壊れたバレッタと雨の日の出会い
「申し訳ございません!」
“説明”を聞いた私は、ただただ平謝りしていた。
「いや、俺も“ややこしい状態”にしたのが悪かったから。あとコレ」
「私のバレッタ」
「ホテルのテーブルに忘れてあった」
「……ありがとう」
私は如月綾人から、色とりどりのアネモネの押し花のバレッタを受けとる。
「…あ」
「どうした?」
「……バレッタにヒビが」
「えっ、マジ!?」
驚愕した如月綾人は、私の手の中にあるバレッタを見つめる。
ホテルの暗がりの中では気付かなかったが、付けて寝ていた時にヒビが入ってしまったようだ。
「あぁ“お気に入り”のバレッタだよな?外せば良かった。…すみません」
「…もう。コレは付けないから……」
如月綾人はとても申し訳なさそうな顔をしている。
私は眉毛を八の字にして、気にしないでと、ふるふると頭を横に降る。
「いつも付けていたから、お気に入りのバレッタじゃ…」
「…ー真樹に、元彼に貰ったものなので…もう…」
私と真樹は高校が一緒で、高校1年生の頃、友人達とした“王様ゲーム”で、お互いに“好意”があると知っていた王様の“命令”が切っ掛けで付き合いはじめた。
付き合いはじめて“最初”の私の“誕生日プレゼント”だった。
「……先輩」
「…ありが…とう」
気が付くと私は泣いていた。
眉毛を八の字にした、切なそうな如月綾人が青いチェックのハンカチを私に差し出す。私はハンカチを受け取り涙を拭う。
私達が『flos odor』に来てから、2時間ほど過ぎた。
「……落ち着いたか?」
私はハンカチで目元を拭いながら、一回だけ静かに頷く。
如月綾人はカチャと、白い湯気がたっている白いカップとソーサーを私の前に置く。
私は薄黄緑色の温かい飲み物を飲むと、カモミールティーだった。じんわりと身体の中に染み渡っていく。
「……今回は…何から何までお世話になりました」
「“昨日”の“今日”じゃ、仕方ないだろ」
「知って?」
「兄さんから聞いた」
「…そっか」
言っていないのにどうして?そう思ったけれど、マスターに話していた事を思い出す。
「それから、これは返す」
「…1万5千円?」
「先輩がホテルの部屋に置いていったお金」
「でもホテルとクリーニング代が…」
さんざん“迷惑”をかけた上に、お金を“一切出さない”ことは出来ない。
私は5千円だけ受け取ると、1万円を如月綾人に差し出す。
「今回の迷惑料とホテ「や、多すぎっ!そんなにかかっていない。それにお金は大丈夫だから、気にしないで下さいっ」
「流石にそれは出来ないよっ!」
「……3千円だけ受け取ります」
「………」
私は納得しない顔で如月綾人を見つめる。
如月綾人は観念したように右手で頭をかいて、
「…ホテルとクリーニング代合わせて6千円で、俺も泊まったから折半で」
「……迷惑料は?」
「“迷惑”はかけられてないから」
泥酔状態の介抱、嘔吐の始末、ホテルとクリーニングの手配等、私は“昨夜”起きた事を思い返す。
いや、思い切り“迷惑”かけてるだろう。
「納得…していないですね。…どうすっかな」
「そうだ。私も土日、お店を手伝うのはどう?」
「……それは兄さんの“ご褒美”だな。“俺”は“嫌”だな」
「じゃ、どうしよう」
「…………………おのさぁ、引かないで聞いて欲しいんだけどさ」
「へ?」
如月綾人がすっごく長ーーい間で前置きする。
「…………………LINEのID教えてくんね?」
「んん?LINEって無料通話アプリのLINEだよね!?」
“LINE”はそれ以外はないんだが、なんで!?と、混乱で問い返してしまった。
「それは…そのー……つ、つまり…だな…」
耳まで真っ赤な如月綾人は俯いて、しどろもどろになって、
「あのな…つまり…その…そういうことだ!?」
最後は勢いだけで言い切る。
そういうことだ!?って、どういうこと?
「ああ、やっぱり分かってねぇ」
いや、分かってねぇって頭抱えて俯かれても、はっきり言ってくれないと分からないし、何で顔真っ赤なの!?
