第82話 大掃除
お久しぶりです!
買い出しの翌日、優梨・葵・咲緒理・紗奈の4人は午前中に各々自分の部屋の掃除を終え、昼食の後に厨房に集まった。全員エプロンをして、髪の毛も邪魔にならないようにまとめている。
まず4人は厨房にある食器棚から始めている。やり方は至極簡単で棚から中身を出し、傷ついたり壊れたりしていないかを確認した後《清浄》をかけてまた棚にしまうだけだ。
「ただ数がかなりあるんだよね」
食器棚の前に立つ優梨が呟いた。
「この家に住み始めて半年足らずだけど、この食器棚の中って全部見たことないかも」
優梨の隣に紗奈は立ってそう言った。
「この家に住み始めた時はもっと種類があったんだよ」
「そうなの?」
「うん。ほら、この家って元々貴族のお屋敷じゃない? だから昔は大勢を呼んだ食事会やお茶会、大掛かりなパーティーとかをしていたんだろうね。そのための食器類が大量にあったの……100人分とかね」
「……1種類で?」
「そう、1種類で。そしてサイズも種類もたーくさん。多分コース料理とか出してたんじゃないかな」
「……洋食器だけ?」
「ううん、和洋中全部だよ。流行りとかコンセプトとか、そう言うので使い分けていたのか本当に色々あったよ。あとカトラリーも色々あったよ」
紗奈は色々と想像していたが、あまりの膨大な量に考えるのを止めた。
「私とアオとサオが住み始めた時はね、あまりにすごすぎて手をつけなかったんだけど、佳穂が住み始めた時にさすがに整理したの。それで、今はそれぞれ20人分くらいに減らして他はしまうことにしたの。絶対に使わないって判断した物と一緒にね」
「……大変だったね」
「まぁね……とりあえず、始めようか」
優梨の言葉を合図にそれぞれが動き出した。優梨は食器棚からひたすら中身を出し、紗奈がそれを受け取って厨房の真ん中にある大きな作業台まで運ぶ。葵と咲緒理は作業台でヒビが入ったりかけたりしていないか確認し、あれば《修復》で直している。その後《清浄》で綺麗にしてから作業台の隅に重ねて並べている。あとはこの工程をひたすら繰り返すだけである。
食器棚が終わると、今度は調理台から調理器具と調味料の入れ物を取り出し、食器と同じように作業を進めた。さらに調味料は《鑑定》で賞味期限や劣化具合を確認し、問題がなければ入れ物に戻して、古くなっていればそのまま処分している。
3時間後、食器棚と調理台から出す作業を終えた優梨と紗奈も葵たちの作業に加わり、その作業も目処がついて来た。今は《清浄》を終えた食器や調理器具を元あった場所に戻している最中だ。
「すっごい量だったね……」
片付いてきた作業台を見て紗奈が呟いた。
「全部出して見ると『そういえばこんな食器があったな』って思うのが出てくるから面白いよね」
「前はこれよりあったんでしょう?」
「うん。だから最初の選別は本っ当に大変だった」
優梨、葵、咲緒理の3人はその時のことを思い出したのか少しだけ顔色が悪い。紗奈はそれを見て苦笑いを浮かべたかと思うと、首を傾げた。
「今ってその選別した食器類はどこにしまっているの?」
「今は別棟に全部しまっているよ」
「別棟?」
紗奈はまた首を傾げ、つられるように優梨たちも首を傾げた。
「あれ? 紗奈ちゃんってもしかして別棟知らない?」
「うん……実はこの間の大掃除の話を聞いた時から気になってたんだけど……」
「行ったこともない?」
「うん。むしろあることすら知らなかったよ」
優梨、葵、咲緒理は唖然と互いの顔を見合った。
「え~、誰かしら案内していると思ってた……」と優梨。
「私も……」と葵。
「そもそも私たちもよっぽどじゃなければ行かないしねぇ……」と咲緒理。
優梨たちは作業する手を止めず、そのまま話を続けた。
「えっとね、紗奈ちゃんはこの家の裏にある庭は知っているよね?」
「うん。結構広い庭だよね。温室が4棟あって、そこでは野菜とか薬草を育てているんだよね? あと庭の中央に結構大きな東屋があるよね」
「うん、そう。それでさ、その庭とかを抜けたところにちょっとした林みたいに木がいっぱい生えている場所があるじゃない?」
「そうだね」
