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これまでの経緯を簡単に整理する。
先述した通り、エリックの父親が男爵家に婚約の話を持って来たのは、リアーヌが水晶を使って結界を張れるという点が大きい。
それなりの魔法使いなら同じように結界は張れるものの、常時魔力を込め続けなければならない。そのためリアーヌがやって来る前は、魔法使い5人体制で結界を張り続けていた。
しかしリアーヌは一度魔力を込めると、ほぼ3日は結界を維持できた。彼女がいれば魔法使いたちに高い給料を払い続ける必要がなくなる。
リアーヌは嫁入りが決まってから、水晶に力を籠める作業を始め、出来る限り伯爵家に尽くしてきた。
しかしエリックとの関係は冷え切っていた。どうやら彼は、元商人のリアーヌと結婚することを快く思っていなかったらしい。彼女のことを見下していたがために、愛することなどできなかったのだろう。
そしてカサンドルが現れると、あっという間に、リアーヌのいる位置はかすめ取られてしまった。そして「お前より良い相手が見つかった」という、それだけの事情で簡単に捨てられた。
こうしてエリックとリアーヌの縁は切れた。
この後、二人の人生が交錯することは二度となかった。
◆
アメルハウザー諸島領に到着してから三か月ほどが経過した。
死を覚悟して島に赴いたリアーヌは、まだ生きていた。いや、それどころか島での生活を大いに満喫していた。
彼女の夫となったハルトヴィンは大きな背丈と、日に焼けた肌をした、しかし繊細な顔立ちの美丈夫だった。第一印象は「海賊というには少し顔が優しすぎるかしら」だった。
話してみると彼は朴訥としていて、あまり女性と喋りなれていないように見えた。どうやら海に出て魔物討伐にあたることが多く、そうなると船には野郎どもしかいない。
女性と話す機会はあまり無かったようだ。
しかし彼と過ごすうち、それは嘘のない、誠実な性格の顕れであることが分かった。海の向こうから嫁入りしたリアーヌのことは、まるで財宝のように扱ってくれる。共に過ごす時間も大切にしてくれた。
街に出れば活気がある。人々は明るく、そしてリアーヌを領主の妻として敬ってくれていた。
リアーヌはハルトヴィンが商船を襲っているという噂が、どうしても信じられなくなっていた。
単刀直入に聞いてみると彼は即座に否定した。ただ商船に偽装した、麻薬などの禁輸物を運んでいる船は拿捕することがあるらしい。
どうやらその事実が、本土に着く頃には捻じ曲がって伝わっていたようだ。
今の彼女には何の不満も無かった。もう人生が終わったと思っていたのに、急に第二の人生が始まった気分だ。ハルトヴィンと婚約できたことの幸せを、今は心から噛みしめている。
イジドール伯爵領から使者がやってきたのは、そんな時のことだった。




