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最終話 終わりなき幸せ

 国王は宰相に言われた事をよく考え、自分を常に支えてくれている妻に相談し、次代を継ぐ息子である王太子にも相談し、それからエメリーヌ本人に告げた。


「だから、これからは徐々に公務を減らし、丁度成人する年には完全に表に出なくても怪しまれないようにしようと思う」


 そう言った途端、ぎゅっと抱き着いて来た娘をそっと抱き返した。

 大きくなったなと、自分の腕の中にいる娘を見下ろしながら思う。


「ありがとう父様。ありがとう」


 そう言って泣きながら笑う娘の頭を何度も何度も撫でた。

 綺麗な緑色のリボンがとても良く似合っていて、娘の栗色の髪を綺麗に彩っているそのリボンを満足して見降ろしていた。


「王女としての役目を放棄する事、とても心苦しく思います」

「いいんだ。貴族と縁付いた所で不和の元となるかもしれないし、だからと言って他国など更に危険になりかねなくてな」

「それでも、とても申し訳なく思うわ」

「大丈夫、今まで魔導士として国に貢献して来たじゃないか」


 そうして国王が決断した事で、第二王女エメリーヌは再び表舞台から遠ざかり始めた。やがて病が再発したらしいと噂が流れ始めると、あっと言う間に第二王女への求婚者が激減して行き、やがてそれも途絶えた。


 そんな中、リアンとエリンの仲は順調に育っており、リアンが王都へ遊びに来ると必ず国王夫妻と共に夕食を摂り、時に王太子殿下や第一王女殿下も混じり始め、リアンが自分の家族に受け入れられるのをエリンは嬉しく思いながら見つめている。


 会えない時間の方が長いけれど、それでもエドナと王都を行き来しながら二人は確実に距離を縮めて行った。


 エリンの十五の誕生日にはエドナからリアンがやって来て、誕生日の贈り物だと言って魔具をくれた。両手で軽く持てる重さで、可愛く色が付けられたその木箱は、その中身を一瞬にして対になる魔具へと転送させると言う。

 

「試してみて」

「うん」


 そうして木箱を二つ並べ、片方に自分の手袋を入れた後蓋を閉じ、リアンに教えてもらいながら魔石を操作する。

 すると木箱が一瞬光り、それが収まると今度は隣に置いた木箱が光った。


「こっちの木箱を開けてみて」

「このまま開けて良いの?」

「大丈夫だよ」


 そうして開けてみるとそこには、隣の木箱に入れたはずの自分の手袋が入っていた。驚いたエリンは自分が手袋を入れた木箱の蓋を開けて確かめたが、そこには何もなくなっている。


「……リアン」

「あの、これで手紙を送れるなって思って」

「リアン!やっぱりあなたは凄い人よ!素晴らしいわっ!」


 そう言って抱き着いたエリンに、リアンは笑いながらそっと抱き返した。


「ありがとう。エリンがいつもそう言ってくれるから、魔具を作るのがとても楽しいんだ。本当にありがとう」

「だって、本当の事だもの。リアンはやっぱり凄いわよ」


 そうして発表されたその魔具は、後世に残る大発明として有名になり、リアンは一躍時の人として注目を浴びた。貴族達から契約してくれと申し込みが殺到したが、エドナ辺境伯とすでに契約していると断ると、魔具師協会から圧力を掛けられた。

 しかし、それをエリンが許すはずもなく、魔具士協会はもう一度魔導士エリンからキツイ仕置きをされ、ついでのように他の魔導士達からも仕置きをされた。

 と言うのも、リアンがエリンの魔力石を持っているからで、これを放置してしまうと魔導士の魔力石の効力が意味を成さない物になるからだった。


 同時に、魔具士協会に圧力をかけた貴族達には、国王及び宰相からの言及があり、以来とても大人しくなった。


 リアンとエリンはそんな事とは全く関係なく、順調に愛を育んでいる。

 