優梨の言葉に頷き、紗奈は初めて庭を散策した時のことを思い出した。広大な庭は勿論だが、まさか庭の先に林まであるとは思わなくたいそう驚いたことを覚えている。そこにあるどの木も背が高く、さまざまな種類があるように紗奈には見えた。意外と深そうで入ったらそのまま迷子になりそうだと感じ、中までは入ったことはない。
「じゃあ、あの林の先にまだまだ敷地があるって知ってる?」
「……えっ!? あそこで終わりじゃないの!?」
驚きに声を上げる紗奈に、優梨たちは「やっぱりかー」と呟いた。
「あんまり歩いたことないかもしれないけれど、玄関前の中央道から横に行く道のいくつかはあの林の向こうに繋がっているよ」
「そうなんだ……あの向こうには何があるの?」
「色々あるよ。……と言っても、現状私たちにはあまり縁のない場所かなぁ」
「縁がない?」
優梨たち3人の説明によると、あの林は今ほど深いものではなかったが以前から存在していて“目隠し”の役割をしていたものだった。あの向こうには優梨たちが暮らす屋敷ほどじゃないがそれなりに大きい別棟が2棟、使用人用の住居が3棟、大きめの車庫が1棟、結構大きな獣舎が2棟ある。
別棟はいわゆる「離れ」であり、訪れた客人が屋敷に宿泊しきれなかった場合や長期滞在する際に当主家族に気兼ねなく生活できるように使われることが多い。現在は俊哉以外泊り客など訪れないので、屋敷で使われなくなった物などをしまう場所として利用されている。
使用人用の住居は寮みたいなもので、以前この屋敷で雇われていた大勢の使用人の中で住み込みの者のためにあった。独身者向けの住居が男女それぞれ1棟ずつ、家族で暮らす使用人向けの住居が1棟だ。これらも当然ながら現在は使用していない。
車庫は数台の車が止められるだけの広さがあり、整備するための道具が並ぶ棚もあった。今は使っていないが、将来的には使うのではないかと優梨たちは考えている。
獣舎は元々馬や大型の騎獣、従魔の寝床とされていたのだろう。2棟もある上にそれぞれが数頭は飼えるだけの広さがあるので、昔はたくさんの動物や従魔がいたのだろうと考えられた。それぞれの倉庫には餌やりや掃除をするための道具も残っていた。当分は利用する予定はないが、いつか使うこともあるのかなと優梨たちは思っている。
「そんなわけで、私たちも年に1回それぞれにかけている状態保存の魔法のかけ直しと一応の《清浄》をかける時ぐらいしか行かないから、すっかり忘れていたんだよね」
「なるほど……」
「誠史くんは向こう側の庭とかの手入れのために月に1回は行っているみたいだよ」
「よく知っているね、アオちゃん」
「時々お手伝いしているから」
そう言って笑う葵に優梨は「抜け目ないね」と呟いた。
色々と話している間に食器類や調理器具をすべてしまい終わった。次に優梨たちは魔道具タイプの調理器具の整理を始めた。大型のタイプは昔からあるものだが、細々とした物は優梨たちが厨房を使うようになってから買ったものだ。
「魔道具はメンテナンスが必要か《鑑定》して、必要だったらまとめて朔夜と玲に預けます」
二手に分かれ、優梨は紗奈に説明をしながら一緒に作業を進めている。
「あの2人がやってくれるんだ」
「うん。大抵のメンテナンスと修理はできるみたいだよ。素材とか技術が特殊になると無理みたいだけど」
「そもそも自分でも作ってたよね? あの2人」
「多趣味だよね」
「多趣味っていう域を超えているような……」
「あの2人に関しては深く考えない方がいいよ。キリがないから」
「まぁ、確かに……」
紗奈が一緒に暮らし始めてから半年も経っていないが、優梨の言葉には十分納得できた。
魔道具は食器ほど数がないのですぐに終わった。ほとんど問題なかったが、半分ほどの魔道具が魔石の交換や魔力を込めた方が良さそうだった。朔夜たちに渡す分はとりあえず食堂のテーブルに置いておいた。
そして、いよいよ貯蔵室の掃除と整理に移った。
貯蔵室は主に食材と厨房で使う様々な物を補完する部屋だ。スーパーにある陳列棚に似た棚がいくつも並び、大型の冷蔵庫と冷凍庫が2台ずつ置かれている。他に湿度と温度を一定に保つ保存庫やワインセラーのような物もあった。
優梨たちは最初に室内全体に《清浄》をかけ、整理は分担することになった。優梨と葵は冷蔵庫・冷凍庫・保存庫を担当し、咲緒理と紗奈は棚の方になった。
