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竜の如き異様  作者: 葉月
2章 友との旅路と巡り合う過去
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第59話 勇者会


 青葉立花、彼は中立国ポップの3人の勇者の中で一番最初に召喚された。勇者3人はそれぞれ別のパーティに属しており、彼は所属するパーティでは前衛を担当し、柔和そうな外見に反してかなり筋力があるらしく、大の大人も扱うのに苦労する大剣を軽々と使う。

 レベルは102、筋力と俊敏よりのステータスで、適性は風と火。特典の特性は《剛毅》と《鋼化》。


 久喜正輝、彼は2番目に召喚された。彼の組んでいるパーティでは主に斥候や前衛を担い、使用武器はダガーといった短剣の類。特筆すべきは気配を操る能力で、武器や他人にもその能力を使えるらしい。

 レベルは73でバランス型のステータス。適性は無属性。特典の特性は《秘匿》と《複製》。


 高沢も前衛だろうし、この国の勇者の前衛率の高さは一体……? なお、彼女は3番目、つまり最後に召喚された勇者で、俺と同じタイミングでこの世界に転移したらしい。レベルは97、魔力と魔防よりのステータスで、片手剣を使い、適性は雷と水、特性は《剣神》と《魅了》。


 これらの情報は、俺が《邪眼》で3人のステータスを勝手に覗いて得たものではなく、高沢と青葉さんの2人に教えてもらって知った。


 久喜正輝が高沢主催の勇者会をボイコットして退室したあと、せっかく集まったのだからと始まった雑談の最中に情報交換や身の上話の話題になり、2人は自己紹介の延長線上のように自然と話していた。黙って聞いてた俺が思うのもアレだが、個人情報はもっと大事に扱った方がいいぞ。


「で、葉桜君はどんな特典で、適性とかステータスの傾向はどうなってる?」


「なんか悪いね、こっちが勝手に話しただけだっていうのに……」


「いや、青葉さんが気にするようなことじゃ……使う武器とレベル、ステータスの傾向、適性と特性を言えばいいんだよな? えっと、確か……」


 高沢はいつも通りの、趣味はなにかと聞くくらいの軽いノリで問い、反対に青葉さんは伏し目がちになりながら、申し訳なさそうにしている。


 相手側に作為があろうとなかろうと、こういう時に自分は関係ないと言って答えないのはフェアじゃない。

 そんなわけで最近見ていない、というかいろいろあり過ぎて、しかもそれらを全く乗り越えられていなかったせいもあって、見る余力がなかったステータス画面を開く。


————————————————————————


 葉桜結理 人問 男性 18才


 LV.99


 HP 1113/1113

 MP 645/645


 筋力 798

 耐久 1002

 魔力 824

 魔防 597

 俊敏 969


 スキル 血の献身:C+

     武技:A+

     察知:A

     吸収:A

     闘魂:S++

     装甲:S

     怪力:B

     俊足:C+

     熱暴走:S+

     蛮勇:B++

     血塗られ:A

     隠匿:C+

     背水:A++

     戦線離脱:A+

     悪鬼:A+

     加熱:B

     予見:D

     心の眼:C

     毀れの手:S+


 適性 火:B++

    水:C+

    土:C++

    風:C

    雷:C+

    無:B++


 特性 ・ミルの寵愛:A

     硬化武鎧:A

     竜変化(へんげ):B+

     邪眼:A++

    ・混血:D


————————————————————————


「……は?」


「なにかあった?」


「いや、別に……」


 なんだ、これは?


 誰か別の人のステータスをうっかり覗き見たのではないかと思い、一旦閉じて、再度脳内に表示されるステータス画面を開くも、内容は寸分の誤差なく同じだ。にわかには信じ難いが、気のせいでも勘違いでも幻覚を見ているわけでもないらしい。


 確かにこの2週間くらいの間、自暴自棄になりながら昼夜を問わずにほぼ1日中、睡眠と食事以外の時間を過労死するんじゃないかってくらいの時間を戦闘に充て、それに明け暮れていた。

