⑫近道は許されない
「どうした? 勇者は魔王を倒せるのだろう?」
自分でも思う程に、相田は酷い茶番を演じていた。
誰も見ていない中、魔王を演じる必要はなかったが、相手の力が努力や経験によって得たものでない事が分かると、厳しい視線を送らずにはいられなかった。
勇者が代々身に付ける孔雀緑の鎧。その鎧が持ち主の能力を格段に向上させる力がある事は、クレアから聞かされている。先代となったリコルも能力を底上げしていた事になるが、まだ彼の動きには自分自身で努力して得た下地の上に効果が乗せされている印象があった。
しかし、目の前の人間にはそれがない。
不正行為で成績の上位に至ったにもかかわらず、それを実力だと誇るかのような言動。相田は、本来通るべき道筋を無視した少年が気に食わなかった。
「まさか、一発で終わりか?」
「まだだ! この程度で僕は負けはしない!」
「………そうかい」
相田は握っていた親指を外へと弾き、小石による礫をアインの額に叩き込む。上半身を起き上がらせたばかりの彼は、再び後頭部を瓦礫に打ち付ける羽目になった。
「昔の俺だったら………そうだな、きっと羨ましがっただろうな」
誰にも負けない無敵の能力、周囲からもてはやされ、美女達に追いかけられる生活。手に収まる紙と文字の中でしか堪能できない世界が目の前に広がれば、そしてそれが簡単に手に入るのであれば、誰でも手を伸ばしたくなる。
「だが、今ならそれは間違ってると断言できる。まぁ、同情くらいはしてやるさ。お前は、世の中を知る前の俺みたいなものだからな」
少年が起き上がるまで、相田はそのまま待ち続けた。
どんな世界でも、どんなに並外れた能力を持ってしても、生きていくにはそれに見合った器が求められる。ゲームや漫画を楽しむ側からでは決して想像もできない『覚悟』と『決意』が、元の世界以上に必要だった事を、相田はその足でもって歩んできた。
努力する事なく能力を得たとしても、それだけで全てが解決するとも、報われるとは限らないのである。
失う時はいつも一瞬だった。
相田は言葉を続ける。
「お前にできるか? 家族や恋人がいるであろう人間を正面から斬り殺す事が。大事な仲間が死んでいく光景に耐えられる事が。自分の命令一つで、敵味方大勢の命が散っていくにもかかわらず、それを数で認識しようとした自分の軽薄さに気付いた時の恐怖に抗える事が。お前は、それでも自分が正しいと、前に進み続ける事が出来るのか?」
全ては自分が辿って来た軌跡。相田はアインに問い聞かせた。




