②表の魔王、裏の英雄
「………黒の英雄」
カレンが一つの結論に辿り着く。
コルティもそれに頷く。
「御主人様は過去に………ウィンフォス王国が建国される時代へと飛ばされたのですね」
「そして、相田さんは黒の英雄となって、この王国を興した一人となる。はは………普通の人が聞いたら、さぞかし笑われると思うよ」
魔王だけでなく、英雄としても扱われる相田の存在が、カレンの中でさらに大きくなる。それは尊敬であり、偉大でもあり、そして既に自分の届かない場所へと離れていく寂しさでもあった。
相田が黒の英雄にならなければ、この王国は生まれない。故に大魔王も双子竜も、相田を助ける訳にはいかなかった。コルティ達は、矛盾していた答えが一本の線だった事に安堵する。
だが、彼女達が模範解答に辿り着いても、大魔王の表情に変化はなかった。
「まぁ、そう考えてもらって良い………今はな」
「今は? それは、どういうことですか?」
コルティが眉を潜めると、大魔王は再び右手から薪を生み出し、焚火に向かって投げ入れる。
全員の視線の先には、強く燃え上がる炎があった。
「炎という世界を維持するには薪が必要だ。だが炎から見れば、誰が薪を入れたかは左程重要ではない。余や貴様のように、誰でも良いのだ」
真実に近い重要な答えを意味しているのだろうが、ケリケラとカレンが首を傾げる。
「さらに言えば、薪になるものであれば何でも良い。細かい枝でも、いっそのこと布でもだ。世界の流れが維持できるのであれば、手段も材質も時機すらも全く同じである必要はないのだ」
「………つまり、御主人様が過去に戻られても、今と全く同じ状況になるとは限らないという事ですか?」
「正確には、世界が望む結論さえ同じであれは、そこに至る道が異なっても問題はないという事だ。いかに余でも、世界の潮流を正確に把握出来る事も、ましてや操る事もできぬ」
コルティの解釈に大魔王は否定する事無く、比喩を用いて答える。
彼女の中で、大魔王と言う存在に疑問という亀裂が生じ始める。主人の能力から生まれた存在と言う認識だけでは説明がつかない事が多すぎる。
「あなたは―――」「悪いが………時間切れだ」
彼女が口を開けたその時、離れた所から小枝や落ち葉を踏み鳴らす音が聞こえてきた。
大魔王は立ち上がり、空間から呼び出した椅子を黒い粒子となって霧散させる。




