挙動不審な彩加と過ちの真実
私はベルが鳴らないようカフェバー『flos odor』の中を伺いながら、そろりそろ~りドアを開ける。…が、無駄な抵抗で…カラン…カラ…ンと、控えめな音が正午過ぎの店内に響いた。
「いらっしゃいませぇ」
「…こ、こん…にちは、ますまぁ」
「あら、彩香ちゃん。どうしたのぅ?」
「えっ、えーと…ますまぁ…弟さんは…居ますかぁー?」
「綾人?あの子はいないわよ」
「そ…ですか」
私は“過ち相手?”の如月綾人の不在を確認すると、ほっと安堵して、店内におずおずと入り、カウンター席にやって来る。
「あら、今日は髪を下ろしてるのね。いつも纏めてあるから珍しいわ」
「……そ、そう…ですね…」
「?」
あまりにも“挙動不審”な私に“如月綾人の兄”おねぇマスターは右頬に右手をあてて、左手を右肘に添えて、頭を傾げている。
「綾人がどうかしたかしら?」
「………」
「まさか、あの子、とうとう、告」
顔を真っ赤にして言い淀む私に、何かを察したマスターの声と、ドアのベルの音が重なり“最後”の部分が聞き取れなかった。
「やっと見つけた」
「…ーっ!」
ぜぇはぁと息を乱し、一番会いたくない人が私の後ろに居る。
私の身体は石のように固まり“過ち?”から逃げた“負い目”から、怖くて振り向けない。如月綾人は私の腕をがっしり掴み、
「兄さん。俺『ダブルローストベーグル、ランチ』で『食後アイスルイボ』風間先輩は“ランチ”どうしますか?」
「へ?」
「“話”があるんで、お昼もついでに」
「………ベーコンとたまご添えスフレパンケーキのランチセットで、ドリンクがアイスカフェラテで、食後に…」
あまりにも“真剣”な顔の如月綾人に、私は逃げれないと悟り、時間もかかるだろうから軽食ではなく、しっかり食べようとミニサラダ付きの“ランチセット”を頼んだ。
「……かしこまりましたぁ。席はどこがいいかしらぁ?」
「兄さん“奥”借りてもいいか?」
「……ほんとは…ディナーの“予約”のお客様だけ、だけれども仕方ないわね、今回だけ特別よぉ」
「サンキュ。埋め合わせは今度な」
「じゃ。今度の土日、ディナータイムだけ出てちょうだい」
「了解」
私達に“何か”を察したマスターは、日中の営業時間には利用していない、奥に4人ほど座れる個室が3席ある。
その個室の利用をあっさり許可し、ちゃっかり土日の戦力も確保していた。
トントン拍子で事がすすむ様子を見ていると、やっぱり兄弟だなと思ってしまう。
「出来上がったら、持っていくわ。…あと、頑張りなさいねぇ」
「っ!……兄さん、気付いて?」
「バレバレよぉ」
「?」
“何”を頑張るの?……マスターに“過ち?”バレてないよね?
仲が良い兄弟だからって、そこまで踏み込んだ“会話”しないよね?一人っ子だから分かんない~!
※彩香は“混乱”している。
「…ー先輩。風間先輩」
「へっ!?」
気が付いたら、奥の個室に来ていた。
如月綾人は申し訳なさそうに“私”を見つめる。
「その“昨夜”のこ「失礼しまぁす。お待たせしましたぁ!…あら、邪魔しちゃったかしら?」
マスターは項垂れる弟を見て申し訳無さそうに問いかける。その“申し訳なさそうな顔”が、二人ともよく似ている。
「「………」…いや、切り出すタイミングが悪かっただけ」
「悪いことしちゃったわねぇ。はい、彩香ちゃん。ベーコンとたまご添えスフレパンケーキよ。綾人はダブル炭火焼きローストビーフベーグルサンドね」
マスターは私達の前にそれぞれの食事を急いでセッテングする。
“表”からカランッカランッ!とベルの音が鳴り、お客様の来店を報せる。
「あら、お客様だわ。いらっしゃいませぇ」
「やぁ、マスター。いつものよろしく」
「ブレンドコーヒーですねぇ。かしこまりましたぁ」
マスターは急いで“表”のカウンターへ戻るとお客様の相手をする。先程までの賑やかだった、私達が居る個室はしーんと静まり返っていた。
「…………“昨夜“の…こと…だけど…」
「あー…、先にお昼にしよっか」
今度は私から、おずおずしながら“昨夜”の事を切り出すと、如月綾人は歯切れ悪く昼食を優先する。
まぁ、食事しながら“過ち?”の話しても、美味しい料理を楽しめないけど、黙々食べるのもなぁと思いながら私はフォークにベーコンとスフレパンケーキをさして口へ運ぶ。
「美味しいぃ!」
ベーコンはカリカリで香ばしく、スフレパンケーキは
甘さ控えめで生地がとてもふわふわだ!、いつも通りの“美味しさ”で、私はいつもの感想をいつもの癖で呟く。
「兄さんの料理は“賄い”も美味しいぞ」
「はじめて“会った時”に食べていたよね?」
「……あぁぁ、やっぱ“覚えてねぇかぁ”」
如月綾人は通常の量より、二倍のローストビーフが入っている、ベーグルサンドを頬張りかけていたが、私の“言葉”を聞いて、ピクッと反応してガックリする。
「???」
「まぁ、そうだよなぁ」
「…どっかで、会ったけ?」
「………一昨年」
「一昨年?」
一昨年、…一昨年って私が19歳で大学一年、如月綾人はまだ高校三年生の18歳だよね?
