①二つの点、一本の線
あれほど強かった北風が、誰にも気付かずに止んでいた。
弱くなった焚火が燃料を欲しがるように、身を削りながら唯々炎を揺らしている。
「御主人様………」
コルティは手の甲で涙を拭い、何度も主人の名を呼び続けた。
「大魔王………様が何もしなかったのは、理由があるって事で良いのかな………いえ、ですか?」
涙目のケリケラが、話を終えた男に続きを求める。
相田が会社と呼ばれる謎の組織の人間によって、別の空間に飛ばされた事までは理解できた。
「双子竜も、大魔王の指示だったのか、相田さんを助けなかった………続きを説明してくれませんか?」
大切な人を見殺しにしたという安易な結論に目を向けるべきではない。自分が一番冷静にならなければと、カレンは唇を噛みしめ、静かな声のまま大魔王に問い正す。
大魔王は三者三様の表情を目で流していくと、右の掌を膝の上で宙に向け、薄暗く歪んだ空間から一本の薪を取り出した。
「余の友………貴様達にとって主であるあの男は、別の空間へと飛ばされた。余はこの三か月で、この大陸を巡り、その行方を追ってみたが、終ぞ見つかる事はなかった」
故に確認できたと、自ら矛盾を口にする。
「確認? では、御主人様はどこにいらっしゃるのですか?」
コルティが大魔王から薪を受け取り、焚火にくべる。新たな薪は古い薪の上で偉そうに燃え始め、古い薪達が音を立てて自分達の存在を最後まで主張する。
「………ここではない時の世。そう、それこそ、まだウィンフォス王国ができる前の世界だ」
一瞬、コルティ達は理解に数秒を要した。
「そんな………それじゃぁ、お父さんに会えないじゃん!」
「えぇっと、驚く所、そこじゃないかと」
最後まで聞いていただけにその衝撃は大きく、ケリケラは翼を広げながら感情を露わにした。そしてその横で、苦しそうな顔でカレンが我慢できずに横槍を入れる。
「人間の寿命は精々、百年。もう、御主人様に会えないという事でしょうか」
「いやいや、コルティさんまで。どうして二人共、もっと大事な所を聞かないの? え、変なのは私の方?」
目頭を擦るコルティに、たまらずカレンが再び声を挟む。
「と、取り敢えず、質問をいいでしょうか?」
カレンが小さく手を上げ、大魔王へと言葉を送る。
「今、私の頭の中で………自分でも頭がおかしいと思われる答えが出たんですが―――」
「いや、その答えで間違っていない」
大魔王はさらに薪を呼び出すと、焚火へと投げ入れる。
炎が更に燃え上がった。