貯蔵室の冷蔵庫や冷凍庫はそれぞれ独立していて、両開きのドアが上下にある。業務用の大型タイプの物だがさらに魔道具でもあり、中は外よりも時間の流れが減速しているため中身が劣化する速度が遅い。さらに庫内が常に綺麗に保たれるようにされていて、万が一汚れてしまうような事態になってしまっても問題ない上に、菌やカビの繁殖も抑えられるようになっている。
優梨と葵は手分けして中身の確認を始めた。《鑑定》で保存状態を確認してまだまだ持ちそうな食材は戻し、使った方が良さそうな食材はそれぞれの《無限収納》にしまった。あとで厨房の方にしまう予定だ。
「意外と冷凍したお肉が残っているなぁ……あっ、前にギルド街で買ったお肉まだ残っていたんだ……これは移動かな」
「優、このチーズのブロックは向こうに移動する?」
「んー……確かこの間全部使いきったと思うから移動しようか」
「了解」
優梨は冷凍庫、葵は冷蔵庫を担当して互いに確認しながら作業を進めた。
「そろそろこのリンゴは厨房に持っていこうかな」
「意外とコンソメとか中華スープのストックも少ないね。次の買い物の時に少し買い足そうか」
「そうだね。後で厨房の買い物リストに書こう」
咲緒理と紗奈が作業している棚は冷蔵庫類と同じ効果のある魔道具だ。常温保存ができる食材が主に置かれ、棚ごとに野菜と果物、調味料、保存食品など種類に分けられている。さらにラップやアルミホイル、洗剤などの日用消耗品や普段はあまり使わない調理器具が置かれた棚もある。
食材類は優梨たちと同じように作業し、消耗品は買い足しがないか確認をして、調理器具は厨房でやっていた作業と同じように行った。今は咲緒理が野菜・果物の棚を、紗奈が調味料の棚の作業を進めている
「ねぇ、冷凍庫から前に買った限定品のアイスの箱が出てきたよ」
作業が終わる間際に優梨が他の3人に声をかけた。優梨の手には少し高級なアイスクリームが6個入った箱が3箱ある。秋の限定でなくなる前に買った物だ。どれもまだ開封していない。
「じゃあ明日、年越しそばの後にみんなで食べようよ」
「いいね」
葵が嬉しそうに言い、咲緒理も目を輝かせながら頷いた。
「そうしたら今日のやることはほぼ終わったし、このアイスはあっちの冷凍庫に入れようか」
作業が終わって最後に一通り中を確認した後、優梨たちは貯蔵室から出た。厨房に戻ってから仕上げの片づけをして厨房から持ってきた食材類を各々の収納場所にしまった。
「ふぅ、終わったー」と優梨。
「みんなお疲れ様ー」と葵。
「アオちゃんもお疲れー」と咲緒理。
「あとは明日のおせち作りと年越しそばだね。初めてだからちょっと楽しみ」と紗奈。
厨房の中を一通り確認した後、4人は食堂のテーブルに座って少し休むことにした。
「ところで、明日の作業は基本的にペアを組んで分担してやろうと思うんだけど、どうかな?」
優梨が聞くと、他の3人は同意するように頷いた。話し合いの結果、優梨と葵、咲緒理と紗奈がペアになることが決まった。
「じゃあ、あとの具体的なことは明日決めても間に合うから、今日はおしまいにしよう」
「「「うん」」」
4人は少し雑談をすると、それぞれの部屋に戻った。
夕飯時、今日は全員が忙しかったためそれぞれで用意した。事前に買っていた人もいれば、軽い夕飯を作った人もいる。それぞれ持ち寄って全員で食堂で食べた。優梨は葵と咲緒理とおかずの交換をしたりして夕飯を楽しんだ。夕飯を終えた後は、全員が明日に備えて早めに休むことにした。
新年を迎えるまで残り1日。年末のやる事もいよいよ大詰めである。
ここまで読んで下さりありがとうございました!
長い間更新できずに申し訳ありません。
色々と生活習慣・生活環境が変わり、なかなか執筆・更新が出来ずにいました。
今後も更新が途絶えがちになってしまうかと思いますが、少しずつ時間を見つけて執筆と更新を進めていきたいと思います。
続きを心待ちにしてくださる読者様には、長らくお待たせさせることになってしまうので大変申し訳ありませんが、ぜひ応援してくださると幸いです。
次回の更新はまだ未定ですが、できあがり次第更新したいと思います。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!
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