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竜の如き異様  作者: 葉月
3章 愚かなる者たちの戦争
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第96話 舞台裏にて踊る


今回の変更点


連邦の名前の変更

1話の後半に中立国ポップの説明を挿入

15話の後半を加筆

25話に魔物と魔生物の違いを追加

36話の冒頭に4大陸の説明を追加、追加任務の描写を少し追加し、邪竜と深化心臓の設定を変更

51話の後半の桃髪の聖人のセリフの追加

52話のイビリスのクソ長いセリフの内容のごく一部を変更

59話に久喜のステータスについての言及を追加

76話と47話のルークのセリフの一部を深化心臓の設定変更のために辻褄を合わせた

85話の勇者のセリフに魔術についての説明を追加


……こうして見ると投稿の度にほぼ毎回どこかのセリフや話の流れが変わってますね。


「(ふーん。東B2部隊がカントリ林を拠点にすることは失敗、ねぇ。後顧の憂いを断つために襲わせたんだけど、うまくいかなかったか。ま、中立国ポップの侵攻準備は東B1部隊が整えたから侵攻に関しての問題はないけど……カントリ林はなんとかしたかったな。でもそこを落とすためだけに僕自ら動くのはまだ早いね。秘宝を手にしてないし、まずは慎重に)」


 某国に構える屋敷の書斎、報告にやって来た勇者同盟の幹部の勇者が持ってきた書類にイビリスは目を通し、思考していた。そこにあるのは「世界に自らの存在を示し、勇者の待遇をより良いものにする」というお題目を掲げて勇者同盟に参加する勇者たちの活動報告だ。

 彼ら勇者はありあまるステータスに加えて特殊な特性を持っている。さらにはそれが今、軍勢となっている。一見、彼の計画は武力という面で完璧に見える。が、


「(東大陸の天空国マジェスへの進軍と、もう用は済んでるし意味もないから北大陸の、アーク共和国への侵攻は禁止したんだけど、案の定言うこと聞かなかったかー。あのボンクラども、功を焦るどころノ騒ぎじゃないよ。ホント。マジェスにアーク、あの2人がいる国に正面から手を出すのは僕でも避けるところなのになぁ……)」


 この世の中、『上』なんて探せばいくらでも見つかるらしく、報告書の中には2つの国での惨敗の詳細が書かれていた。

 天空国マジェスは階層状の7つの陸地からなる国であり、そのうち六層は空に浮かんでいる。書類には、第一層である地上に侵入した途端に最上層から光の矢が、侵入した勇者の人数分降り注ぎ、国土に踏み行った全員が死亡したと記載されていた。なお、侵入していない勇者に関しては見逃されたらしい。完全に侮られている。

 アーク共和国へ向かった勇者は領海に入った途端に全員通信が途絶え、一瞬で行方不明になった。当日は濃い霧が出ていて見晴らしが悪く、行方不明になる瞬間は目撃できなかったと、その前兆が一切なかったと記載されている。

 十中八九、この結果は両者ともに国のトップである2人が出張ったがゆえのものだろう。つまり、そこへ向かった勇者が弱い上に頭が足りないのではなく、相手が規格外過ぎたのだ。マジェスは自身の持つ国土内では自身の所有する()()()()()()の力と身体能力を自身に加算でき、それによりその戦闘能力は天井知らずになる。アークは共和国において『神』と呼ばれる存在、その詳細はイビリスでも感知されずに調べるのは難しく、僅かな情報しか得られず姿形も判然としなかった。彼の推測ではアークは北大陸を支配するアーク共和国、その全てをなんらかの手段で完全に掌握している。


「(この報告、なんか想定よりも死人の数が多いなぁ。こんなあっさり死なれるとそれはそれで困るんだけど。……それにしても結構、転移者相手に善戦してるね。それも特に西大陸。あそこならカタリシス家が介入してくるのは分かりきってたけど、当主フィリア・カタリシスがまさか勇者を共につけてくるとは。しかも手ずからゴリゴリに鍛え上げた2人を同じ故郷の人間と殺し合わせるなんてね。なかなかいい神経してるよ)」


