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第69話 闇

この章は短いです。

 ――いつか、伝えたいと思っていたことがあるの。

   あの日から、伝えたかった言葉が……







 優梨たちからの電話が突然切れてしまい、咲緒理は真っ暗な画面を見つめた。

 閉じ込められてから段々と暗くなる倉庫内で、唯一の明かりとしてずっとライトをつけていた。そのせいで充電は一気に減り、遂には切れてしまった。


「…………」


 スマホを持つ手が力なく下がり、最早使い道の無くなったスマホが床に転がった。

 入口からほど近い場所で、咲緒理は偶然見つけたマットに座り、摘まれた段ボールに寄りかかっていた。そのマットに咲緒理はゆっくりと体を横たえた。


「(どのくらい時間が経ったんだろう……)」


 それほど長い時間は経っていないはずだが、咲緒理にはもう何時間もここにいるような気がしていた。


「(何も見えない……《点灯(ライト)》とか火を出す魔法って、どうやったら良いんだっけ……そもそも魔法、使って良いんだっけ……?)」


 咲緒理は脱出が難しくても何とかこの場をしのごうと色々と試した。しかし、いつもはほぼ何も考えなくても使えている魔法が、何故か上手くいかなかった。今の咲緒理は、小学生以下の子ども並みの魔力操作しかできなくなっていた。


「(優もアオちゃんも紗奈ちゃんも、みんな心配しているかな……)」


 咲緒理はそっと瞼を閉じた。瞼の裏の暗闇に、優梨たちの姿が浮かんでは消えていった。そして最後に、紺色の髪の幼い少女が浮かんできた。少女は暗闇からじっと咲緒理を見つめている。


「(……こうなるといつも思い出す……あの頃のことを)」


 少女の姿が少しずつ霞んでいき、同時に咲緒理の意識も薄れていった。

 そして、咲緒理は夢を見始めていた。遠い昔の、忘れ去りたい記憶の夢を……自らの幼い頃の夢を……




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 物心がつく頃には、咲緒理はすでに国が運営する養護施設にいた。周りの情報によれば、生まれた頃から最初の1年は乳児院にいて、その後は養護施設に移ったらしかった。

 咲緒理の記憶では、その頃にはすでに力のコントロールは粗方できていた。しかし、時折コントロールが効かなくなったり、何かの拍子に猫耳や尻尾などもう1つの姿の片鱗を出してしまったりしていた。そのせいで施設の職員や子どもに白い目で見られ、遠巻きにされていた。


 気付いた時には、咲緒理はいつも一人で行動していた。さすがに最低限の世話はされていた。それでも、咲緒理はいつも独りだった。




 小学校へ上がる年に、咲緒理は施設を移った。それまでの国営の施設とは違い、民間の養護施設だった。施設長同士の間でどんなやり取りがされていたのか、咲緒理には知る由もなかったが、咲緒理への待遇はあまりいいとは言えなかった。

 施設ではある程度年齢が上がると、子どもにも様々な役目が与えられていた。しかし、咲緒理はまだ小学生になったばかりの年齢にも拘らず、日々の様々な雑用を押し付けられていた。

 また、施設には様々な事情を抱えた子どもたちがいたが、その子どもたちの憂さ晴らしの対象に咲緒理はされていた。数少ない私物を隠されたり汚されたり、施設で出される食事をわざと落とされたり取られたりもしていた。時には小突かれたり、足を引っかけて転ばされたりもした。

 施設の職員はその行為を一応注意したり叱ったりしていたが、ただ形だけやっているだけで大半は見て見ぬふりをされていた。




 そして、事件は咲緒理が施設を移ってから間もなく起きた。


 ある日、咲緒理はいつものように施設にいる年上の子たちからいじめられていた。ただ、その日は子どもたちの虫の居所が悪かったのか、普段よりもエスカレートしていた。

 最終的に咲緒理は、食べていた食事をひっくり返され、その上に突き飛ばされた。頭から足の先まで汚れて座り込む咲緒理を、その場にいた全員が笑った。大人も口先では注意しながらも、その目と口元は笑っていた。

