⑬正しさの方向
「うるさい! 煩い五月蠅いウルサイっ!」
瓦礫の中からアインが狂い叫ぶように立ち上がった。鎧は自動修復を終えて新品同様であったが、体中は傷と埃に塗れていた。
少年が声を荒げる。
「偉そうに! 魔王のお前にこそ、僕の何が分かる!? どんなに望んでも、何をしても上手くいかず、周りから笑われ続け、馬鹿にされてきたこの僕の気持ちがっ!」
歯を食い縛り、アインは一歩ずつ瓦礫の中を踏みしめる。
「お前みたいに、能力や才能に恵まれて過ごせていれば、そんな言葉も吐く事ができるだろうさ! だけど、どんなに時代や世界が変わっても、僕みたいに出来ない奴は勝手に生まれてくるんだよっ!」
「⋯⋯⋯俺も自分が優秀だと思った事はない。むしろ、俺だって出来ない方だと思っている」
「それでも、僕よりマシなんだろう!? それだけで十分さ!」
叫んだと思えば、乾いた笑いがアインから漏れていく。
「でも僕はようやく手に入れたんだ。この世界に呼び出されて、僕は誰よりも凄い力を得た! 誰もが羨むこの力を! すごいでしょ!? 羨ましいでしょ!? 異世界に転生した僕は、今なら何でも出来るんだよ!?」
次第に大きくなる笑い声は、どこか湿っていくようだった。
「お前は………そうか、呼ばれたのか」
アインも同じ異世界からの漂流者。相田自身、忘れる事が多くなってきたが、自分と同じ境遇の人間がいるかもしれないと何度も考えてきた。そして異世界に招かれた意味や、仕組みを理解できれば、帰る事も夢ではないと思った事も、一度や二度ではなかった。
だが今の相田には、この地で成すべき事の方がいつしか勝っていた。
相田は魔剣を抜き放つと前面に構える。
「魔王は勇者に倒されるべきなんだぁぁぁぁぁっ!」
アインは白銀の剣に稲妻を落とし、放電した状態で相田へと飛び込んだ。
「この………馬鹿野郎が」
相田はかつての隊長の言葉を理解する。どんなに強い技でも、見切られやすい大技や連携にならない技は脅威になりえない。今見えている彼の技が、まさにそうであった。
「狂っているのは、あいつか。それとも俺なのか、もう分からねぇな」
腰元に差し込んでいた赤い刀身のナイフを取り出し、相田は無駄のない動きでアインの足元に向けて投げ放つ。
刀身は地面に刺さると同時に炸裂し、彼の足元を簡単に崩す。相田は易々と彼の踏み込みを妨げた。




