⑨早めの処置
「ぐっ………」
元の仰向けに戻された相田は頭を左右に振り、二重に見える世界を修正させる。
一体何が起きたのか。相田には知覚できなかった。
イルフォードが前に歩き始める。
そして、大魔王の横を通り過ぎる際、彼の足が一度止まる。
「………貴方は、彼を助けないのですか?」
目を瞑ったままの大魔王は、相田の動きに反応しないどころか、二人の会話にも参加する気配を見せなかった。それはまるで石か絵のようでもあった。
声を掛けられて、ようやく大魔王が目を開ける。
「余に話しかけるな、小僧。余の友が貴様を嫌うように、余も貴様の事を好かぬ」
「へぇ」
近くにいても決して目を合わせようとしない大魔王に、イルフォードの声が低く、強くなる。
「いいのかい? 彼が死ぬかもしれないよ?」
右手の指を再び弾くと、相田は地面を削る鑢の様に転がった。
「ほら。彼は僕の攻撃に何も出来ない」
イルフォードが大魔王の表情を覗き込む。
それでも大魔王の表情に変化は見られなかった。
だが、微かに右頬が釣り上がる。
「心配はいらぬ。余の友は貴様よりも遥かに強い」
「ふぅん。思ったよりも、つまらない反応だったな」
目が細まっていくが、イルフォードは大きな溜息と共に、自身に沸き上がった感情を振り払う。
「いやいや、止めておこう。ここで感情的になっても、良い事は何一つないからね」
イルフォードは両手を思いきり広げ、巨大な風を招き入れ始めた。
風は相田の後ろに集まると渦を巻いて回転し始め、あらゆるものを吸い込み始めた。
横になった竜巻と表現するべきか。だが、その中心は何もない黒い世界が口を開けている。
「これでも忙しんだ。今回の失敗で、新しい儲け話を立ち上げなきゃいけなくなった」
「そいつぁ、悪い事をしたな。ざまぁ見ろだ」
相田は、自分の後ろに生まれた不可思議な現象をまるで気にする事なく起き上がると、不敵な笑みを見せながら彼に向かって中指を立てる。
だが、イルフォードは一瞬眉を潜めるも、相田の行動を無視して話を進めていく。
「自分で言うのも何だけれど、僕は結構慎重なんだ。君のいた国でいう『石橋を叩く』ってやつだったかな? 君の存在が、我が社にとって無視できない不確定要素になる前に、処理させてもらうよ」
空気の渦はやがて周囲の景色を歪ませながら大きな穴となり、周囲の石や枝といった先程よりも大きな物を吸い込み始める。