 その間、様々な経験を積んだ。

 質など知ったことかと、陸地に現れた津波かと思うほどの物量で圧殺しにくる魔物の大群。高ランクの魔物が無限湧きするダンジョンの罠に引っかかって、しかもその罠にいる魔物の在庫が切れるまで抜け出せない仕様のせいで、それが尽きるまで戦うはめになったこともあった。強力かつ厄介なスキルや特性を持ち、それを戦術染みた本能で使い、状況に応じて様々な戦い方をする魔物。無数の状態異常を巧みに扱い、こちらを弱らせてから確実に仕留めにくる魔物の集団。複数体で現れ、人間のパーティを相手にしていると錯覚してしまうほどの高度な連携を駆使する魔物とも死闘を繰り広げた。本来ならパーティで挑むような、どう考えても格上であろう筋肉の塊みたいなパワーファイターの魔物などなど。


 時には自分の実力とはそぐわない高ランクのダンジョンに無許可でこっそり入ったり、(あとでバレてみっちり叱られた)高レベルの魔物が出現する地域などに行ってはSランク級の魔物相手に無謀とも思えるような戦いをしていたが、まさかこんなにビルドアップしているとは……。

 しかも、新しく獲得したスキルの構成を見ると、見事に逆境に強いものばかり。確かに、一体何度戦略的撤退をすることになったのか数えられないほどだし、両手じゃ足りないくらいの回数は死にかけた。


 しかし、これだけやっても《予見》はD、《心の眼》はCランクなのだ。この間、《竜変化(へんげ)》はほぼ使わずに近接戦闘だけで戦ったというのに、だ。この程度の経験では2人に追いつけはしない、ということだろう。

 いや、そう簡単に追いつかれては困るとニオンも燃香も言いそうだ。とそこまで考えて、2人との日々を思い出して泣きそうになるが、なんとか堪えた。


 今、重要なのは、2人には俺のステータスが比較的無難に聞こえるようになるよう、考えて言わなければならない。勇者のステータスがどれくらいのものなのか分からない以上、下手は打てないからだ。

 ステータスの異様な変化への困惑からなんとか立ち直って、冷静になって見返して見ると、種族部分が誤字っていることに気づいた。……バグかな?


「……レベルは99、耐久と俊敏よりで魔術は使えないが、適性は全部持っててあと前衛だな。特典、はないが強いて言うなら特性は《竜変化(へんげ)》と《硬化武鎧》だ」


「私よりもレベルが上かぁ……それにしても適性全部ってすごいね。あ、でもアイリアルと戦った時、魔術使ってなかった?」


「あれは呼び出した竜の力に依存してるんだ。だから普段は使えないし、補助とか回復に関して言えば竜の力を用いても無理だ」


 魔術が使えるという触れ込みのアジ・ダハーカの欠点と言えばそれが最も大きい。攻撃一辺倒なのだ。なので1人だけになったここ最近はポーションなどの治療薬や別の回復手段がなくなったせいで、途端にピンチに陥ることもしばしば。

 現状、回復手段を持つ竜はいない。これからに期待したいが、あまり竜の力に依存するのはよくないだろう。


(らい)から、結理は《召喚》の特性を持ってると聞いてたけど、それは秘密ってことかな?」


「それは誤解だ。多分、《竜変化(へんげ)》を使った時、竜を呼び出す方の使い方をすると召喚っぽく見えるから間違われやすいんだと思う」


「その言い方だと、別の使い方もあるってことにならない?」


「なるな。見に纏うこともできる。多分、その方が本来の使い方だ」


 見に纏う形で使ったのはファフニールがいい例だ。他の竜でもできるのか試してはみたが、うまくいかなかった。なぜかは分からない。俺の実力不足だろうか?


「結理、武器はなにを使うのか言わないが、なにか特別な理由があるのかい?」


「あ、忘れてた」


「そういえば、アイリアルと戦った時、なんか竜の足っぽい籠手か手甲をつけてたよね? あれが武器?」


「まあ、そうなるな。厳密に言えば俺は武器を使わないんだが……」


「徒手、ということかな?」


「うーん……実際に見てもらった方が早いんだが、それでもいいか?」


「別に構わないよ」


「それで、その籠手か手甲はどこにあるの? 手ぶらだけど、アイテムボックスの中に入れてるとか?」


「いや、さっきも言ったように俺は勇者じゃない。だからそれ系の特典も持ってない」


「じゃあ、どこにあるの?」


 無言で右腕を前方にいる2人に手の甲を見せるようにして胸の高さに持ってくる。そしてその腕に《硬化武鎧》を纏わせ、ブレードを生やす。2人からすれば、俺の右腕が一瞬で竜の足に変化したように見えただろう。


