第37話 犬猿の仲
※少し痛い表現があります
「(あぁ……眠い……)」
学園祭の準備は順調に進み、当日まで残り数日になった。優梨たちのクラスのカフェも着々と形になり、完成が見えてきている。
しかし、優梨たちはまだまだやることがあった。慶人たちのウエイター、優梨たちのウエイトレスの衣裳は土日の間に持ち帰って完成させ、残りは慶人たちの女装の衣裳だけとなった。ウエイター・ウエイトレスの衣裳と並行して少しずつ作業をしていたが、ほとんど進んでいない。
徹夜はしていないが連日夜遅くまで作業をしているため、優梨は寝不足になっていた。ボーッとしているが、一応手は動いている。
「(さ、刺しそう~! 大丈夫かな……)」
うつらうつらとしつつ縫い物をする様子に、優梨の隣にいた葵はハラハラとしながら眺めていた。こんな時、大抵心配事と言うのは的中したりする。フッと一瞬だけ集中力が切れた途端、優梨は手元を狂わせた。
「っ、いったぁああああ!!」
眠気も一気に吹き飛び、優梨は手を抑えて叫んだ。葵は慌てて自分が縫っていた衣裳を側に置いて優梨に近づいた。優梨はすでに涙目になっている。
「優、大丈夫? ……えっ、結構酷いね」
すでに半泣きになっている優梨にオロオロしながら傷を見た葵は目を丸くした。優梨の傷は刺したというよりも針先で引っ掻いたような傷だった。それも結構深めな傷だ。
「――どうした。優、葵」
後ろから声がして振り返ると、段ボール箱を抱えた匡利が立っていた。
「匡利……」
「何やら声が聞こえたが……怪我でもしたのか?」
匡利は抱えていた段ボール箱を側にあった机に置いて2人に近づいた。葵は気持ち後ろに下がって匡利に場所を譲った。
「針で思いっきり引っ掻いたの……しかも、厚手の布用のちょっと太めの針で」
「大丈夫なのか?」
「結構深いから痛いし、血が止まらない~」
半泣きの優梨に匡利もどこか心配そうに話しかけていた。その様子を見ていた葵は、何かを思いついたように笑みを浮かべた。
「ねぇ、匡利くん。ちょっと、お願いがあるんだけど」
「……なんだ」
何かを察した匡利は、訝し気に葵を見た。一方の葵はニコニコと笑って匡利を見上げる。
「悪いんだけれどね、優を保健室に連れて行ってあげてほしいんだ。良いかな?」
「……えっ」
葵の突然の言葉に、匡利ではなく優梨が目を丸くした。匡利は表情を変えないまま葵を見下ろしている。
「ねっ、お願い!」
「お前が連れて行ってもいいんじゃないのか?」
まだ何か怪しんでいるのか、匡利は中々承諾しない。予想できた反応に、葵は少しわざとらしく大きなため息を吐いた。
「そうしてあげたいけれど、いっぺんに2人も抜けたら衣裳の完成が遅くなっちゃうでしょ?」
「…………」
葵の言葉に匡利は何か考え始めた。その様子に居たたまれなくなった優梨は立ち上がった。すると葵と匡利は、優梨の方を振り向いた。
「あの、私、別に1人でも……」
「何言っているの、優。もし、保健室の先生がいなかったら自分で手当てするの大変だよ? 消毒だってしなきゃいけないし、多分絆創膏じゃ足りないよ、その傷」
そう言われてしまうと、優梨は何も言えなかった。匡利もずっと考え込んでいたが、小さく息を吐いた。
「分かった。その代わり、葵」
「うん?」
「この段ボール箱を持てるか? 見た目ほどあまり重くないから、お前でも大丈夫だと思うんだが」
匡利に言われ、葵は匡利が持っていた段ボール箱を試しに受け取った。
「……うん。これくらいなら平気」
「じゃあ、それを誠史に渡してくれないか? 俺が頼まれたものだと言えば、分かるはずだ。時間もかからないと思う」
「うん、いいよ」
葵の返事を聞き、匡利は肩を竦めると優梨を振り返った。
「優、保健室に行くぞ」
「えっ、でも……」
どこか尻込みしている優梨はチラッと葵を見た。
「大丈夫だから行って。ねっ? すぐにサオちゃんも来ると思うし、この箱もササッと行ってくるから」