 咲緒理は固く拳を握り、目に涙を浮かべた。この施設に来てから、絶対に泣くものかと歯を食いしばってきた。しかし、咲緒理の心は限界だった。


『(何で……何で……っ? 私が、何をしたって言うのっ!?)』


 沸々と心に怒りが湧き、魔力が全身から溢れ出るのを感じた。そして、それまで我慢していたものが一気に爆発した。


 気が付いた時には咲緒理は魔力を暴発させ、獣人としての姿を現していた。その姿に、子どもだけでなく職員の大人までが恐怖に震えていた。すぐ側にいた何人かは魔力の暴発に巻き込まれ、軽い怪我を負っていた。


『っ……ミ、異能者(ミュータント)だ……異能者だぞ……っ!』

『……っ、ば……化け物……っ!!』


 誰かがそう叫んだ。それを聞き、咲緒理は幼いながらも自分が取り返しのつかない事をしてしまったのだと、理解した。




 それから咲緒理の生活は一変した。それまでは狭いながらも普通の部屋で生活していたが、小さな窓しかない物置のような部屋に変えられた。


『お前はここに入っていろ……』

『ここがお前の、いるべき場所だ』


 初めてその部屋に連れてこられた日、職員の男2人はそう吐き捨てて部屋の鍵を外から閉めた。

 その日から咲緒理の生活は、学校へ行く時と1日に数回程度トイレのために出る時以外この部屋で過ごすことになった。

 食事は1日に2回、職員が交代で持ってきてドアを開けてすぐの所に置いていた。食事と言っても、他の子どもたちや職員に配られた後の僅かな残りだったり、野菜くずや残飯としか言えないようなものだったりした。その食事すらも、たまに忘れられたり荒らされたりしていた。

 お風呂はやっぱり他の子どもたちや職員が入った後だった。湯船に湯はほとんど残らず、残っていても冷え切っている。シャワーは使えたが、給湯器が切られて出てくるのは冷たい水だ。咲緒理は冷たさに耐えながら簡単に入り、部屋に戻った後こっそりと《清浄(クリーン)》で落としきれない汚れを綺麗にしていた。

 まともに電気の付かないこの部屋は、昼間はかろうじて窓から多少の光が入ったが、夜は月の光以外の明かりはなく、ほとんど真っ暗だった。部屋に移ってから咲緒理は、明るくなってからすぐに起きて宿題など暗くてはできないことを済ませ、暗くなってからは食事とお風呂が済んだらすぐに寝る生活になった。どうしても明かりが欲しい時は、部屋の外に漏れないように注意しながら《点灯(ライト)》を使って小さな明かりを出していた。

 さらにこの部屋は、夏は暑く冬はかなり寒かった。当然エアコンや扇風機などはなく、咲緒理は様々なスキルを駆使して自分の周りの温度を調節して、何とか夏と冬を過ごしていた。


 咲緒理は数年間もこんな生活をしていた。以前のように雑用などを押し付けられることはなかったが、その代わりほとんど人との接触はなく、暗い部屋でジッと過ごすだけの日々だった。

 そんな生活に、10歳を迎える年に変化があった。




 ある日のこと、学校から帰ると他の子どもたちの様子がおかしかった。どこかイライラした様子で、帰ってきた咲緒理を睨んでいた。その子たちと同じ小学校に咲緒理も通っていたが、学校でも独りでいることがほとんどの咲緒理には睨まれるような覚えはなかった。咲緒理は気にしないようにして、その時はそそくさと部屋に入った。


 その日の夜、誰もが寝静まった真夜中のこと。咲緒理は扉の鍵が開く音と人の気配で目を覚ました。体を起こし、こんな夜中に誰だろうかと目を凝らすが、廊下の電気も消えているせいでほとんど何も見えなかった。ただ、相手の眼だけはやたらと良く見え、ギラギラと睨まれるのを感じた。足音が段々と近づき、側に立つのを感じると咲緒理は声をかけようとした。

