01:オレ、幼女に転生する!
今回は異世界を課金ありの状態で、冒険する話に挑戦してみました。
──冷たい。
肌に触れる、ざらりとした硬質な感触。
重い瞼をゆっくりと開くと、そこは冷たい石の床の上だった。
(ここ……どこだ?)
パチパチと爆ぜる音が、静寂に響いている。
壁の松明が、ゆらゆらと不気味な影を描き出していた。
(遺跡? ピラミッドの奥か?)
どうやらオレは、石造りの祭壇に生贄のように寝かされていたらしい。
起き上がろうとして、強烈な違和感に襲われた。
──体が、思うように動かない。
手足の感覚が、自分の知っている『それ』と決定的にズレている。
おまけに視界が、記憶より1回りも2回りも低い。
「ん……? なんだか、妙な感覚だな……?」
疑問を口にした瞬間、心臓が跳ね上がった。
オレの口から飛び出したのは、鈴を転がしたような、可愛らしい高音だった。
「……は? いまの声、誰のだ……っ!?」
慌てて口元に手を当てる。
その瞬間、視界に入った自らの手を見て、オレは完全に凝固した。
そこに触れたのは、驚くほど小さな、子供の手――。
「銀……髪……?」
小さな指先に、さらりとした長い髪が絡みつく。
松明の炎を反射して淡く輝く、美しい銀の髪だ。
恐る恐る頭や顔、首筋へと手を這わせてみる。
肌のすべてが瑞々しく、信じられないほどミニマムだった。
「まさか……この体……っ」
嫌な汗が背中を伝う。
そして、もう一つ確信した。
「はあ!? ――幼女だと!?」
静かな遺跡に、オレの悲鳴がこだまする。
ついさっきまで、しがない『おっさん』だったはずのオレは、どういうわけか可憐な幼女に変貌していた。
『おはようございます、よしとさま……いえ、もうマスターですね』
混乱する視界に、見覚えのあるフォルムが飛び込んできた。
宙に浮かぶシンプルな球体に、つぶらな瞳が2つ。
「ナビ……っ!?」
それは、オレがプレイしていたゲームの案内役キャラ『ナビ』だった。
こいつが目の前にいるということは、まさかゲームの真っ最中なのか?
そのゲームとは、体感型オンラインRPG──【ディヴァイン・タワー・クロニクル】、通称【DTC】。
『女神の塔を攻略し、最上階で女神に謁見すれば、どんな願いでも一つだけ叶う』
そんな触れ込みのゲームだった。
DTCの廃プレイヤーだったオレは、サービス終了直前に見事最上階へと到達。
世界で数人しかいない【女神への謁見者】となったのだ。
そこでオレが願ったのは……
──一生働かずに遊んで暮らせる完全なフリーライフをおくりたい。
──どうせならこんなおっさんの体じゃなく、若返らせて美しい容姿も欲しい。
完全に冗談のつもりだった。
ちょっと運営を困らせてやろうという、お茶目な無茶ぶりのつもりだったのだ。
『おめでとうございます。マスターは願い通り幼子に転生しました。しかも世界で一番美しい、女神様そっくりの姿ですよ』
(幼子だと! 若すぎるにもほどがあるだろ!)
(しかも自分が美しいからって、同じ姿にするな! 自画自賛がすぎる!)
『マスターの大好きな【DTC】の世界ですから、もう遊んでいるのと変わりません。一生遊んで暮らせますよ』
(ここが『現実』なら話は別だ! 死と隣り合わせのハードモードで遊んで暮らせるか!)
「──やり直しを要求する!!」
世界のどこかにいるであろう女神に向けて、全力で拳を突き上げた。
『マスター……残念ながら、それは不可能です』
「なぜだナビ!?」
『すでに転生を完了してしまっているからです』
(TS幼女転生だと……ふざけんなこの野郎!)
