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②翠の侵入者

「………風?」

 ロデリウスが、静かに周囲を見渡す。

 いつしか風が部屋の中に入り込んでいた。夜風はカーテンを揺らし、部屋に飾られた白い花を優しく撫でる。しかし、一見優しそうな風も、流れは渦を巻き、何かしらの意思を含んでいる様であった。


「そこは、ドアではありませんよ?」

 開いていた両開きの窓を直視しながら、ロデリウスは背後に立つ女性に声をかける。

「その飄々とした性格………相変わらずね」

 (みどり)色の髪をかきわけるように首の後ろに手を回し、女性はあからさまな息を吐いた。そして丸い眼鏡の位置をくいと直すと、壁に寄りかかりながら言葉を続ける。

「まさか、あんたに私の企画(プラン)をここまで滅茶苦茶にされるとはね………正直言ってムカつくを越えて笑うしかないわ」

 両手を肩の高さまで上げ、女性は天を仰ぐように両掌を天井に向けた。


 ロデリウスは先程まで書いていた自分の本を閉じ、万年筆を容器の中に立てかける。

「やはり………今回の戦争の火種は()()でしたか」

 座ったまま、背中を向けて言葉を返す。

 カデリア王国の王だったパーカスが、ウィンフォス王国を攻めた理由。ロデリウスは、かつて玉座でパーカスと会った際、彼が蛮族達の領土を併合していくウィンフォス王国を、いつしか自分達の国にも手を伸ばしてくるのではないかという恐怖を抱いていた事を思い出す。

 だが、本当にそれだけの理由で名だたる家臣達を説き伏せ、国を動かし、戦争を起こす事が出来るのだろうか。ロデリウスの脳裏には、あの時からずっとこびりついて離れない疑問が残っていた。

 そしてその疑問が、綺麗に剥がれ落ちる。


「蛮族達との戦いを終えた直後、まだ内政が整えきれていない状況を狙っての侵攻。さらに王女を人質にした状態での攻勢。時期的にも戦力的にも、カデリア王国(こっち)が負けるはずなんて皆無だったのよ? なのにこの様………本当に、してやられたわ」

 女性はロデリウスの前に回り込む。そして、机上に置かれていた手付かずのグラスに目を向けると、それを手に取って一口を含む。

「あら、良いお酒ね」

 女性は執務机の上に小さな臀部を乗せた。

「まさか、偽の魔王を担ぎ出して、不平不満をもっていた蛮族達を味方に引き込むなんてね。計算違いもいいとこよ」

 グラスに指を這わせ、女性は小刻みに笑い始めた。

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