「リアン、見てみて!」

「なになに?」


 エリンがニコニコしながら握っていた両手を突き出して来る。

 それをリアンも笑いながら見ていると、ゆっくりと両手を広げたエリンは、その手の中に水で花を作り出していた。


「うわあ……、すごいよエリン!とても綺麗だね」

「本当?それなら嬉しい。頑張って練習したのよ」

「液体を固定するって凄い事だよ。頑張ったね、エリン」


 そう言ってリアンが笑うと、エリンも嬉しそうに笑った後、両手の上の水の花を空に浮かせ、ぱっと霧状にして消した。消えて行く水を光らせ、それが中庭の花に掛かるのを二人で眺め、その後互いに見つめ合って笑い合う。


 見つめ合うだけで精一杯だった二人は今、互いに寄り添い合う事の出来る距離になっている。会う度に背が高くなって行くリアンは、エリンより頭一つ分大きくなったし、元々年上に見えていたエリンは益々女性らしく成長して来ている。

 互いにそれを眩しく思いながらも、そうして変わって行く相手を更に愛おしく思うのであった。


 リアンの十九の誕生日の贈り物に悩んだエリンは、ルイーズに相談する。


「何がいいかな、どうしよう?」

「んー……。また王都の店を覗きまくって来る?」

「それも、考えたんだけど、ね。あのね、リアンが魔具を贈ってくれたでしょう?」

「うん。物凄くリアンが有名になっちゃったあれね」

「うん、そう。それでね、私も色々考えたんだけど、魔術で何か作れないかなって」

「あー、ごめん。私魔術の方はからっきし解らないわ」

「そっか」


 ルイーズは魔力がほぼないので、魔術については本当にさっぱり解らない。偶にエリンが色々と教えてくれた事は知っているけれど、それだけなのだ。


「エリン、魔術で何かを作れるの?」

「うん、作れるんだけど。ええとね、例えば液体を固定する事が可能なんだけど、固定し続けないと駄目なんだ」

「ええと、要するに形の無い物に形を与えると駄目って事?」

「うん、そう」


 そう言われたルイーズは、色んな事を考えて行ったが元々魔術の事に関しては持っている知識が少ないのだ。駄目だ、お手上げだと考えを放棄する。


「エリンは、魔術で作った物を贈りたいの?」

「うーん……、出来ればそうしようかなと思ったんだけど」

「何かこう、エリンが手作りした物とかじゃ駄目なの?」

「…………手作り?」

「そう。例えば魔術を使うなら、ハンカチに魔術で刺繍するとかは駄目?」


 そうして顔を輝かせたエリンと、ほっと息を吐き出したルイーズは、今度は魔術で何が出来るかと話しを詰めて行き、結局ハンカチを三枚と、記憶転写と炎の術を組み合わせて使って、小さな木の板にリアンの家を描き出した。


「おおお、エリン、これ凄いよ!」

「え、本当?」

「うん、凄いよ。これきっと、リアンはすごく喜んでくれると思う」

「本当!?それなら嬉しい」


 そうして満面の笑みを浮かべたエリンは、もう一つの木の板に、ジルを描き出した。それを見たルイーズが一瞬で顔を赤らめる。


「私が知ってるジルさん。ルイーズの話をする時の顔」

「もう……、何この締まりのない顔」

「すっごく優しい顔してるでしょ」


 嬉しそうにそう言うエリンを、ルイーズは抱き締める。


「すごく嬉しいよエリン。ありがとう」

「どういたしまして。いつもお世話になってるお礼です」


 そうしてリアンの十九の誕生日には、皆でエドナに行ってリアンをお祝いした。


「ええと、これをリアンに」

「ありがとうエリン。開けても良い?」

「勿論」


 そうしてルイーズが言ったように、あの家が描かれた木の板を見たリアンはそれをじっと見つめたまま固まった後、本当に嬉しそうに笑いながらエリンを抱き締めた。


「ありがとう。すごく嬉しいよ」

「喜んでもらえて私も嬉しい。お誕生日おめでとう、リアン」

「ありがとう、エリン。本当にありがとう」


 この記憶転写の術はとても使い道があるとの事から、魔導士たちはこの術を使って犯罪者の捕縛に一役買う事になる。他人の記憶を読み取り、それを誰の目にも解りやすいよう転写する事で、犯人を間違える事が無くなったのだ。

