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プロローグ

はじめまして、福平木おつゆです。


この作品が処女作なので拙いところもあると思いますが、温かく見守ってくれると嬉しいです。


 この世界には、昔人間に豊かな恩恵を与えていた『精霊』という存在がいる。



 精霊。彼らは植物から成り、特別な力を持っていた。その力を使い、彼らは大地を癒し、自然を満たし、人間に特別な力を貸し与えていた。


 対して人間は精霊よりも遥かに脆く短命で、だからこそ精霊には生み出せないものを次々と実現させ、クルクルと目が回ってしまいそうなほどに興味深いものを作ってきた。


 それは悠久を生きる精霊にとって何よりの娯楽であり、人を愛するに充分値する生き様だった。


 精霊は、人が好きだった。


 だから精霊が手を差し伸べるという形で、人と精霊の共生は始まった。


 人は精霊に新しさを提供し、精霊は人に力を授ける。時に協力し、時に盃を交し、時に別れを悼む。そうして人と精霊は共存していたのだ。


 だが、やはり人間達の命は短かった。愛した人間には子供が生まれ、親となったその人間は瞬く間に老いてある日突然いなくなった。そうして次々と代替わりしていく人間達に、精霊は少しの寂しさを感じていた。


 そんな日々を過ごしていく内に、精霊と人間の関係はより親密になっていった。それは人間が精霊の力を当たり前だと勘違いしてしまうほどに長い時間を経た結果であり、人が傲慢になる大きな要因となってしまった。

 精霊との繋がりが強固になればなるほど、人の世界は繁栄していった。精霊の力を用いて自分達の欲のまま、際限なく様々な物を作り出した。



 そして、その果てに人間は成した。成してしまった。人間と精霊の仲に深い亀裂を刻むほどのものを、生み出してしまった。



 人はそれを『産業革命』と呼んだ。産業革命によって生まれた『霊核機関』という技術により、精霊の根幹と言える植物に含まれる精霊の核を材料に、精霊の力と同等、あるいはそれ以上のエネルギーを作り出すことができるようになったのだ。


 人は欲に目が眩んだ。目先の所有欲に囚われ、ずっと支えてくれていた精霊たちを消滅させてしまうことを顧みずに、木々の伐採を始めた。


 精霊は怒り狂った。そして同時に、楽しい時を共にしてきた人間の唐突な裏切りに、何故だと、やめてくれと悲しんだ。


 だが精霊が嘆いても、人は何も変わらなかった。

 まるで声が届かなくなったのかのように、人には何も響いていなかった。


 次第に、悲しみは怒りに、愛は憎しみに変わった。

 精霊主(せいれいしゅ)を筆頭に、精霊は人間の蛮行を暴力で沈めていった。


 人は精霊の暴行に驚き、そして自分達の行いを正当化するかのように一層伐採に励み出した。そうして、自分達の居場所を守るために戦った。



 これが、精霊と人間の長い戦いの始まり。今も尚続いている、悲しみしか生まない悲劇。





 そして、この悲劇の中を生きる一輪の精霊がいた。


 彼女は精霊の中でも秀でた力を持つ精霊六花(せいれいりっか)の一輪。処刑の仕事を与えられ、人殺しを強制されながらも、殺しを嫌った精霊だった。


 本来の彼女は美しく残酷なまでに深紅の花弁を携えた、物静かで愛情深い椿の精霊で、故に彼女の心には戦いが始まって尚、仲間達やかつて愛した人間と共に過ごした日々が色濃く残っていた。


 彼女はまた昔と同じ日々を過ごすために、敵味方関係なく和平を望んだ。


 しかし、それに応える者はいなかった。


 戦に声は届かない。例え戦の中心にいる者の声だとしても、それは戦いの猛りに殺される。

「もう、殺したくない」と、「彼と平和に暮らしたい」と懸命に光るささやかな願望なんて、草むらに生えた小さな花のように、気付かれぬまま潰されてしまったのだ。


 どれだけ懸命に働きかけても終わらない戦いに、彼女は日に日に憔悴していった。苦しみに心を縛られ、戦うことで冷めていく。


 そんな彼女をいつも慰め、協力してくれた精霊がいた。彼は椿と同じ精霊六花であり、花菖蒲を司る精霊だった。


 彼と椿の精霊は互いに想い合う関係であり、彼女にとって彼はなくてはならない存在だった。

 彼がいるから、彼女は何度折れても立ち上がることができた。昔を描いて希望を持つことができたのだ。



 だがそれは、彼がいないと崩れ落ちる脆い状態であることと同義だった。



 花菖蒲は殺された。戦争に乗じて、霊核機関によって花菖蒲の核から力を抜き取られてしまった。


 力を抽出され、空の核となった彼を見て、核に触れて、抱きしめて、そうして初めて、椿の精霊は自分が泣いていることに気がついた。心が荒れ狂い、冷え込んでいるのを感じた。


 花菖蒲の核が完全な状態で残っていれば、すぐに彼の復活を実現できた。しかし無理矢理力を抽出された核は酷く損傷しており、どれくらいで復活するのか椿の精霊にはわからなかった。


 椿の精霊は嘆いた。愛する者を失い、それでも尚戦場に駆り出され、殺しを強制させられる。そんな現実を前に、戦う意味はあるのかと、ある時彼女は主に叫んだ。けれど、叫んでも彼女自身の存在意義を果たせと諭されるばかりで戦いは終わらない。訴えても訴えても、自分の手が血に染るだけの暗い日々。


 彼女は真の意味で絶望した。仲間が死んでいく以外に何も変わらない現実を生きることに疲れてしまった。



 だから、彼女は守護者を生み出した。それは守護の意を冠する『夜叉』の名を持つ、一振の刀。

 椿が自分の核を願いと共に刀に埋め込み、自分という存在を犠牲にして、唯一無二の最高傑作を作り出したのだ。


 それはただ、自分の傷ついた心を守るためであり、自分の最高の理解者を得るため。そしていつの日にか、失った彼を取り戻し、戦のない幸せを送るために。


 彼女は夜叉を作り出し、夜叉の中で眠りについた。また彼と出会う未来を描いて、安堵の息を一つこぼし、意識を手放した。



 精霊と入れ替わるようにして自我を得た夜叉は、自らを生み出した半身の傷ついた心を見て彼女の願いを叶えることを固く誓った。



 それから夜叉は自らの使い手を導き、戦争の終結を目指して果てなき旅を続けることになる。




 今、悲劇の中を生きる一振の夜叉がいる。

 それは椿の精霊によって生み出された、椿の守刀。

 名を、夜叉椿(やしゃつばき)という。


 これは、愛する者達の願いを叶えるために、地獄に立ち向かう刀の旅路の記録。

 そしてここからは、夜叉椿が過ごした長い長い時間の中でほんの少しにしか満たない、一瞬で、でも充実した、ようやく見つけた彼との二人旅の記録でもある。


 


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