「へ? っておぉ! なんかカッコいい!」


「驚いた、特性を武器にしているのか。だから手ぶらでも問題ないんだな……」


「そうだな。あと壊れてもすぐに直せるという点でも便利だ。そんなにMPも消費しない」


 鱗の破片などが俺の体から離れると、魔力に戻って回収されることで俺の体に戻るが、ブレードはある程度は融通が効くらしく、武器として投擲することに使ってもすぐには消滅しない。やはり時間が経つと実体を失って魔力に戻り、俺の元へ帰るが。


「葉桜君、勇者じゃないのに私よりもレベルが高いのって、やっぱり《成長補正》の特性持ってるからなのかな?」


「……一応聞くが、勇者はそれ全員持ってるのか?」


「そうだけど?」


「俺は持ってないんだが、勇者の特典って具体的にはどんなのがあるんだ?」


 また新たなワードが。《成長補正》とか初耳だぞ。


「えーっと、まず《言語理解》でしょ。これは持ってるよね?」


「持ってない。俺をこの世界に送還したヤツいわく、翻訳ツールみたいな物を脳にインストールしたらしい」


「も、持ってないんだ……。っていうか、メカ的な扱いなんだね」


「適当なんだよな、本当。……そういえば、前から気になってたことがあるんだが、俺が会った勇者は高沢と青葉さんと久喜の3人。勇者ってもしかして日本人だけなのか? ただのまぐれか?」


「まぐれではないね。今、この世界に召喚されて来ている人は日本人だけなんだ。……かつて、この世界に最初に召喚されたと言われている勇者は日本人だった。《言語理解》はその時にその勇者が作った特性だと言われているんだよ。その勇者はのちのこと、またこの世界の人が勇者召喚を行うかもしれないことを考えて、《言語理解》での変換先を勇者同士のコミュニケーションのために日本語に限定した、と言われている。勇者内での文化などによる大きな価値観の相違の結果、争いや不和に発展することを防ぐという目的のため、あえて他の言語に対応させなかったという説もあるね。なんにせよ、大昔のことだ。分かってることは少ない」


「へぇ……そんな歴史が……」


「……コホン。青葉君の説明で話が脱線したけど、それはさておき、2つ目にアイテムボックス。これは持ってないんだったね。3つ目に複数の適性、これは持ってるね」


「いや、持ってなかった。後天的に手に入れた」


「……そ、そっか。4つ目は2つの特性。これはないってさっき言ってたよね。そして5つ目に《成長補正》。勇者って言っても、私たちのいた世界で武道の達人の域に達している人ですらこの世界だとほぼ一般人だからね。転移してきたばかりの勇者は常人と大差ないんだよ。でも、勇者は成長速度でこの世界の人の追随を許さない。1、2ヶ月でSランク冒険者と同等にまで強くなるから、勇者は国の自衛のための即戦力になるんだよ。《成長補正》は勇者だけが持っている特性だからその辺の融通が効かないって理由もあるけどね」


「こうして聞くと、勇者って至れり尽くせりだな。少し羨ましいぞ」


「逆に勇者でもないのにそれと同じくらいの戦力に、同じくらいの時間でなるって普通じゃないよね?」


「なにか秘策でもあるのかい?」


 持っているだろうと思われていたものを、持ってないの否定を連発され、高沢は少し調子が狂っているのか、口を尖らせ、少し不機嫌そうだ。彼女とは対極的に青葉立花は俺の、勇者ではないのに勇者並みのレベルなところに興味を引かれたのか、瞳を輝かせる。

 しかし、残念なことにそんな都合のいいものはないのだ。そんなものがあれば2人は生きていただろう。


「……ない。というか、Sランク冒険者だって似たような感じじゃないのか? アイアスも結構若いぞ」


「確かにアイアスさんは若いけど、冒険者になる前から、その訓練をしてたはずだよ。なんの下積みもないのに、異世界に来て半年でSランク冒険者級になれる人なんてそうそういないと思うけど?」


「た、確かに……」


 そりゃそうか。アイアスとシルドにも子どもだった時期がある。ただ、その頃から冒険者になる努力をしていただけのこと。俺たちのようにただ転移してきただけではなく、ちゃんとこの世界で生きて、比べるのも烏滸がましいほどの時間と労力をかけてSランク冒険者になったのだ。積み重ねてきたものが違う。