 (けしか)けた本人が言うと、火事の見物に集まった結果、消化活動の邪魔になる野次馬並みにタチの悪いセリフだ。しかもイビリスはふてぶてしい態度で勇者たちの侵攻においての立ち回りや戦略を批評するのでなお悪い。


「(やっぱりどこからか人員を補充しておくべきかな。神聖国レインボーでの勧誘をもっと早くにやっておくべきだったなぁ。なにせ3人は引き込む前に暗殺されちゃったわけだけど、5人とも戦力的に結構有能だったし、2人しか引き込めなかったのは痛いね。……それにしても桃髪の聖人はなにを考えて()()()()()()()()んだろう? やっぱり聖人(いじょうしゃ)の考えることはよく分からないね)」


 神聖国レインボーの一件における桃髪の聖人の行動はどれもこれもが不可解だ。最終的にゼロリアルを倒しこそしたものの、そこに至るまでの過程は、特になにもしていなかったり、武具を回収するだけだったり、配下を使って中立国ポップの冒険者(しかも勝てる見込みのない)を向かわせるだったりと理解し難い部分が多い。

 武具の回収は重要だが、ゼロリアルの討伐をを後回しにしてまですぐに取りに行く必要はない。なにせ聖人は自身の武具の位置が分かり、しかもゼロリアルを一撃で、加えて鼻歌混じりに滅殺できるのだ。どこにも焦る要素はない。それらの行動にはおそらく意味がある。しかし『聖人』の実態をそこまで詳しく掴めていないイビリスにかの聖人の目的を推し量ることは不可能だった。


「(議長の辺境の村への支援物資配達。あの腹黒独裁者がそんな殊勝なことをするなんてどんな風の吹き回しかと思ったけど、なるほど、取り引きだったんだね)」


 報告の中の一文を見て彼は納得したらしい。しかし、彼は議長の企みを看破したにも関わらず苦い顔をする。


「(物資の配達が行われた村はいずれも、変装している勇者の拠点で、議長はそこにいた勇者たちに物資を渡すことと引き換えに停戦協定を結ぶという取り引きをしてた。高沢来が向かわされたのは、そのためにわざわざ戦力として貴重な勇者を使うことで信頼を示すため……表向きは、ね。おそらく物資には毒が混入してる。けど、さすがにそんなことされたら勇者たちだってそれに気づかないわけがない。……議長(あいつ)深化心臓(クリムゾンハート)を使ったか。あれならまず気づけないし、リスクはないに等しい。僕でも見抜くのは無理だ)」


 イビリスはさらに報告書のページをめくり、別件の情報に目を通しながら議長と勇者たちの取り引きについて思案する。その行く末を想像しながら。


「(あの物資には深化心臓(クリムゾンハート)から零れた毒が混入している。時間をかけて勇者たちを中毒死させるのが本来の目的で、開戦の延長や停戦じゃない。そもそも、最初からそんな気はなかったんだろうね。あれはまともに人が扱えるような代物じゃないけど、まあ、ある意味では有効活用できているのかな)」


「失礼します。イビリスさん。新しい報告書があがってきたので持ってきました」


「助かるヨ。ソウダ、倉庫にコレと同じ物を人数分用意してアル。持っていくとイイ」


「助かります。いつも私たちのことを考えてくださって、支援してくださりありがとうございます」


「いいヨ、いいヨ。気にしないデ」


「では失礼します」


 イビリスの書斎に幹部勇者が報告書を持って入室し、彼に手渡す。イビリスは手渡された報告書にざっと目を通すと、どこからか取り出した小指の爪ほどの大きさの白い球体をテーブルに置く。それは球体であるにも関わらず転がっていく様子はない。そして、にこやかに微笑みながら幹部勇者に持っていくよう促す。

 倉庫にもあるとイビリスは言ったが、勇者の人数分あるのならそれは途方もない数だ。現在、勇者は北大陸を除いて1つの大陸に数百人はいる。個数の合計は、まず千はくだらないだろう。