「前世のオレはすぐに転生できたのに、なぜ今のオレはすぐに戻れないんだ!?」
『その説明をするには、マスターの理解力では少々難しいかと……。まあ、無理なものは無理だと認識しておいてください』
「おい、さりげなくオレをディスるな」
どうやら、どんなに苦情を申し立ててもやり直しは無理らしい。
いつまでも駄々をこねていても仕方がない。
現在の状況を理解しなければ。
「……ちなみに、オレがここで死んだら復活はできるのか?」
ゲームなら安全な場所へリスポーンできたはずだ。
『リアル異世界でリスポーンなんてできるわけないでしょ。死んだら当然終わりです。本当に無知ですね』
「またディスりやがったな……」
グヌヌと歯噛みする。
失敗は命取り。
つまり、慎重に進まなければ即死が待っているということだ。
「ナビ、現在地はどこだ?」
『女神の塔一階層、入り口付近の隠し部屋です』
ナビが立体マップを表示する。
女神の塔はモンスターがひしめく危険地帯。
つまりオレは、ここを脱出して安全な街か村まで行かなければならない。
外に出る直前で敵に遭遇することもある。
最低限の戦う手段が必要だ。
「ナビ、アイテムボックスの中身は?」
『初期状態ですので、当然空っぽですよ』
(がっで~む!!)
その状態でどうやって生き残れというのだ。
この体は、見るからに非力な5歳児。
頼みの綱のアイテムもゼロ。
ならば、残された希望は己のステータスのみ!
「──ステータスオープン!!」
藁にもすがる思いで叫ぶ。
空間に淡い光を放つウィンドウが展開された。
オレは食い入るように文字列を睨みつける。
──が、そこに表示された現実は、あまりにも残酷だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【ステータス画面】
名前:???? / 種族:人間(?)
レベル:1 / 年齢:5歳 / 性別:女
職業:見習い魔術師
【基本パラメーター】
体力(HP):40(年齢補正により減少)
魔力(MP):540
気力(SP):60
筋力(STR):10(年齢補正により減少)
耐久(VIT):10(年齢補正により減少)
敏捷(AGI):50(年齢補正により減少)
器用(DEX):90
魔威(MAT):220
幸運(LUK):40
【スキル】
魔法:なし
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おいぃぃぃ! 完全に無理ゲーじゃねえか!!」
隠し部屋にオレの絶叫が木霊する。
戦闘を舐めているとしか思えない貧弱さだ。
百歩譲って、魔力的な優秀さは認めよう。
【MP:540】に【MAT:220】は、初期の魔術師のざっと2倍だ。
――だがしかし!
それを完全に帳消しにするレベルで、HP、STR、VITの物理三銃士が詰んでいる。
魔術師の平均の5分の1以下だ。
しかもトドメを刺すかのように『魔法:なし』の文字。
魔法の使えない見習い魔術師が、このミジンコクラスの耐久力でどうやって戦えというのか。
ゴブリンに小突かれただけで即死しかねない。
「おいナビ! この【年齢補正により減少】ってのはどういうことだ!?」
『リアル異世界ですから、それも仕方がありません』
「万能かよ、その言い訳ぇぇぇ!!」
パパパパ~ン♪
突如、妙に軽快なファンファーレが響き渡った。
目の前に、おめでたいデザインのポップアップが飛び出す。
『おめでとうございます! 転生特典により、課金ポイントが3000p付与されました!』
「……は?」
呆気にとられて、その画面を凝視する。
──いや、待てよ?
課金ポイント、3000ポイント……だと?
リアル異世界に転生させられたこの状況で、まさか、ゲーム時代の『課金ショップ』や『ガチャ』が使えるというのか……!?
「課金ショップ、ガチャ画面──オープン!!」
一縷の望みをかけて叫んだ。
刹那、オレの目の前に、あの見慣れた画面が同時に展開された。
(これ……いけるかも……!)
文字通り詰みかけていたオレは、目の前に現れた『課金要素』の輝きに、確かな光明を見出したのだった。
第1話をお読みいただき、ありがとうございました。
念願のフリーライフ……のはずが、リスポーンなしの最弱幼女スタート。
完全に詰みかけた元おっさんの前に現れたのは、まさかの「課金ショップ」と「ガチャ」でした。
異世界を課金で生き抜く、ひ弱な銀髪幼女の冒険がここから始まります。
次回、いよいよ課金アイテムに手を出します。
果たして、最初に購入するのは最強のチートか、それとも――?
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