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⑤大魔王の軌跡

「お父さん………お父さんかぁ」

 今では慣れたが、コルティの『御主人様』も相当な恥ずかしさだった。メイド喫茶に行く猛者達は、よくこの言葉に耐えられると感心した程だったが、相田を父と呼ぶケリケラの呼び方もまた斬新でかつ、大きな違和感から逃れられない。 

 他に呼ばせる表現はないものかと、相田はコルティの表情を覗く。

「御主人様は、私達(バステト)の呼び方ですので」

 口を隠しながら上品にしかし、畏怖を込めて小さく笑う。

 次にフォーネを見る。

「ししょーは、私のししょーですから!」

 ない胸を張って自慢気に鼻息を荒くする。

「成程」

 適当に流し、相田は二人からの助言を諦めた。


「しかし………別にその呼び方でなくとも、魔王とか………いや、そもそも名前で呼んで良いんだぞ?」

「いやです」

 ケリケラに即答される。

 彼女は首に掛けられていたネックレスを器用に翼の羽先と口で引っ張ると、シャツの中から大きな翠玉(エメラルド)が姿を現した。

「ボクはお父さんの力で生まれ変わったんだ。あのまま地下の暗闇で野垂れ死ぬ所を、光ある大地と青い空に出してもらった。ううん、それだけじゃない。崩れかけていたボクの心も、尽き欠けていた魔力も、みんな元に戻してくれた! そんな大切な人を特別の名前で、父と呼ぶのは当然だと思うんだ!」

 片翼を胸の前に当て、ケリケラは真剣にそして誇りをもって語っていた。

「………分かった。分かった。好きに呼びなさい」

 相田は色々な意味で諦めた。

 一日は、まだ始まったばかりである。


 

 相田は街を越えた先にある本陣へと向かった。

 戦場だった橋を抜けた先、元々はカデリア王国軍の後方陣地であった場所に、魔王軍は新しい陣を張り直していた。今は、街の物資と鹵獲した物資を馬車に積み込み、出発の態勢を進めている。

 その本陣の中。左右の木簡の山に体を挟まれつつも、それを的確に優先度の高い物から処理していた老齢な蜥蜴亜人(リザード)族のシュタインは、相田が天幕(テント)に入って来る事に気付くや椅子から勢いよく立ち上がり、その場で頭を下げた。


「はい。彼女が魔王様の腰袋(ポシェット)に入っていた宝石から現れなかったら、もっと多くの同胞達が力尽きていた事は間違いありません」

 相田の意識が戻った事に一通り喜び、その上で相田からの質問に淡々と事実を語る。

 シュタインは、カデリア王国軍が潰走してからすぐに負傷兵の救護を優先する事を指示した。しかし、同数相手の敵と正面から戦った為、いかに屈強な猪亜人(オーク)であっても、分厚い皮膚を貫かれ、内臓に達する程に斬られていた。空高く飛んでいた有翼人(バードマン)ですら、矢で翼を射抜かれ、数千を超える者達が、二度と戦えない姿であったという。

 その数の多さに、回復魔法が扱える者達だけでは対処しきれない状態だった。


「そこで、ボクの体が丁度完治して、宝石から出て来れたんだ」

 相田の隣で翼を器用に羽ばたかせて同じ位置で浮いているケリケラの言葉にシュタインも頷く。

「えぇ。そして魔王様………いえ、『大魔王』様がケリケラと何度か話をされると、すぐに大魔王様は傷付いた者達を一カ所に集めるように指示されました」

「ボクの力はね、風の力で皆の魔法を強化できるんだ。だから、大魔王様はコルティ達親衛隊の皆と、回復魔法が使える人達を一緒に集めて、一斉に治療させたんだよ」

「魔法効果増幅と全体回復魔法か。聞くだけなら単純な話だが………まぁ、何というか」

 魔王が回復手段をもつ事は反則級だが、これまでの作品で居なかった訳ではない。大魔王達の魔法で明日をも知れぬ者達が一斉に完治し、次々と起き上がっていくのである。想像するだけで、さぞ奇跡の光景だったのだろうと相田が受け止める。

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