 次の瞬間、咲緒理は頬に衝撃が走るのを感じた。思わず蹲ると、今度は体のあちこちが痛みだした。相手が誰かは分からないが、殴られたり蹴られたりしているのだと分かった。

 相手が誰なのか、何人いるのか、いったいこの暴力がいつまで続くのか、何も分からない咲緒理はただ耐えた。しばらくして相手は満足したのか、部屋を出て行って鍵を閉めた。

 咲緒理は痛む体を引きずり、酷く粗末な布団に横になると気絶するように眠った。


 この日を皮切りに真夜中の暴力が始まった。単独のこともあれば複数人のこともあり、短時間で済むこともあればいつまでも長く続くこともあった。連日やって来るときもあれば、数日は間が空くこともあった。初めは所かまわず殴ってきていた相手も知恵を働かせたのか、段々と見える場所を避けて服で隠れる場所を狙うようになった。

 気付けば咲緒理の体中にはいくつもの傷や痣ができていた。幸い治癒属性魔法が使えたから、怪しまれない程度に治療ができて大事には至らなかった。それでも毎回痛みと恐怖に耐えるのは、とても苦しかった。




 そして、遂には子どもだけじゃなく職員である大人までが来るようになった。しかも、中には何も知らない子どもなら向けてこないような視線を向けてくる職員もいた。その視線の意味をまだ小学生の咲緒理には分からなかったが、暴力とはまた違う危険を感じ、精一杯抵抗した。すると、抵抗されたことに逆上した職員は、酷く暴力を振るってきた。


 咲緒理は毎晩のように部屋の隅で座り込み、暗闇の中で怯えていた。大体、消灯から1時間ほど経ってから相手はいつも来る。それからはただひたすら相手が満足するのをじっと我慢していた。声を上げなかったのは、一度声を上げようとして口を塞がれた挙句、強かに顔を叩かれたことがあったからだ。

 誰も来ない日は、やって来る時間帯を大分過ぎてから咲緒理はやっと眠りについていた。




 ――ここにいたら、いつか殺されてしまう……




 身の危険を感じた咲緒理は、中学からでも施設を出ようと決意し、寮のある学校を必死に探した。場合によっては施設から出ないと通えない場所の学校でも良いと思っていた。


 必死に探し続けて見つけたのが「藤永学園中等学校」だった。


『(この学校なら寮もあるし、独自の特待生制度とかも充実している……)』


 施設があるのと同じ都内だったが距離はそれなりに離れているし、その他も咲緒理が探す条件とほぼ一致していた。それにとてもレベルの高い学校のため、同じ施設の子どもと一緒にはならないだろうとも思えた。