そもそも葵がどういう意図で匡利に頼んだかは優梨もよく分かっていた。匡利もすでにその気になって優梨が来るのを待っている。もう一度葵に目を向けると、葵は満面の笑みを浮かべていた。
「うん……じゃあ、お願いね」
ここは葵の厚意に甘えることにした。
優梨と匡利が並んで教室を出て行くのに、葵は笑顔で手を振っていた。
「アオちゃん」
呼ばれて振り返ると、咲緒理が立っていた。匡利と一緒に教室を出る優梨を見ていたのか、咲緒理も口元に笑みを浮かべていた。
「どうしたの? あの2人」
「ちょっとね……優、しばらく戻ってこられないと思うんだけれど、サオちゃんはこっちの作業できる?」
「うん。もう平気」
咲緒理はさっきまで優梨が座っていた椅子に腰を下ろした。
「良かった。私も匡利くんにこの段ボール箱を誠史くんに届けてほしいって頼まれて……あまり時間かからないと思うんだけれど、今行ってきて大丈夫?」
「うん。行ってらっしゃい」
咲緒理の返事を聞き、葵は段ボール箱を持つと駆け足で誠史がいる第3会議室に向かった。それを見届け、咲緒理は優梨がやっていた衣裳の続きを縫い始めた。
優梨と匡利は無言のまま廊下を歩いていた。準備期間ということもあって、教室はもちろんのこと廊下もとても賑わっていた。その賑やかさも保健室が近くなると、だんだん落ち着いてきた。
もう少しで保健室という所で、すぐ側の部屋から誰かが出てきた。あまりに突然のことに匡利も急に立ち止まり、優梨は危うく匡利の背中にぶつかるところだった。
「あら、佐塚くん」
「(えっ……この声、もしかして……)」
匡利の後ろから優梨はそっと前を覗き込んだ。予想通りそこにいたのは、宮岸梨香子だ。梨香子を目にし、優梨は思わず匡利の背に隠れた。
「こんな所でどうしたの? 今は見回りの時間じゃないと思うけれど……」
「見回りではなく、保健室に行くところだ」
「保健室? どこか怪我でもしたの?」
「あぁ。だが、怪我をしたのは俺ではなく……」
匡利は少し横にずれて後ろにいる優梨が梨香子に見えるようにした。優梨の姿を目にすると、梨香子は一瞬だけハッとしたように目を見開いた。そして、すぐに少し目を細め、意地悪そうな笑みを浮かべた。
「あら、汐崎さん。あなたもいたの?」
「えぇ、まぁ……」
言葉尻を濁しながら、優梨は梨香子を見ないようにして答えた。犬猿の仲であり、正直嫌っている人と話すのはどうも苦手だ、と優梨は感じた。その態度が面白くないのか、梨香子は小さく鼻で笑った。
「じゃあ、怪我をしたのは汐崎さん? どうして怪我を?」
「……衣裳を作っている最中にちょっと……」
答えないとしつこく聞かれそうで、優梨は渋々といった感じに返事をした。それを聞き、梨香子はますます意地悪く笑った。
「ふぅん……もしかして、あまりにも不器用過ぎて怪我をしたのかしら?」
「っ!?」
どこか嘲笑うかのような口調と笑みで梨香子は聞いてきた。その言葉に優梨は勢いよく顔を上げた。
「違っ――」
「仕事量が多く、疲れ気味だったからだ。誰にでも起こりうる些細なミスだ」
優梨が言い返す前に匡利がそう返した。それが面白くなかったのか、梨香子の顔から一瞬笑みが消えた。しかし、匡利の前だからか再び愛想の良い笑みを浮かべる。
「仕事量が多いって、要領よくやれば済む話じゃない。それに“誰にでも起こりうる些細なミス”をしたのは自分の責任じゃない? それなのに、ただでさえ忙しい佐塚くんにわざわざ連れて行ってもらわなくても……迷惑になると考えなかったのかしら?」
チクチクと嫌味のように言ってくる梨香子の言葉に、優梨は返す言葉が見つからなかった。一方で僅かに匡利の眉がひそめられたが、梨香子は優梨を攻撃することに夢中で気付いていない。
「……忙しいのは皆一緒だ。俺だけじゃない。何なら、会長である慶人の方が忙しい」
「……それでも子どもじゃないんだから、わざわざ連れて行ってもらわなくて良いことには変わりないんじゃないのかしら?」
「怪我をしているのは手だ。おまけに少々傷が深い。それで1人で手当ては難しいだろう」
