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⑩そして青年は姿を消す

「さぁ、一分後にはお別れだ。何か言い残す事があれば、聞いてあげるよ」

「いいのか? そういつぁ、悪いな」

 最早、抗う体力は残されていない。頭痛だけでなく、体中の痛みが想像力を奪い、まともな技を放つ余裕もない。相田は渦に体を奪われるのも時間の問題となった。

 だが、上半身が後ろに傾きつつあっても尚、相田は笑みを絶やしていなかった。

 それどころか、右手でイルフォードを指さし、語気を強める。

「お前達のくだらないクソみたいな企画(商品)。この俺が、いや世界の意思が、悉く邪魔をしてやろう………絶対にだ。こいつぁ予言でも願望でもない。純粋な俺からの………そう、魔王からの宣戦布告という名の呪いだ」

 既に、体の後ろ半分は空間に飲み込まれている。

 相田は大魔王に視線を向ける。

 大魔王も友人の最後に対し、最期まで視線を合わせていた。


 お互いに何も語らず、短い時間を過ごし終える。

 相田が渦の中に消え、そして些細な空気の水面が生まれ、風が止む。吸い込まれる途中だった小石は地面へと落ちていった。


「はい。これで、おしまい」

 目的を果たしたイルフォードは小さく息を吐くと、襟首に指を入れて服装を正し、上着の位置を調節。踵を返して、来た道を歩き始めた。

「友達と言っていた割には、薄情だったね」

 大魔王の横を通り過ぎ、イルフォードは舞い上がる風と共に姿を消す。


 代わりに北風が吹き始めた。夜に染まって冷えた風が、残された者達を憐れむ。

 その風に乗って、下品な笑い声が運ばれてくる。

「………そういう事かよ」

 今まで無言を貫いていた双子竜、その兄の方であるラハームが空気を振動させていた。

「あのとっぽい兄ちゃんは、()()()()()()()()()、まるで分かってないのか。がっはははははは!」

 弟のラフームもいい気味だと陽気に笑っている。

「まぁ、俺達も大魔王(お前)に言われるまで、全く分からなかったがな! だっははははは!」」

 二人で笑い声が揃う。


 そして双子竜の声が波のように、退き始める。


「これで、次に大将と会う時には、()()()か」

「当時の俺達にゃぁ、そんな事まったく知らないからな………はぁ、全く驚かされるばかりだぜ」

 ラフームが懐かしむような声で、動けなくなった体を小さく震わせる。

「初めて会った時は、どうやって復讐してやろうかとも思ったが………こういう絡繰りだったか」

「そういう事だ」

 大魔王は、興奮冷めきれないままの双子竜の会話を横にして歩き始める。

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