「あっ」
“如月綾人”は私に“ほの字”らしい、私はその“結論”にたどり着き、顔が真っ赤になるが、
「…私に…そのー…“恋愛感情”持ってる?」
勘違いの可能性もあるので、めっちゃ恥ずかしいけど念のため確認する。
こくこくと如月綾人はテーブルに突っ伏したまま頷く。
まじかと思ったけれど、私には好意を持たれるほど“接点”があった“記憶”がない。
「ちょ、ちょっと待って、何で“私”なの?」
「……一昨年の梅雨だったか?ちょうどその頃の雨の日の夕方、ここに来るのに大学の近く通って」
※如月綾人視点
俺は高校のエンブレムが胸元に入った濃紺のジャケットの制服を着て、スカイブルーの大きな傘をさして大学近くのアパートの前を通りかけた時、何処からか『みゃーみゃー』と鳴き声が聞こえてきた。
「この箱から聞こえるな」
電柱の真下にある、蓋が折り重なるように閉められた、みかん箱から鳴き声が聞こえてくる。
俺は座り込み、みかん箱の蓋をガサゴソと開ける。中を覗くと2匹の白と黒の仔猫が、寒さで弱りながら『みゃーみゃー』と鳴いていた。
「ああー、捨て猫かぁ。アパートだから飼えないんだよな。どうすっかな」
俺は濃紺のチェックの制服のズボンのポケットから、スマホを取り出しポチポチと操作する。
スマホを耳にあてるとプルル〜と呼び出し音が聞こえる。
「隼人、お願いがあるんだけださ」
俺が友人と通話している時、アパートの階段を白いカットソーと深緑色の膝上丈のフレアスカートに、黒の靴下とスニーカーを履いた女性が降りてきた。
※風間彩加視点
「あぁ!」
ここまで聞いて思い出した。
「“白玉”と“黒ごま”を拾った高校生?」
「……やっと思い出してくれた」
如月綾人はほっとしたように微笑む。
私はあの時の高校生かぁと、そう思いながら盗み見て、実家で飼っている白玉と黒ごまを拾った日を思い返す。
「あ~あ~、今日も雨かぁ。これから出掛けなきゃいけないのに」
私は髪を色とりどりのアネモネの押し花のバレッタでハーフアップに結い上げ、借りているアパートの部屋の窓から外を眺める。
「戸締まりはしたし、お母さん達そろそろ着くかな」
今日は隣県に住んでいる両親が、こっちに住んでいる親戚の用事を終えた後に、夕食を一緒にする約束をしていた。
駅前じゃなくアパートまで向かえに来てくれたらいいのに、そう愚痴りながらアパート階段を降りると、電柱の所にだれかが座り込んでいた。
何あれ、高校生?そう思いながら、クリーム色の花柄の傘をさして、座り込んでいる高校生の横を通りすぎる。
「そっか、ダメか…」
スマホで通話していた高校生の言葉と弱々しく『みゃーみゃー』と鳴き声が聞こえ、私はピタッと立ち止まり高校生の方へ振り向く。
通話を終えた高校生はスマホを操作して電話を掛ける。
「和也、俺だけどさ。実は捨て猫見つけて、俺ん家アパートだから飼えなくて、和也の家で飼えたりしないか?」
そっか、おばさん猫アレルギーで無理なんだなと、高校生がつぶやいた時、私の足は無意識に動いていた。
「他当たるから、気にすんな」
そう言って高校生が通話を終えた時、
「ねぇ、どうしたの?」
思わず声をかけた私を、座り込んでスマホを操作していた高校生が見上げる。
「…ーっ」
高校生がみかん箱を抱えて立ち上がり、私を見つめたままカチンコチンに固まる。
スカイブルーの大きな傘で高校生の顔が隠れてしまって私からは首から下の部分しか見えない。
「あの、どうしたの?」
「え、あっ、す、すみません」
私の再度の質問に高校生は慌てて、みかん箱の中を見せる。
みゃーみゃーと弱々しく鳴く、白と黒の2匹の仔猫が震えていた。
この仔猫が、私のスマホの待ち受け画面になっている白猫の“白玉”と、黒猫の“黒ごま”だった。
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