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12. アップルパイ

 

 レティシアとヴァニタスはいつの間にか人気のないところまで走ってきていた。


 昼間から始まったパーティーだったが、かなり時間が経っていたようで辺りはオレンジ色だ。


 2人は足を止めて、見つめ合う。パーティー中ずっと緊張していたのと走ってきたこともあって息が切れ切れの状態。


 レティシアがなんて言い出せば、とタイミングを測りかねていると突然ヴァニタスがレティシアを抱きしめた。

 強く、強くレティシアの存在を確かめるように抱きしめる。

 レティシアは突然のことに一瞬戸惑ったが、手をヴァニタスの背に回した。



「私、ヴァニタスが好きよ。私を変えてくれて、一緒にいてくれてありがとう」

「っ……俺もだよ。俺もずっとレティシアのことが好きだった。正直あいつらといるのとか許せなかったし、“友達”とか言ったけど、下心ありありだった」



 抱きしめあったまま、2人は会話を続けていく。



「俺、幼馴染なのに、全然寂しいとか気づいてやれなくてごめん。こんな危ない事件に巻き込んでごめん。あ……でもさっきのレティシア、ちょっとかっこよかったよ」

「ヴァニタスの演技もよかったわ。みんなの表情が見えなくて残念だったわ」

「あいつらの顔、見ものだったよ。超面白かったわ」



 ヴァニタスがレティシアが目をつむっていたときの様子を事細かに説明すれば、レティシアも思わず笑ってしまう。

 前回の生ではあんなにしてやられたのに、今回は真逆だわ、とレティシアは思う。



「私ね、ずっと誰かに愛されたいと思ってたの。その……ヴァニタスからそれを受け取りたいと思うのは、迷惑?」



 ヴァニタスはそこで身体を離して顔を赤らめるレティシアをきちんと目視した。断る理由なんて、あるだろうか。


 ヴァニタスはレティシアの頬にそっと触れて、そのままキスをした。重ねるだけのものから、だんだん互いを求める深いそれに変わっていく。


 浅い息をしながら唇を離す。

 ヴァニタスは「迷惑なわけないじゃん」と笑う。



「愛させてよ。その代わり、レティシアも俺のことちゃんと愛してね」






 学園内はいつもと変わらない騒がしさだ。


 ただ、変わったこともある。

 レティシアはあの後から、積極的にクラスメイトたちと交流するようになった。いつしか遠巻きにする者は少なくなり、レティシアは人気者だ。


 それから、もう一つ。



「おっ、今日はアップルパイ?」  

「そう、今日のは今までの中で1番の自信作よ」



 レティシアが作るお昼は見違えるほど上達していた。

 今ではレティシアとお料理がしたい、という令嬢も山ほどいるほど。


 けれど、それを1番最初に食べられるのはヴァニタスだけ。



「んー! めっちゃうまい!」

「よかったわ。そうそう、お父様にも今日食べてもらおうと思ってるのよ」

「え、じゃあさ、俺もまた行っていい? お義父さんと一緒に食べたいしさー」

「ふふ、きっと喜ぶわ」



 レティシアは花が咲いたように優しく笑う。

 ヴァニタスはそんなレティシアを見てなんとも幸せそうに目を細める。



 2人の薬指には、銀色に光る指輪が煌めいていた。


読んでくださった方ありがとうございました!

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