高校生と大学生って接点なさそうだけど、あっ!でも、その頃から『flos odor』に来ていたから、此処で出会ってた??
食事を終えた私は食後のアイスカフェラテにガムシロップを入れ、ストローでかき混ぜる。氷がカランカラン音をたてる。
チラッと如月綾人を見ると、透き通った赤茶色のアイスルイボスティーをストローで飲んでいる。
「…その“昨夜“ですが、まだ学生だけど私は、もう21歳です。酔ってて記憶はないけど…私にも“落ち度”はあるので、今回の過ちはなかったことでお願いします!」
私は“表”に聞こえないよう、小声で捲し立て、勢いよく頭を下げる。
「してない!」
「ふへぇ?」
「あー、やっぱ、誤解してたかっ!だよな、あの“状況”じゃするよな」
「へ?してない??」
今度は如月綾人が小声で捲し立て、私はきょとんとする。
じゃ、何でホテルの同じベッドで寝てたの??
「兄さんに頼まれて送ってた時ー…」
如月綾人は“昨夜”の“真相”を語りはじめて。
※如月綾人視点
『…ー輩。風間先輩、大丈夫ですか?』
『うぃ、ひっく。へ?』
『……駄目だな。タクシー捕まえるか』
『うぅー…』
『先輩?』
『吐くぅー『えっ!ちょっ、ちょっと待って、ここじゃ』
『うぅ『だから駄目だって!せんぱぁい!!』
なんとか路上の“大惨事”を防いで、公園のトイレに駆け込んだが、
『すみません、風間先輩。ワンピがゲロで汚れたんで触れます』
『ううぅ』
公園のベンチに二人で座り、俺は濡れタオルケットで風間先輩の、七分丈の山吹色のワンピースの汚れを落としていくが、先輩は酔っぱらっていて上半身がふらふらと左右に動く。
『じっとしてて』
『ううん』
『落ちたか。俺、水道に行くんで、動かないで下さいね』
ベンチから二、三歩の所にある水道に行くだけだが、かなり泥酔してるので、注意してから離れる。
俺はゲロがついた自分の黒いカーディガンと七分丈の白いシャツを脱いで、上半身がグレーのタンクトップだけの姿になる。
水道の蛇口をひねり、バシャバシャとカーディガンとシャツについたゲロを落とす。
『まだ、匂うな』
俺は水を絞り、微かにゲロの匂いが漂うカーディガンとシャツを見つめる。
先輩のワンピは、流石に脱がせられず拭いただけなので、ぷんぷんとゲロの匂いが漂っている。これ以上はどうしようもないので、
『歩けますか?』
『うー』
俺はかくんと頷いた先輩を引きずって、自分の濡れた服を手に持って道路に向かう。
『兄ちゃん、ダメダメ!』
『そこをなんとかなりませんか?』
『吐かれたら、匂いが取れるまで“客乗せれない”から無理だよ!』
『…そう…ですか』
『悪いね。他も同じだから歩くしかねぇけど、姉ちゃんは無理そうだな。ここ曲がった角に“ホテル”があるから、そこ“泊まりな”』
『は?』
『姉ちゃんと幸せになぁ』
俺達を“カップル同士”だと、勘違いしたタクシーのおじさんは、お客を乗せて去って行く。
教えられたホテルまでやって来て“サービス”の内容を確認する。
“クリーニング”もあるし、さっきまで騒いでいた先輩は熟睡していた。
『あー…これ以上は無理か』
早くゲロの匂いもどうにかしたかった。先輩より早く起きて“説明”すれば問題ないだろうとホテルに入る。
ホテルの受付のお姉さんとお兄さんは“匂い”で、全てを察してくれて、クリーニングの手配や、受付のお姉さんは先輩のワンピを脱がすのを手伝ってくれた。
…ー眠い。ウトウトしながら俺は時計を確認する。時刻は既に深夜0時を過ぎていた。
『…ー先輩より、先に起きればいいか』
この時、俺のタンクトップも一緒にクリーニングにだしてホテルのパジャマを着れば良かったが、眠気に勝てなかった俺は上半身、裸のまま寝過ごして“冒頭”の“誤解”に繋がった。
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