 互いの誕生日の贈り物がそうして国の役に立つのならと、二人共快くその技術を提供した為、魔具士リアンと魔導士エリンは有名人になってしまった。


 そして、エリンの十六の誕生日にリアンが作り出した魔具が、さらに国内を騒がせる事となり、国王はリアンを王都へと呼び寄せた。と言うのも、このままエドナにいてはリアンの身が危険に晒されると踏んだからだ。

 リアンが作り出した魔具は、同時会話が可能である魔具で、遠くにいる相手にも声を届ける事が出来る物であったのだ。これはこのまま軍事転用できる物であり、国として守らなければならないと判断した為だ。


 国王お抱えの魔具士となったリアンは、国王から第二王女を賜った。

 これに反対する貴族はおらず、これ以降、エリンは堂々とリアンと会う事が出来るようになったのである。


「やっぱりリアンは凄いわ」

「ありがとう。僕はただ、エリンと離れていても声が聞けたらいいなと思っただけだったんだけどね」

「そう思っただけで作れちゃうんだもの。やっぱりリアンは凄いのよ」

「ありがとう、エリン。エリンがそう言ってくれるのが一番嬉しいよ」


 正式な婚約が交わされると、病に臥していた第二王女が回復の兆しを見せ始めたと噂が流れ始めた。そうなると黙っていないのが貴族達である。

 しかし、年齢が合う高位貴族は既に婚約をしたか、婚姻を済ませており、第二王女殿下の降嫁を願い出る事が出来る者がいなかった。


 中には婚約を破棄したり、離縁してまで降嫁を願い出た貴族もいたが、これに国王が激怒し、妻を簡単に放り出すような家にはやらん!と憤った事で、無茶をする貴族はいなくなった。


 二十歳を迎えたリアンは、王都にあるお屋敷を買った。

 魔具の権利だけで贅沢な暮らしが送れる程稼ぎがある為、大き目の屋敷を買ってそこに皆で住みたいと思ったのだ。エリンと一緒に暮らすには、護衛を雇わなければならないし、護衛も共に暮らせるような、大きな屋敷が必要だと判断した為だ。


 そうして買った屋敷に人を雇い、庭を整え家の中を綺麗にし、料理人を雇う。

 魔具を作る部屋を改築させ、頑丈な床や壁と天井に変えさせた。

 

 その家に最初に飾ったのは、エリンとデートした時に貰った髪飾りの花だ。

 

 押し花にした後、額に入れて飾れるようにしたので、常に自分の目に入る所に飾る。そうして壁に二人の思い出を飾って行き、最後に飾ったのは今日貰ったばかりのエリンからの贈り物。


 大き目の木の板に描かれた、リアンとエリンの絵である。


 最初はリアンだけの絵だったのだけれど、そこにリアンの記憶からエリンの絵を描いて貰ったのだ。目の前で記憶転写の術を見せてらもったリアンは、感動と共にこの絵を思わず抱き締めた。

 その後当然、エリンも抱き締めたのだが、徐々に大人の女性になっているエリンを抱き締めると、色々自分が我慢できなくなってきている為、直ぐに離れる事にしている。


 その内、絵師に色を付けてもらおうと思いながら満足して眺め続けた。

 きっと素晴らしい絵になる事だろう。


 そんな風に、リアンとエリンは恋人同士から婚約者同士になっても、変わらず互いを思い続けている。


 エリンの兄である王太子殿下の結婚式には、リアンも招待され色んな妬みと嫉みを受けたが、エリンが悉く蹴散らし、ヴィクトル宰相がチクチクとやり返してくれたお陰で、リアンは楽しく過ごす事が出来た。

 ジルとルイーズの結婚式には、エリンが二人の絵を描いた木の板に、エドナの皆と王都に来てから知り合った皆が、祝いのメッセージを書きそれを贈った。ジルとルイーズは凄く喜んでくれて、リアンとエリンも二人の幸せそうな姿を見て嬉しくなった。


 第一王女である姉の結婚式にも招待されたリアンは、エリンと共に出席した所、何故かやたらと貴族から話し掛けられ、戸惑いながらも祝福をしてた。エリンが言うには、今更遅いのよって事だが、貴族の事は全く判らないリアンは苦笑するしかなかった。


