⑫相田、怒りの鉄拳
「戦友として、か?」
「………はっ。俺がそんな恰好の良い人間に見えるってか? 魔王が随分と人間らしい口を開くじゃねぇ
か」
真面目な答えをセルに笑われる。
「そんなんじゃねぇよ。ただ、最後の個人的な嫌がらせって奴だ」
「………嫌がらせ」
相田の繰り返しに、セルがもう一度同じ言葉を口にする。
「あぁ、嫌がらせだ。何も知らない人間を英雄だ何だと持ち上げておきながら、最後は実験材料だ何だとこき使い、用が済んだら簡単に捨てやがる。そんな奴が歯ぎしりしながら悔しがる顔を作ってやりてぇのさ」
セルの言葉の半分も理解できなかった。
「誰だ? パーカス王か?」
「一人は、と言っておこうか。だが、それ以上はあんたが知る必要はねぇ。この世界の魔王様如きじゃ絶対に理解できねぇ世界が、ここにも向こうにもあるのさ」
「………そうか」
全てを話すつもりがないと悟った相田が、適当に会話を打ち切る。
相田は一度だけ拳を強く握ってから緩め、再び視線をリコルに戻した。
「勇者をクビになったのは本当のようだな」
リコルからは完全に生気が抜けていた。瞬きも呼吸もしている。だが、目の前の男の中には何も入っていなかった。
相田はさらに数歩進み、マキの亡骸の前に立つ。
遺体となって既に何日も経っているにもかかわらず、皮膚の変色も異臭もない。彼女の体はまるで寝ているかのように自然体で、命を失った人間の形ではなかった。
不思議だ。そう相田が呟こうとした。
『大将、ちょっといいか?』「どわっ!」
突然、頭の中で低音でが響き渡り、久々の声に相田が驚く。
「お前………時と場所を考えろ。ここでその声は、心臓に悪い」
相田は驚く周囲の反応を気にしながら腰の剣を何度も小突き、小声で文句を返す。
『かっかっか。地下室で死体を前に、随分としゃれた声だったろう? がはははは』
『それよりもだ、大将。兄者の話を聞いてやってくれ』
自分にしか聞こえていないと分かりつつも、静かな部屋で不愛想な大声に戸惑いを隠せない。相田は右手で気まずそうに頭を搔くと溜息をつき、双子竜の言葉を待った。
『実はな………その娘の魂は俺様が持っているのだっ、ぐほあぁぁぁぁ!』
『兄者ぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
剣の中で兄のラハームが巨大な拳に殴られていた。
「んあぁ………すまん。まさか本当に殴れるとは」
強く握っていた鞘から手を離し、相田は小声で謝る。
『何て奴だ………精神体の俺達に一発食らわすとは。がは、がはははは』




