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古代文明の遺物「カップラーメン」を再現したら、聖女と間違われました  作者: 神楽坂ミコト


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第三百二十二話:レンの"商品"

レンの仕掛けた情報操作は、静かに、しかし着実にその効果を発揮し始めていた。日本のグルメ雑誌やテレビの情報番組で、「異世界の奇跡の食材」がセンセーショナルに取り上げられ始めたのだ。


『奇跡のキノコ?月光茸げっこうだけ:一口食べれば、ストレスが消え、至福の境地へ…?専門家も驚く未知の成分とは!?』

『燃える生姜!?炎ショウガ(ほむらしょうが):古代文明が愛用した?驚異の活力源!その効果を徹底検証!』


科学的な根拠は曖昧あいまいなまま、ただ人々の好奇心をあおるようなうたい文句。だが、平和な日常に飽き、常に新しい刺激を求める現代日本の富裕層や、健康・美容に関心の高い層は、その神秘的な響きと希少性に飛びついた。レンが裏ルートを通じて(おそらくは異世界で不当に入手し、特殊なルートで日本に持ち込んだものを)ごく少量だけ高級食材市場に流したそれらの食材は、瞬く間に投機とうき対象となり、異常な高値で取引され始めた。それは、レンによる巧妙な市場価値の吊り上げと、来るべき「商品」展開のための、計算され尽くしたブランドイメージの構築だった。


その熱狂の最中、レンは再び私の前に姿を現した。今度の舞台は、東京湾を一望できる、超高級ホテルの最上階にあるスイートルームだった。彼は、アルマーニか何かの最高級のスーツに身を包み、まるで世界の王のように、私にドン・ペリニヨン(もちろん、私は名前しか知らない)のグラスを勧めてきた。


「やあ、リナ。君の活躍は、こちらの世界でもしっかり聞いているよ。素晴らしい。寂れたラーメン屋を復活させ、異世界の食材で新しい文化を創造する…君の創り出す『物語』は、やはり最高の『商品』になる」


彼は、眼下に広がる、宝石箱のような東京の夜景を、自らの庭のように指さした。


「見てごらん。この無数の光の一つ一つが、消費者の顔だ。彼らは皆、飢えている。満たされない心を満たすための、刺激的な『物語』と『体験』に。君の持つユニークなレシピと、俺が持つ世界規模の流通網ネットワーク、そしてマーケティング戦略を組み合わせれば、我々は二つの世界で、想像を絶する富と名声を手に入れることができる。どうだい?俺のビジネスパートナーとして、最高の『商品』を、一緒に創り出す気はないか?」


その甘い誘惑の言葉。それは、かつて私をかごの鳥にしようとした領主ソラムや、異世界の商人レオナルドのそれとは、比較にならないほど洗練され、そしてあらがいがたい魅力を持っていた。一瞬だけ、私の心に迷いがよぎる。だが、私の答えは決まっていた。


「お断りします」


私は、きっぱりと言い放った。グラスには手をつけない。


「私のラーメンは、誰かの心と体を温めるためにある。あなたのショーケースに並び、値札をつけられるためにあるんじゃない」


私の、あまりにも素朴で、非商業的な拒絶。それに、レンは初めて、その完璧な笑顔を崩した。その瞳の奥に、狙っていた獲物えものに逃げられた狩人かりゅうどのような、冷たい光が宿るのが見えた。


「……そうか。残念だよ、リナ。君は、自分の持つ力の、本当の価値と使い方をまだ理解していないらしい。だが、覚えておくといい。市場マーケットの法則は、絶対だ。需要と供給。そして、より『効率的』で『魅力的』な方が、常に勝者となる。君の感傷的な理想は、いずれ現実の前に淘汰とうたされることになるだろう」


彼の言葉は、単なる捨て台詞ではなかった。それは、これから始まる、冷徹な市場原理による戦争の、静かなる宣戦だった。

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