 そして、エリンの十八歳の誕生日。


 二人は国王の許可の元、王都でデートをしていた。

 街人に混じり込んだ二人は、いつものように通りを歩いては出ている露店を覗きつつ、手を繋いで歩いていた。その後ろ姿を見ているのは、お馴染みのジルとドニである。


「いやあ、随分と近くなったよねえ」

「そうですね」

「あれでキスもまだって言うんだから、リアンはすげえよなあ」

「……ですね」

「なんだドニ、何かあったのか?」

「いえ、何も無いです」

「……振られたか」

「くおおおおおっ、俺は、大事にしてるつもりで」

「うん、まあ一緒に飲もうや」


 ぽんと慰めるようにドニの肩を軽く叩いたジルは、そう言って不憫な後輩を慰める。王都に来てから、ドニにも恋人が出来たのだがどうにも上手く行かないようで、色々と悩んでいる事は知っていたが。

 ふぐ、ふぐ、と泣きながらも仕事をしているドニは、はっきり言って怪しい人物にしか見えなかった。


 そして、王都の街中にあるリディア記念公園で、二人はベンチに並んで座っていた。

 途中で買い込んだお菓子を食べながら、遊んでいる子供を見ながら仲良く話をしていた。今では目が合っただけで照れて何も言えなくなる事は無いけれど、じっと見つめ合うのは変わっていない。

 

「エリン。あの、ね」

「ん?」


 見つめ合って少し顔を赤らめたリアンは、少し言い淀んだ後ベンチから立ち上がり、エリンの前に跪いた。


「エリン。僕と結婚して欲しい」


 突然自分の前に跪いたリアンに、何事なのかと焦っていたエリンはそう言って差し出された手と、じっと自分を見つめる緑の瞳を見つめ返した。頭の中にリーンゴーンと鐘の音が鳴り響く。


「……リアン、私、嬉しい。勿論、喜んで」


 差し出された手を両手で握り、感激のあまり涙を流す。

 そんなエリンを優しく微笑みながら、リアンはほっと息を吐き出した。


「エリン。これからも、君と二人で歩いて行きたい」

「リアン、私も。リアンと一緒が良い」


 エリンが泣き止んでから、二人はまた手を繋いで歩き出し、今日の記念にとリアンがブランホアの花を一輪買った。思い出の石鹸の香りがするそれを、エリンは大切そうに胸に抱え込む。

 嬉しそうに笑うエリンに、リアンも嬉しそうな顔で笑った。


 そうしてエリンが十八歳と半年になった時。


 二人の結婚式が執り行われた。

 魔具士として名を馳せているとは言え、爵位を持たない庶民であるリアンに、第二王女が降嫁すると言うのは、色んな尾ヒレがついた噂が飛び交ってはいたが概ね好意的に受け止められていた。


「いついかなる時も、互いを尊重し、思いやる事を誓いますか?」

「誓います」


 花嫁の衣装を身に付けたエリンは、世界一綺麗だとリアンは思う。

 誓いのキスの為にベールを上げたエリンの、青灰色の瞳が嬉しそうにリアンを見上げていた。


「エリン。今も、これからもずっと、大好きだよ」

「……私も、リアンが大好きよ」


 そして、初めて触れたエリンの唇は、温かくてとても柔らかかった。

 何度もエリンの頭に響いた鐘の音が二人を祝うように鳴り響く。

 国王夫妻は勿論、エドナ辺境伯夫妻やジルとルイーズ、ドニも出席してくれた結婚式は、とても華やかに終わりを告げた。


 それから二人は、リアンが王都に買った屋敷で暮らし始めた。

 

 リアンが作る魔具に、エリンが魔術を加える事によって新しい魔具が次々に生み出され、リアリルーデ王国はお蔭で随分と豊かになった。偶に国王夫妻や宰相がお忍びで遊びに来たりもして、一緒に笑い合う。

 二人は相変わらず周囲に幸せをお裾分けしながら、いつまでも仲良く暮らしたのであった。







 ~ めでたしめでたし ~





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