20:ペルー村からの凶報。激高のバルタザールと妖艶なるエルヴィール
三人称視点~
「こ、ここは?」
気付くとモニカは、木造の簡素な寝室のベッドの上にいた。
天井を見つめながら、ここに至るまでの断片的な記憶を手繰り寄せる。
失った、自らの右腕の記憶……。
確かめると、腕の先は失われたまま、痛々しく包帯が巻かれていた。
この腕は、もう一生このままかもしれない。
部位欠損を治癒するほどの超希少なポーション。
そんなものは王族や上級貴族くらいしか手に入らない。
領主の公爵なら持っているかもしれないが、赤の他人に譲渡されるはずもなかった。
誰だって、大切なポーションは家族のために取っておきたいはずだ。
だが、それ以上に彼女の感情を逆なでたのは、記憶の最後に残った「敗北の風景」だった。
ゴブリンに連れ去られる、親友の姿。
「……キャロル」
モニカは苦い記憶にギリッと歯噛みする。
すぐさまベッドから飛び起きると、行動を開始した。
「――《隠蔽》」
斥候スキルを発動した瞬間、彼女の姿がスッと掻き消える。
「……キャロル、待っていて。すぐに迎えに行く」
こうしてモニカは、静かにペルー村から姿を消した。
◇◇◇
「モニカが大怪我を負っただと!? いったいどういうことだ!」
――その頃、冒険者ギルド。
バルタザールは、届いたばかりの手紙を握りしめて激高していた。
「詳しいことは私も知らんさね。当家の配下が鳥の使い魔でよこした情報だからね」
彼の前でパイプ煙草をふかすのは、妖艶な美女。
ボードリエ家当主、エルヴィール・ボードリエ伯爵その人だった。
「うちのキャロルも攫われた。救い出すために手を貸しておくれよ」
「当然だ! うちのモニカを傷つけられて、黙っていられるか!」
手紙に書かれていたのは、ペルー村を襲ったゴブリンの大群、モニカの大怪我、そしてキャロライナの誘拐。
バルタザールはすぐさま総勢20名の精鋭を率い、ペルー村へ向けて馬を走らせた。
エルヴィール伯爵とその配下の魔術師たち、さらには二つ名持ちの冒険者『赤雷のジャンクリーヌ』など、名だたる猛者が顔を揃える。
その猛追する一団の背後から、一頭の白銀のポニーが猛スピードで接近してきた。
乗っているのは、少年の騎士と、妙に太った鳥。
「ボクたちも連れて行ってください!!」
「ガァァァ!!」
「貴様……ヒルデか!?」
昨日稽古をつけたばかりの、少年騎士ヒルデだった。
「その坊やは?」
エルヴィールが興味深げに尋ねる。
「ヨッシーとかいう娘の護衛騎士だ。おい、肝心のヨッシーはどこにいる?」
辺りを見渡しても、あの幼女の姿がない。
「姫は、単身でペルー村へゴブリン討伐に向かってしまいました!」
「何だと……ひとりでか!?」
「はい! ボクは足手まといだからと置いて行かれてしまって……」
「馬で追いかけて引き止めなかったのか!?」
「姫は、馬より速く駆ける魔道具を持っています! ボクのポニーではとても追いつけません……!」
――馬より速く駆ける魔道具。
バルタザールは、そのヨッシーという幼女に底知れない恐怖と魅力を感じた。
「幼女、ね……。お前さん、『キャロライナ・ボードリエ』という名に聞き覚えはないかい?」
エルヴィールは、先日城門の衛兵から聞いた報告を思い出していた。
ボードリエ家の紋章が入った「スペルブック」を持つ幼女がいたという。
それは、我が家の者が才能を認め、弟子に贈った証。
つまりヨッシーは、キャロルに認められた天才幼女ということになる。
「キャロライナ様にはペルー村でお会いしました。その時、姫も一緒でした」
「やはりね……」
エルヴィールは確信した。
馬より速い不思議な魔道具を操り、美しい少年騎士と奇妙な使い魔を従えたその少女――ヨッシーに、がぜん興味が湧いてくる。
「おい、エルヴィール! ヨッシーは既に冒険者だからな! 手出しはさせんぞ!」
「構いやしないさ。うちのキャロライナだって冒険者だしねぇ」
「貴様の好きにはさせんと言っているんだ!!」
「その言葉、そっくりそのままお返しするよ――」
激しい火花を散らしながらも、ヒルデと使い魔のペン太を加えた一団は、ひたすらペルー村を目指して馬を走らせるのだった。
友情、執念、そして規格外の幼女『ヨッシー』――。
役者は揃い、舞台はふたたびゴブリンに襲撃されたペルー村へ!
右腕を失ったモニカ、そしてキャロルの運命は!?
次回もお楽しみに!
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