「あら、それで一緒に? さすが佐塚くん。優しいのね」
そう言って優梨を見る梨香子。口元は笑っているのに、その眼は全く笑っていない。匡利が優梨を庇うように反論してくるのがよっぽど面白くないのだろう。
梨香子の眼差しに居心地の悪さを感じた優梨は俯き、視線を合わせないようにした。そんな優梨を見て、梨香子はもう一度小さく鼻で笑った。
「……そういえば私、佐塚くんに学園祭のことで確認してもらいたいことがあるのよ」
「確認? 慶人じゃなくて良いのか」
「天宮くんに確認してもらう前に佐塚くんにもしてもらいたいの。ただ、今は手元に資料がなくて……一緒に生徒会室へ来てくれないかしら?」
思わず優梨は顔を上げて梨香子を見た。匡利は更に眉をひそめた。
「これから、か?」
「えぇ。……彼女の手当てなら保健室の先生がしてくれるはずよ。なにも佐塚くんがわざわざ一緒に行かなくても大丈夫。そうでしょ? 汐崎さん」
睨むようにして鋭い視線を向け、無言で圧力をかけてくる梨香子。何故か言い返せない優梨は、彼女から視線を逸らすことしかできない。
それよりも、今の優梨には匡利が何て言うのかが気になっていた。
「(どうしよう……もし匡利が宮岸さんの意見に同意したら……)」
――もし、匡利に拒絶されたら……
突如、優梨は心の中に黒い何かが落ちたような気がした。そのまま、波紋のようにそれは広がる。そして、優梨の意識までも徐々に呑み込もうとしていた。
「(あっ……ヤバい……呑まれそう……)」
優梨は冷や汗が流れるのを感じ、ギュッと目を閉じた。黒く広がるそれを振り払おうと軽く首を振るが変わらない。落ち着けと、そう自分に言い聞かせて深呼吸をしようとするが、それもうまくいかない。むしろ益々ひどくなりそうだった。
「(いっそ……自分から独りで行くって言おうかな……)」
そうすれば少しは気持ちが落ち着くはずだと思った。しかし、それがなかなか言い出せなかった。言おうと口を開くが、荒い息が出るばかりで言葉にならない。手足も震えだし、優梨は無意識のうちに匡利に身体を寄せた。そして、匡利の制服の端を怪我していない方の手で掴んでいた。
そんな優梨の様子を、匡利は横目で見つめていた。
「佐塚くん?」
梨香子は匡利が自分ではなく優梨の方を見ていることに気付いた。ただ、梨香子からは優梨の様子があまり見えず、何故見ているのかが分からなかった。どちらにせよ、自分に意識が向いていないことに梨香子は苛立ったように匡利に声をかけた。しかし、匡利はまるで聞こえていないかのようにジッと優梨を見つめ続ける。そのことに、梨香子は更に苛立ちが募った。
「佐塚くんっ!」
強めに呼ぶと、匡利の意識がやっと優梨から離れた。すると、匡利は体の位置を少し変えて優梨を完全に背に隠し、梨香子には見えないようにした。
「宮岸、その確認は本当に今すぐやらなければいけないのか?」
梨香子に視線を向けた匡利は矢継ぎ早にそう聞いた。優梨はギュッと閉じていた目を開き、すぐ側に立つ匡利を見上げる。表情はよく見えないが、優梨が危惧したことにはならなそうだと分かり、手足の震えや呼吸が徐々に落ち着いてきた。
一方で、やっとこちらを向いたと思ったらそう聞かれ、梨香子は咄嗟に答えられなかった。代わりに眉をひそめた。
「それは……」
「俺の記憶では、学園祭に関してそれほど急がなければいけない案件は今ないはずだ」
「あの……学園祭の追加予算申請のことなのよ。できれば急いでほしいと……」
「……最初の追加予算の検討は、今日の放課後の会議でまとめてやると、慶人が前回言ったはずだが」
匡利に訝しそうにそう言われ、梨香子は思い出したかのようにハッとした。そして、苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。
梨香子にそれ以上言うことがないと分かると、匡利は小さく息を吐いて優梨の方を向いた。
「優梨、行くぞ」
制服を掴む優梨の手を軽く握るようにして引いた。そのことに優梨は驚いたように目を見開いた。