 特待生制度の条件は厳しいが、特待生になれば身寄りのない咲緒理にとっては十分すぎるほどの待遇を受けられる。


『(ここにしよう……)』


 藤永中学校への受験を決意すると、咲緒理は昼夜関係なく必死に勉強をした。元々成績は悪い方ではなかったが、念には念を入れてこれまで以上に力を入れた。

 それほどまでに、咲緒理はこの施設から出ることを切望していた。




 月日は流れ、咲緒理は無事に藤永中等学校に合格した。それまで全てを極秘に進めていたが、遂に施設長に話す時が来た。

 合格通知を受け取ったその足で、咲緒理は施設長の元へと急いだ。事務所に向かう途中の施設長を呼び止め、通知を渡した。その流れで「この中学に通う事になった」と話した。

 施設長はしばしの間、その通知を眺めていた。その間、咲緒理は唇をキュッと結び、不安げな面立ちで施設長を見つめた。

 どれくらいの時間が経ったのか、施設長は不意に顔を上げた。


『いいだろう。必要な書類にはサインをしてやる。特別に、規定通りの仕送りも多少はしてやる』


 その言葉を聞き、咲緒理は安堵の息を吐いた。自然と顔が綻ぶのも感じた。


『ただし……』


 まだ続いていた施設長の声に咲緒理は我に返り、施設長を見上げた。


『それ以上のことは自分でなんとかしろ。仕送りも中学の間だけだ』

『……はい』

『それから……施設を出る以上、もう二度と戻って来るなよ。何があろうと、な……』


 そう言って、施設長は合格通知を咲緒理に押し付けるように返し、横を通り過ぎて行ってしまった。その足音が聞こえなくなると、咲緒理は側に壁にもたれかかった。


『……二度と戻るな、か』


 自嘲気味に小さな呟きが零れた。


 元よりそのつもりだった。それなのに、どうしてこんなにも胸が痛むのか……

 咲緒理には、その理由が分からなかった。






 4月、咲緒理は藤永学園中等部に無事入学した。入学式の前日には、学園が運営する寮にも入ることができた。


 藤永学園の寮は、全室個室で間取りは1Kであり、バス・トイレは各部屋にある。基本的な家具や電化製品は各部屋に揃い、洗濯関連の家電はフロアで共有となっている。

 食事は月曜日から土曜日の朝と夜の二食を寮ごとにある食堂で食べられる。日曜祝日の休みの日は、事前に希望すれば夜の一食だけが食べられる。


 《無限収納(インベントリ)》に頼らなくても、少し大きなカバンに全てが収まるほど僅かな私物を持って、咲緒理はこの寮へと入った。部屋に入って中を見渡すと、咲緒理は嬉しさが胸に込み上げてきた。

 これからは僅かな明かりの中で勉強をする必要もなく、温度管理の整った部屋で過ごせる。マットレスは少し硬めだが、硬いフローリングの床に敷かれた薄っぺらくてほとんど役目を果たしていない布団と毛布と違い、温かいベッドで寝られる。そんな当たり前のことが、咲緒理には嬉しくて堪らなかった。


 しかし、施設での日々は咲緒理が思っている以上に咲緒理の心を蝕んでいた。

 咲緒理がそれを知ったのは、寮に入って最初の夜だった。夕食を終え、入浴を済ませて寝る準備を進めた。部屋を暗くし、ベッドに入って眠りについた。




 咲緒理は真っ暗闇の中に立っていた。右も左も、前も後ろも何も見えない暗闇の中で、咲緒理は独りだった。

 どこからともなく押し音が聞こえてきた。裸足で冷たい床を歩く音、革靴で歩く音、スニーカーの音、ハイヒールの音、様々だった。そのどれもが、確実に咲緒理に近づいて来ていた。

 咲緒理はその場から逃げ出そうとするが、何故か足が動かない。さほど時間も経たないうちに後の正体が側まで来ていた。


 施設にいた職員や子どもたち全員だった……


 相手が誰なのか分かった次の瞬間、咲緒理はその場に倒された。その後は体のあちこちに衝撃と痛みが走った。施設にいた頃のように殴られ、蹴られていた。


『痛っ……痛い……っ!』


 痛みを訴えるが、一方的な暴力は一向に止む気配がない咲緒理は体を小さく丸めて痛みに耐えた。そうしている内に1人、また1人と消えて行った。最後に残ったのは施設長だ。

 施設長は蹲る咲緒理の髪を掴んで無理やり顔を上げさせた。痛みに歪む咲緒理の顔を覗き込むように、自分の顔を近づけた。


『逃げられると思ったか……? ここがお前のいるべき場所だ……』




 ――お前は一生、ここにいろ……




『いやぁぁああああああああっ!!』


 叫び声をあげ、咲緒理は目を覚ました。勢いよく起き上がり、肩で息をする。素早く辺りを見回し、震える足でベッドから出て電気のスイッチを入れた。

 部屋が明るくなると、咲緒理は壁にもたれてずるずると座り込んだ。体の震えは徐々に収まり、早鐘を打っていた心臓も落ち着いていきた。その代わり、目が段々と熱くなるのを感じた。


『……っ、何で……』


 涙が溢れて流れた。咲緒理は体を丸めるように小さくし、膝に顔を埋めると嗚咽を漏らした。


 逃げてきたはずだった。やっと平穏が訪れたはずだった。

 それなのに、苦しみからは解放されていなかった……


 それからの咲緒理は、眠りに着いてから1時間も経たないうちに酷くうなされ、時には叫びながら目を覚ますようになった。さらには日が経つにつれ、ただ部屋を暗くしただけで体が震え出すようになっていた。部屋が暗くなった途端、咲緒理は施設にいた頃を思い出し、心身を恐怖が蝕んだ。

 ある時、あまりにも疲れ果てて部屋の明かりをつけたまま寝たことがたまたまあった。その日は目を覚ますことなく、朝までぐっすりと眠ることができた。それ以来、咲緒理は部屋の明かり消さずに眠るようになった。しかし同時に、ますます暗闇を恐れるようになってしまった。それでも、あの悪夢を見るよりはましだと咲緒理は考えていた。




