②不足し始める戦力
―――翌朝。
「………今、何とおっしゃいましたか?」
シュタインの軍師着任、現状の共有、そして出発に関する伝達事項が幹部達に伝えられた後、相田は自分の考えを短く伝えた。
その言葉に、一度も相談を受けていなかったシュタインは、目を大きくさせて思わず相田の言葉を聞き返す。他の者達も誰もが自分の耳を疑い、隣同士で否定的な言葉が交換されていた。唯一知っていたコルティですら、相田の傍で直立しつつも、目を閉じ、唇を噛んだまま表情を固めている。
周囲の反応は予想していたが、相田は揺らぐ事なく、もう一度自分の考えを伝え直す。
「今一度、カデリア王国の王都に赴こうと思う」
「危険です!」
「そうです、敵の中心で御座いますぞ!」
次々と王を心配する声が上がったが、当の相田は一言一言に頷くだけに留めた。
シュタインが、一方的な声を止めようと強めに咳を払う。
「………魔王様、せめて理由をお聞かせ願いませんか。皆、一様に動揺しております」
彼の言葉がもつ意味に相田も理解し、当然だと周囲を一瞥してから話し始める。
「朝議の初めに戻るが………先の会戦で潰走したカデリア王国軍、さらに断片的な情報だけだが、北方や東方に配備されていた戦力も、続々と王都ブレイダスへと集まっている」
塵も積もれば何とやら。加えて、近くの街々から警備の兵士やギルドから冒険者達を根こそぎかき集めた場合、魔王軍の戦力よりも遥かに多くの戦力が集結する事になる。
ウィンフォス王国との戦いで少なからず被害を受けて敗退し、さらにシモノフの大関所での戦いでも大損害を被ったにも関わらず、先の会戦では魔王軍相手に同数の兵を用意してきた事実に、相田は今後の戦いについて楽観すべきではないと、淡々と述べた。
そして足元に広げられたままになっている地図。その上に置かれた木製の駒を指揮棒で示しながら、相田は最終目的地であるカデリア王国の王都ブレイダスを先端で叩く。
「対するこちらは既に一万を下回っている。ロデリウス達の王国騎士団は二千前後。そして城攻めの基本は三倍の数を用意する事だ………いくら敗北続きとはいえ、王都を守る数が五千に満たないとは考え辛い」
王都周辺まで移動し、ロデリウス達と合流してからも同じ話になる。その頃には、相手の戦力が判明するだろうが、どちらにせよ相手の数を楽観視すべきではない。ロデリウス自身も、予測しているだろうが、相田は相田で、自分に、自分達に出来る事を考える必要があった。
反論の声が上がらない。上がる前に相田が説明を続ける。
「加えて、敵は焦土戦術によって各街の物資を根こそぎ王都へと集めている。こちらも偽旗作戦でいくつかの街から物資を徴収する事に成功しているが、それでも王都には相当量の物資が集められていると考えるべきだ」
現時点で、王都の物資が一、二か月で尽きるかは分からない。逆に魔王軍の物資は、もって二か月分あるかどうかの量だと説く。仮に『厳冬の節』が到来する限界点で勝利した場合、帰路に必要な物資はない。それは、ここに参加している者達ならば周知の事実である。
そして敵の王都到達までに、もう一つ大きな街を突破する事も考えなければならなかった。
故に、単純な城攻めに任せる事は、非常に危険だと言わざるを得ないという結論に達する。