 イビリスは幹部勇者が部屋を出たことを確認すると遮音結界を自身の体の周りにだけ展開し、誰ともなしに呟いた。


「……そう。本当に気にする必要はない。なにせ僕は君たちの志に共感なんて1つもしていないからね。君たちをただの兵士として、舞台装置として利用しているのはこの僕。だから、存分に踊るといい。目的を達して支配者となるか、失敗して人類の敵になるか、健闘を祈ってるよ」






「(へー。そんなところにあったんだね。パスュがデラリーム連邦を追われる原因になった兵器、その名もソウルイーター。兵器自体は僕も欲しくなるほど強力だけど、いかんせん燃料の調達が難しいんだったね。まあ、深化心臓(クリムゾンハート)みたいなレベルの力を持つ物を核に据え、エネルギー源にすれば問題は解決……しないね。あれはほぼ常に幾重にも魔術を厳重にかけた封印状態にしておかないと、周囲に『毒』を撒き散らすからエネルギー源として使うには向かない。アレには僕でも近づきたくないなぁ……)っと、もうこんな時間か。時間が過ぎるのは速いね……」


 幹部勇者がイビリスの書斎をあとにし、彼が報告書を読み始めてからいくらかの時間が経った。

 勇者たちと騎士や冒険者たちによる戦闘の結果や、『七大勇者』と呼ばれる勇者の中でも強大な力を持ち、その頂点に立つ7人の勇者の侵攻予定の国や監督する予定の勇者集団、戦争開始前には判明していなかった強敵の存在、こちらに味方しない勇者の中でも強い者などなど。これからすべきことが見えてきた、とイビリスは考えをまとめ始める。

 追加でもたらされた報告書をも読み終わった頃、彼は部屋が少し暗くなり、赤みが差したことに気づくと振り返って窓の外を見る。するといつのまにか夕焼けが空を赤く染め、部屋に差し込む光は西の方角へその向きを変えていた。


「そろそろ休むかな。すべきことは夕食のあとにまとめればいいか」


 イビリスはそう言うと書類を書斎机の引き出しにしまい、肩や腰のこりをほぐしながら立ち上がった。彼はふと窓の外、眼下の街並みを見つめるとどこか寂しげな表情で呟いた。


「あいつら、元気にやってるのかな。……いや、この僕が手ずから鍛えたんだ。大丈夫に決まってる。今なにしてるのかは分からないけど……まあ、こんな僕だ。会うことはないだろうね」






 中立国ポップから西へ向かう街道、そこを十数台の馬車と、武器を持ち馬に乗った数十人余りの護衛がピリピリとした雰囲気を醸し出しながら結構な速度で進んでいた。馬車の中にいる者も護衛も、どこか余裕がない。彼らは右前方に広がるフロト大平原を横目に、とある目的地へと歩みを進めている。けして観光のためにこんな強行軍紛いの動きをしているわけではない。

 フロト大平原。そこは東大陸の南半分を支配する3つの国、天空国マジェス、神聖国レインボー、中立国ポップが接する国境沿いにある巨大な平原だ。草原や湖や森、岩場などなど、平原というにはあまりにも統一感がない。ロール廃城と似た、しかしそれよりも大きい規模の構造物が散見されることから古代の王国の首都はここにあったと推測されている。なお、中立国ポップの南側にあるロール廃城は嫉妬の魔王領に対抗するための前線基地だったのでは、と言われている。

 そんなフロト大平原はいわくつきの平原だ。

 本来ここは自然豊かな場所で、薬草や魔術の触媒など、さまざまなことに役に立つたくさんの種類の植物が大量に自生しているのだが、禁止されているわけでもないのに、立ち入る者はほとんどいない。食い詰めた冒険者や行き場をなくした犯罪者ですら避ける。