 一方で藤永学園での生活は、咲緒理が今まで経験のした事がないものばかりだった。

 藤永学園は、髪色や服装に関する校則が当然存在していたが、何よりも重要視されていたのはあらゆる分野における「実力」だ。何かしらの実力があれば、見た目の差異は二の次と考える人が生徒・教師問わず大勢いた。

 それを物語るように学年問わず髪色や服装、持ち物やメイクなど個性の強い人が大勢いた。外国人の生徒もいるからか、さらに多様性に溢れていた。そして、そういった人たちは皆、何かしらの実力がある人だった。校則があるのだからと、苦言を呈する教師が一定数は存在したが、大半の教師は容認していた。そのことに咲緒理は戸惑いを感じることもあった。


 ここでは自分を受け入れてもらえるかもしれない。そう思う事もあったが、万が一見た目以上の事を知られてしまったら、今度こそ居場所をなくすと咲緒理は考えた。

 それ故に、入学してからずっとグループワークなどで誰かと行動しなければいけない時以外、咲緒理は独りで過ごしていた。周りが少しずつ友達を作る中、一人で過ごす咲緒理は周りの目には異様に映ったのか、多くの人が遠巻きにしていた。時には軽い嫌がらせを受けることもあったが、施設にいた頃に受けたものと比べてどうと言うこともなかった。

 このままずっと独りで過ごし続け、何事もなく卒業していく。そして、一生他人(ひと)と関わることなく生きていくのだと、咲緒理は考えていた。




 そう……このまま一生独りのはずだった……




 咲緒理の生活に変化が訪れたのは、2年生に進級してしばらく経った時だ。授業で行うグループワークで3人組にならなければいけなくなった。咲緒理は教室の隅で次々とグループが決まっていくのを眺めていた。

 こういった場合、最後に必ず人数が足らないグループが出るので、そうなったグループが仕方ないと言うように咲緒理をメンバーに加えていた。

 しかし、今回はいつもと違っていた。


『あの……』


 ぼんやりと教室の様子を眺めていたら、横から声をかけられた。ゆっくりと振り向くと、咲緒理から少し離れた所に女子2人が立っていた。1人は蜂蜜色の金髪に琥珀色の瞳の女子で、声をかけてきたのは彼女だ。その子に隠れるようにしながら後ろから覗き込んでいるのが、もう1人の真紅の髪と桔梗色の瞳の女子だ。

 あまり他人に興味を持たなかった咲緒理でも、彼女たちが誰なのかを知っていた。金髪の女子は汐崎優梨、真紅の髪の女子は大野葵だ。

 2人とも明らかに日本人離れした髪と瞳で、一部の教師や保護者からは不良だと言われている。実際は、見た目が変わっているだけで成績はかなり良く、咲緒理と同じように1年生の時から特進クラスに所属している。同じクラスになったのは初めてだが、合同体育などで見かけることは多かった。ただ、人付き合いがあまり得意ではないのか、誰かと一緒にいるのはあまり見かけなかった。

 しかし、最近は2人が一緒にいることをよく見かけたし、生徒会長の天宮慶人やその友人たちと一緒にいることもあるらしいと噂を咲緒理は耳にしていた。

 それだけのことを知ってはいたが、咲緒理が2人とこうして話すのはこれが初めてだった。

 優梨は少し緊張したような笑みを浮かべた。


『もし良かったらなんだけれど……私たちと組まない?』


 思いもよらない誘いに咲緒理は驚いた。こんな風に誘われるのは初めてで、どう返事をしたらいいのかと放心してしまった。すると返事がない事に不安になったのか、優梨の視線が泳ぎ始めた。


『あの、えっと……い、嫌なら、大丈夫なんだけれど……』


 尻すぼみりすぼみする言葉に、咲緒理は慌てて首を横に振った。それを見た2人はホッとしたように息を吐いた。


『えっと、私は汐崎優梨。よろしくね』

『私は、大野葵です。よろしく』

『……日向咲緒理です』


 互いに自己紹介をして、3人は自然と握手をし合っていた。




 これが優梨と葵と咲緒理が初めて言葉を交わした時だ。この日を境に3人の友情が始まるのだと、この時の咲緒理はまだ知らなかった……




ここまで読んで下さりありがとうございます!



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