「ところでなんでそんなに強くなったのかな? 教えてよ、ほらほら」


「分からない。ただがむしゃらに、いや、ただ自暴自棄になってただけなんだ」


「自暴自棄?」


「そっか、大変だったんだね。葉桜君」






 見るからに質のいいカーペットが敷かれた廊下に、1人の少年の足音が響いていた。その足音からは、その人物がいかに機嫌が悪いかがありありと伝わってくる。


「クソが。なんで勇者でもないカスが、俺よりも強いんだよッ!」


 その少年、久喜正輝は思い通りにならないことに、現状の悪さに歯噛みする。

 久喜正輝は葉桜結理とは初対面だが、彼のことをぽっとでの勇者モドキだと思っていた。しかし、彼は久喜正輝よりも強かった。高沢が勇者会を始めた直後、葉桜結理のステータスを《閲覧》で盗み見たところ、久喜正輝のそれの平均1.6倍はあった。勇者の一般的なレベルは100で基本5つのステータスは500ほど。久喜正輝はレベルはさておきステータスは平均。

 彼は高沢来から勇者会が始まる前に葉桜結理がいつこの世界に来たのか聞いていた。すると自分と来た時期は大差ないと彼女は言った。かけた時間からして自分、久喜正輝と比較すれば葉桜結理がどれほど異常なのかがよく分かる。

 特性は文字化けしていて読めなかったが、大量のスキルを持ち、いずれも高ランク。しかも《熱暴走》と《毀れの手》は効果が馬鹿みたいに強力だった。


「……落ち着け、俺はあんな凡人どもとは違う。そうだ、俺はあの人に選ばれた特別な人間なんだ。今に乗り越えて、あいつを俺の経験値にしてやるぜ」


 彼は廊下の壁に八つ当たりしそうになるが、2週間ほど前に現れたある男の言葉を思い出して、心を落ち着かせる。


『君は特別な存在ダ。デモ、回りの人は君を正しく評価してはくれナイ。ソレは君の才覚が妬ましいからサ。多くの人は君のコトを認めないだろウ。ソレはトテモ苦しいシ、僕もソノ才能が世の中に認められズ、埋もれたままナノハ残念でならなイ。ソシテそれを認めない者が哀れダ。デモそれだけじゃナイ。世の中にハ、君と同じようニ苦しむ者が大勢いル。ナラ、君が、君と同じク苦しむ人々が正しく評価されル世界を作るべきダ。本当に認められるベキ人と、ナニより今も苦しんでいる君自身のためニ』


 彼はその言葉に歓喜した。打ち震えた。自分の言って欲しいことを言ってくれる存在がいることがどれだけ頼もしいことか。


「(あの人とは今まで数回会っただけだが、いつも的確なアドバイスをくれるし、レベル上げの効率のよい狩場や、いいアイテムがドロップする場所やダンジョンを教えてくれる。けど、それ以上にすごいのは、様々なスキルの入手方法を知ってることだ。どんなレアスキルでも容易く手に入れる手段を知ってるところとか、この世界の攻略本を持ってるとしか思えない!)」


「今に見ていろ、高沢は俺のものだ」


 彼についていけばなにも間違うことなどない。ゆえに特別な存在である久喜正輝は間違えてなどいない。自分を正しく評価しない世界など要らない。久喜正輝が望むのは正しい評価をくれる世界だけだ。



勇者には以下の5つの特典が転移時に与えられる。特性《言語理解》、複数の適性、その人の性格や性質に由来する2つの特性、アイテムボックス、特性《成長補正》。


特性《言語理解》 他の世界の言語を自分の理解できる言語に自動で翻訳してくれる。ただし、日本語を英語に、英語をドイツ語に。というような翻訳はできない。


特性《成長補正》 どれだけ不器用な人でも技術の人並み以上の習熟速度と、成長力をもたらす。


特殊機能 《アイテムボックス》 ステータス画面に設置される容量無限の収納庫。アイテムの系統ごとに自動的に分別してくれる。さらにはボックス内のアイテムの検索機能もある。


※勇者は複数の属性適性が付与されるが、無属性は「無」「光」「闇」の3種類が該当しているので、仮にその勇者に付与されたのが無属性だけであっても、2つではなく1つしか持っていない、という扱いにはならない。

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