 今から10年前、ここには東大陸にその名を轟かせるとある闇組織の根城があった。その組織は違法な物品の密売や暗殺の手配、個人情報の売買、果ては人身売買にも手を染めていた。しかも集団としてかなりの武力を有しており、冒険者による討伐や騎士の派遣、同業である暗殺者など、何度も差し向けたが殲滅に成功することはなかった。

 彼らの度重なる違法行為に困り果てた国のトップたちは三ヶ国合同で軍を派遣した。そこには当時、Sランク冒険者となって10年が経ったゴッゾもいた。戦いは熾烈を極め、敵味方に大量の犠牲者は出たもののなんとか合同軍が勝利を収めた。組織の首領や幹部の多くを捕らえ、闇組織はもちろん、その傘下の組織の全てを滅ぼすことに成功した。人々は邪悪な者たちが滅んだことに大いに喜び、彼らが独占してきた植物資源が手に入ることに目を輝かせた。

 しかし、それからだ。フロト大平原で不可解な事件が起こるようになったのは。最初はなんでもない、Cランク冒険者の失踪だった。そのランク帯にありがちな油断と慢心が招いたことだろう、と最初は誰も問題にしなかった。事実、そういったランクの冒険者たちの「慣れ」から身の丈に合わない依頼を受けてパーティ全滅、というのはありがちなことなのだ。

 だが、そのありがちな出来事に加え、高位の冒険者にも同じことが起こる。さらには大平原の浅い場所を訪れただけの民間人や商人の失踪が同じ場所で長い期間続いた。この異常事態に三ヶ国は原因の調査のために選りすぐりの冒険者や学者を送り込んだ。が、はっきりとしたことは分からなかった。失踪した冒険者たちの遺体も、パーティが全滅するような戦闘の痕跡も、この異常事態を引き起こしている何者かも。発見どころかその糸口すら掴めなかった。まるで最初から何事もなかったかのように。

 それ以来、フロト大平原には誰も近づかない。なにが起こっているのか、国家の、それも三ヶ国の力をもってしても解明どころか手がかりのカケラすら捉えることができなかったのだから。

 しかし、ただ1人今も頻繁に足を運んで手がかりを探している者もいる。誰しもが半ばで諦めたことを10年も。ゴッゾだ。彼はそこに深い因縁があり、今も暇を見つけては足を運んでいる。






 時折吹く風が草木を揺らし、蹄の鳴らす軽快な音が辺りに響いていた。しかし馬車に乗る者も護衛も、誰も喋る者は誰一人としておらず、薄気味悪い沈黙がこの場を支配していた。

 しかし、馬車にただ1人、その支配など屁でもないと鼻歌を歌う青年がいた。蛇木直也だ。彼ら葉桜結理から譲り受けたブレードを手にある目的のために神聖国レインボーを目指している。


「(疎開、ね。確かに神聖国レインボーは元から結界が張られていて国内は魔物や侵入者による脅威がほぼないから安心だ。トップが変わった最近は結界は比較にならないほど強固になり、色彩騎士隊がほぼいなくなっているにも関わらず軍事力は数段上がっている。戦争が本格化する前に安全な場所に逃げるのは正しい判断なのは確かなんだけど……少々薄情じゃないかな? ま、命より大事なものなんてそうないからね。)」


 蛇木は馬車の外を窓越しに眺める。いわくつきのフロト大平原を避け、昼の街道を行く護衛たちの表情に落ち着きはなく、緊張しているように彼には見えた。しかし、蛇木にそれはない。あるのはより良い未来への希望だけだ。


「それにしても、また会うのが楽しみだな、結理。今度はもっと強くなった君と私で手合わせだ」


 希望とは言っても、余人には理解の及ばないバトルジャンキーとしてのものだったが。



スキル《拡張》 対象をスキルに限るものの、その能力の有効射程と効力を引き上げることができる。ただし、射程を伸ばせば伸ばすほど《拡張》の効果は弱まる。


スキル《備蓄》 ストックした分のHPMPを使っての即時回復。ポーションとは違い、即時に回復効果が期待でき、熟練すると回復量の上昇やストックの個数が増加する。

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