「えっ、あの……」
「……深い傷だ。早く治療した方がいい」
「う、うん」
優梨が歩き出すと、匡利は握った手を離した。優梨は匡利の横に並び、無言のまま梨香子の横を通り過ぎた。
2人が通り過ぎた後に梨香子は後ろを振り返り、優梨の背を睨みつけた。
「……覚えていなさい」
2人が見えなくなり、憎悪のこもった言葉を小さく呟いて梨香子はその場を離れて行った。
梨香子と別れてから、優梨と匡利はすぐに保健室に着いた。
「失礼します」
声を掛けながら中に入るが、何も反応がない。しんと静まり返り、壁にかかる時計の音だけがやけに響いていた。
「いない、のかな?」
「そのようだな。見ろ」
匡利の方を向くと、手に「職員室で会議をしています。来た人は表に記入を忘れずに」と書かれたメモを持っていた。よく見ると、一番奥のベッドが1つ塞がっている。おそらく誰か生徒が休みに来て、そのまま留守番を頼まれたのだろう。頼まれたその生徒は眠ってしまっているのか、とても静かだ。
「会議かぁ」
「この分だと、当分は戻ってこないな」
「そうだね」
仕方ないかと優梨が肩を落とす中、匡利は絆創膏や包帯などが入っている棚を開けた。そのまま中をガサゴソと探る匡利に、優梨は目を丸くした。
「えっ、匡利。何をして……」
「優、手を出せ」
「手?」
「先生がいないから、俺が手当てをする。元々そのつもりで一緒に来たんだ」
そう言いながらガーゼや包帯などを見つけた匡利は、側にあった椅子2つを引いてその1つに優梨を座らせた。正面に自分も座ると、優梨の手を取って手当てを始める。テキパキと手際よく進めていく様子を、優梨は無言のまま眺めていた。
「……優梨」
「ん?」
声を掛けられて顔を上げると、匡利は手元に視線を落としたままだった。
「先ほど、宮岸に言われたことを気にしているのか?」
「それは……だって、迷惑をかけていることには変わりないし……」
口籠ると、自分の予想が当たったと匡利は小さく息を吐いた。
「念のために言っておくが、俺は宮岸が言っていたようなことは思っていないからな」
「えっ?」
「……迷惑だとか、俺が一緒じゃなくてもいいだろうとか、そういうことだ。思っていたら、最初から来ていない。そもそも葵に頼まれた時点で断っている」
「……そっか」
こういう時、匡利は決して嘘をつかない。だから匡利のその言葉が嬉しくて、優梨は思わず顔が綻んでいた。そんな優梨をチラッと見つつも見ていないフリをして、匡利は手当てを続けていた。
「(……先ほど、優梨の“気”がほんの僅かだが揺らいでいた。何を考えていたのかは想像できるが……)」
何故そんな風に考えたのだろうか。何も知らない匡利は、そんな風に思っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
優梨と匡利が梨香子と出くわしている時、葵は匡利から頼まれた段ボール箱を持って第3会議室へ向かった。そこでは、内装係が作業をしている。会議室の一番前では慶人が全体をチェックしながら指示を与えていた。
目的の誠史は会議室の後ろで玲と一緒に何か資料を見ていた。
「誠史くん、玲くん」
葵が声を掛けると、誠史は振り返って優しい笑みを浮かべた。
「葵、どうしたんだい?」
「これ、匡利くんが頼まれた物だって」
段ボール箱を差し出すと、誠史はそれを受け取った。
「ありがとう。……でも、どうして葵が?」
「フフッ、実はね……」
葵は優梨が怪我をしたこと、偶然通りかかった匡利に優梨を保健室へ連れて行くようにお願いしたこと、匡利がそれを承諾したことを2人に説明した。その説明を聞いて、誠史も玲も納得したようだった。
「へぇ、そうだったんだ」
「うん。だから、代わりに私が持ってきたの」
「助かったよ」
誠史は受け取った段ボール箱を側にあった机に置いた。
「ところで、中身は何だったの? 結構軽かったけれど」
「これだよ」
誠史は段ボール箱を開け、中身を葵に見せた。中身は様々な種類の花だった。
