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①ある夜の執務室にて

―――王都ウゥンフォス

 執務室。


 窓ガラスが風に押されて枠木と擦れ合う。窓を支える蝶番は、自らの役目を果たそうと風の侵入を拒み、それが余計に音を立てる原因となる。部屋の中から外へと写る景色は何も映らず、遠くを見下ろす事で、ようやく街下の明かりが空の星々に負けぬ程に見えてくる。

 ウィンフォス王国の宰相であり、この戦争を勝利に導いた立役者の一人と謂われた男は、長い金髪を後ろから捲し上げて頭の後ろで軽くまとめると、手に持っていた髪留めで静かに挟み込む。

 文官達は皆、帰宅の途について久しいが、専用の執務室に戻った彼だけは着替える事なく、残っている職務に励もうとしていた。


「さて、と」

 部屋の中央に置かれた腰の高さ程の木棚から飲みかけの酒瓶を取り出し、すぐ隣から小さなグラスを二個、指の間で挟み込む。それらを執務机の上に置くと、瓶から茶色い液体を四割程注ぎ込む。

「今日は、もう少し書いておこうか」

 赤茶色の椅子に腰かけて木材を軋ませると、彼は酒の入った一杯のグラスを手元に、もう一杯を机の反対側に置いた。


 ロデリウスは、三か月前からこの飲み方を続けている。


 かつては言い争い、それでも同じ目標に向かって共に戦った友の為。時には、まっすぐで優しすぎる性格を心配し、ある時は立場を意に介せず、自分に正直な言葉を自由に吐ける彼を羨んだ。ロデリウスは、常に冷静に、冷徹に、打算に思考してしまう自分が、逆立ちしても振る舞う事ができない彼の存在を、いつしか心の底から尊敬するようになっていた。

 そんな彼が似つかわしくない魔王()を演じ、そして見事戦争に勝利を呼び込んだ。

 ロデリウスは、彼がいつ戻ってきてもいいようにグラスの中に酒を注いでいる。


 一時間、二時間と彼は無地の本に筆を走らせ続ける。

 一字も間違える事なく、美しい羅列を書き連ねていく。

 そんな彼が作り出す本の横には、この世界で知らされていない文字と、まるで本物のような精密な絵で示された本が開かれていた。


 静かな時間だけが過ぎていく。

 

 いつしか自分のグラスの中が空になり、ロデリウスはグラスに手をかけようとした所で、ようやく顔を上げた。

「ふぅ。今日はここまでかな」

 彼はこの世界とは異なる造りの本をそっと閉じ、引き出しの一番下、二重底になっている仕組みの隙間、奥深くにしまい込む。

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