた時、僕もその言葉と意義に共感したさ」
自分達にしか出来ない事がある。自分が世界を変える事が出来る。自分達が世界を守る事が出来る。全てを失い、意思の有無に関わらず、この世界に降り立った人間にとって、その壮大な生きる目的は砂漠の中の果実そのものだった。