「お花?」
「本物じゃないけれどね」
「えっ? ……本当だ、これ造花なんだね」
本物のように見えたが、触ってみると花弁や葉は布製で、茎は針金に布テープを巻いているようだった。
「各テーブルや壁なんかに飾ろうと思ってね。本当は生花が理想なんだけれど、長くはもたないから……魔法で枯れないようにした花はさすがに高すぎるし、代わりに良い造花を飾ろうかって玲から提案があったんだ」
「どのような花を飾るかまだ決まっていなくてな。参考までにサンプルを取り寄せることにしたんだが……」
「演劇部や華道部がそういうのに詳しくて、匡利が交渉してくれることになったんだ」
「それで、匡利くんがこれを受け取ったんだ」
「そういうこと」
玲は箱の中をもう一度ざっと見た。よく見ると、小さなアレンジメントなんかも入っている。
「ふむ……テーブルなどはこのアレンジメントを参考にするのが良さそうだな。誠史はどう思う?」
「俺も同意見だよ。最近はこういうのが人気らしいし……これなら、見た目もうるさくないしね」
誠史と玲はシンプルながらも華やかなアレンジメントを手にそう話していた。
「当日飾るのは誠史くんが作るの?」
「その予定だよ」
「わぁ、楽しみにしているね」
葵が満面の笑みでそう言うと、誠史は嬉しそうに笑った。
その後、葵は誠史たちと少し話してから教室で待つ咲緒理の元へと戻った。それからだいぶ経ってから手当てが終わった優梨が戻ってきて、3人揃って作業を進めていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日の夜、優梨・葵・咲緒理の3人はいつものように優梨の部屋で衣裳作りをしていた。この日は、紗奈も手伝いに部屋まで来ていて、4人で話しながら作業をしている。
「――それで、手当てしてもらえたんだ」
「うん!」
優梨は紗奈の言葉に、頬を赤く染めながら心底嬉しそうに頷いた。
「それは良かったねぇ」
「怪我は大変だけど、ちょっと羨ましいなぁ」
嬉しそうにする優梨を見て、葵と紗奈はそう言った。
「それにしても器用だね、匡利君」
咲緒理はきっちりと包帯の巻かれた優梨の手を見ながらそう言った。
「うん。不思議と作業に支障ない感じに巻かれているから、ちょっと驚いた」
「……本当に器用だね」
問題なく作業を進める優梨の様子に、咲緒理はしみじみと言った。
「……それにしても宮岸さん、相変わらずだね」
匡利とのことを話す流れで梨香子の話もあったため、葵が顔をしかめながら言った。
「才色兼備、文武両道で親は宮岸コーポレーションの社長……貴族じゃないけど、かなりのお嬢様で人気だってそれなりにあるのに……」
「性格が最悪っていうね……」
葵の言葉に続いて優梨はため息交じりにそう言った。
「宮岸さんの話聞いていると、エリカなんてまだまだ可愛いモノなんだって思えるもん」
「まぁ、エリカってなんだかんだ言って筋は通すしね。陰険なことは一切なしで」
優梨と葵がそう言う横で咲緒理と紗奈はうんうんと頷いていた。
「……厄介なのは、生徒会役員な上にマネージャーもやっていて、匡利くんとの接点がそれなりに多いことだよね」
葵の言葉に優梨は大きく頷いた。
「匡利は眼中なしって感じではあるけれど、アプローチの機会が多いことには変わりないし……」
そう言いつつ、大きなため息を吐いた。
「あの人、匡利と話しているのを私が見かけると“フフンッ”って笑うんだよね……あれ嫌い」
優梨が思い切り顔をしかめてそう言うと、葵たちも顔をしかめた。
「うわぁ……」と葵。
「や、嫌な感じ……」と咲緒理。
「感じ悪い……」と紗奈。
3人とも心底嫌そうな表情を浮かべている。実際にされている優梨の嫌悪感は相当のモノだろうなと、葵たちは思っていた。
「……っと、結構時間が経っちゃったね。今日はここまでにする?」
側にあった時計を見ると、もうすぐ夜中の1時になる。優梨の意見に他の3人も賛同し、片づけをしてそれぞれの部屋へと戻っていった。




