③戦わない道
最終的に王国騎士団の了承が必要だと前置きしつつ、相田が具体的な方針を口にする。
「外から攻めるだけの余力はない。ならば、内部から敵を崩す事が肝要だ」
城を外から攻めるのは下策、内部や敵の心を攻めるのが上策という兵法を相田は皆に説明する。魔王軍という他部族が一糸乱れずに連携できる高度な戦術は、未だ確立されていない。それでも、相田がこれまで読んできた物語から実行した有翼人を用いた空挺戦術は、この世界の人間達にとって想像されなかった戦い方だった。
「ベルゲンは有翼人族と、クルマンは小鬼族と協議し、空挺に参加する人選と当日までの慣熟訓練を指揮してくれ」
「承知しました」
「了解しましたじー」
名を呼ばれた二人が、小さく頭を下げる。
「だが、此の策はあくまでも第二案だ」
そこで先程の話になると、相田は一旦口を閉じる。
「余は王都に潜入し、発言力のある者と接触、王国内で停戦を提案させるよう提言するつもりだ」
―――戦わずして勝つ。
これは全ての戦いにおいて上策である事を相田は力説する。その上で、両軍の損害がこれ以上増える事なく、尚且つ短期間で戦争を終わらせられる利点がある事を訴えた。
「危険な事は重々承知。故に、皆の声は当然であり、嬉しくも思う」
周囲の意見を可能な限り拾うが、それでも主君の身を案じて発言する者達が絶えなかった。また無謀である事を素直に具申する者さえいた。
だが、相田は多少の無理を言って通す。魔王と崇める者達からすれば、それ以上言葉を出す訳にもいかず、全員の意見が止む。
「そこまで仰るのであれば、我々はそれ以上何も言う事はありません。御心のままに従いましょう」
シュタインが全員を代表して、締め括った。
そして話題を変える。
「魔王様。王都までの道のりに大きな街が一つありますが、占領後は物資の集積場をそちらに移転なされますか?」
補給線が王都から近くなれば、運搬にかかる負担を軽減出来る。常道として考えるならば、次の街を補給地として活用する運びになる。
だが相田は静かに首を左右に振った。
そして撤退となった場合、と言いそうになった口の上に指を乗せ、すぐに言い換える。
「いや、王都に近すぎる場所では我々の目を反らそうと、敵の別動隊が補給地を襲う場合があろう。距離が長くなる事は止むを得ないが、これまで通りここから物資を運ぶ事にする」
補給地としては既に十分稼働しており、残った住民も落ち着機を取り戻している。相田は、ガーネットや有翼人族の一部を輜重要員として編入させ、定期的な空輸で対応する方針を定めた。
「承知しました。移動しつつ、部隊の編成を行います」
シュタインも特に反対する事なく、話が終わる。
それ以降は特に大きな意見もなく、朝議は解散となった。




