69話 合流
進めば進むほど、赤色が景色を侵食していく。あまりの惨状に、言葉が出なかった。
恐ろしいのは、少し前まで感じていた気持ち悪さが消えたこと。今はその方がいいのかもしれないが、人として、この景色を見て何も感じないのはあってはならない。慣れてはいけない光景なのだ。
先ほどまでは、優斗と同様に救出に当たっていたものがちらほらと居たが、今は自分以外に人が居る気配がない。少し、遠くまで来過ぎただろうか。
歩みを止めて、ナビを確認する。足音が消えたせいか、辺りが静寂に包まれた。
レーダーには、少し離れたところに仲間の反応が多数あった。自分を挟んで反対側には、大小の差はあれど、赤い点が多数ある。戦って負けるような相手ではないだろう。
優斗は右手首を見る。店主から受け取った腕輪――エレクトリックバングルは、見た目は変わらないが以前より圧倒的に性能を高めている。
使い勝手を試したいという衝動に駆られ、優斗は走り出す。
数秒と経たずに最高速に達し、体そのものが雷になったかのような錯覚に囚われる。事実、今の優斗の速さは音速とまではいかずとも、そこらへんの戦闘機よりは数段速いだろう。
敵の中心に到達すると同時に、雷爆を生成する。以前までの雷爆は、ただ雷が弾けるだけ。しかし、エレクトリックバングルの性質変化によって、雷爆と言う名前に相応しい性能を発揮する。
時計の盤のように十二個の雷爆を生成し、それぞれの方角へ放つ。雷とは思えない破裂音を上げて、雷爆は弾けた。
口元が緩むのがわかる。あまりの威力に驚き、同時に喜びを感じたのだ。初心に還ったと言うべきか、戦いを楽しんでいるようだ。
次は、剣。エレクトリックバングルに雷を流し込むと、それに反応して輝く。頭の中でイメージを浮かべ、そのイメージをエレクトリックバングルに投影する。
轟音と共に、電磁剣が生成された。刃は小刻みに振動しており、それが切れ味を増加させる。
「はっ!」
軽く息を吐き、ステップを踏む。敵の動きが遅く感じるのは、自分が今、ハイになっているからだろうか。
敵の分厚い装甲も、素早い動きも、長いリーチも、今の優斗には障害には成り得ない。エレクトリックバングルの強化だけで、これほどまでに戦いやすくなるものなのか。
いつの間にか敵はいなくなり、救出班もこの辺りまで進行してきた。
優斗の戦いを見ていたらしく、サラディンが賞賛する。
「すごい戦いだったね。あんなに速く動ける人なんて、優斗君以外には見たことがないよ」
「そうか?」
若干照れつつも、平然を装って返答する。
「とりあえず、近くにある生存反応は全て回った。あともう一つ。何か、他とは違う反応があるみたいなんだ」
「反応?」
不思議に思い、ナビを開いて確認する。赤でもなく、青でもなく、黄色でもない。白い点がこちらに接近してきている。
速い。少なくとも、車等の乗り物ではない。それよりも明らかに速い速度で、白い点は接近してくる。
白い点の主が視認できる距離に来たとき、優斗はその正体に驚愕した。生身の人間ではあり得ないはずの速さで、知っている人物が現れたからだ。
「浩介……?」
白い点の主は、自分の親友と言えるほどの中である、赤城浩介だった。
「浩介……?」
浩介は優斗の姿を視認すると、更に速さを増して接近してきた。
「優斗!」
浩介は優斗の名前を呼ぶ。百メートルほど手前に来て、ようやく減速を始め、優斗の目の前で止まった。
「やっと見つけた。探すのに苦労したんだぞ?」
「浩介。お前、今のは何だ?」
久しぶりの再開だというのに、最初の言葉が疑問符付きだったことに肩を落としつつ、浩介はそれに答える。
「俺にも、力があるってことだ」
その通りなのだが、足りない。なぜ死んでもいない浩介が、能力を持っているのだろうか。
その疑問を優斗が口に出す前に、浩介は答える。
「確かに、死んでから能力を手に入れた優斗には不思議かもしれないな。俺は、異世界の人間だ」
その言葉に固まる。予想を大きく外れた返答に、言葉が出ない。
「不思議なことじゃないだろ? 死後の世界があるんだ、異世界の存在だって十分に考えられるはずだ」
「確かにそうなんだけどな……」
なぜ、浩介はこの世界に来たのか。物語のように召喚されるには、あまりにも平和すぎた。イーターの存在が知られてないのだから、異世界から人を召喚しようとする人間はいないだろう。
「なぜこの世界に来たか、そう思ってるだろ?」
浩介は軽く肩を落としつつ、優斗の疑問に答える。
「俺は、異世界から追放された」
「追放された?」
予想とは真逆だった。召喚されたのではなく、追放された。理由は、すぐに浩介が教えてくれた。
「俺は、生まれつき時間と空間の操作魔法が使えた。性能こそ高くはないが、世界の理に反するような能力だった。そのせいで、俺は追放された」
時間と空間の操作。それがどれだけ恐ろしいものかは、いろいろなゲームで見てきた。過去に戻れれば、いくらでもやり直せる。未来に行けば、結果を事前に知ることが出来る。
浩介曰く、そこまで便利なものではないらしい。
時間操作にしろ、他の人間と自分の時間の流れを変え、加速、減速する程度の効果だ。自分の速さを上げて宿題を片付ける位にしか使い道はないらしい。
空間操作にしろ、小距離を移動する程度の効果だ。空間そのものには干渉できず、何かしらの変化を与えることもできない。
二つを併わせれば、多少なりと戦闘では戦いやすいらしい。だが、世界を追放されるほどの能力かと聞かれれば、断定は難しい。
「あの世界の人間は、少しイレギュラーなだけで恐れる。すでに、俺だけでなく、数十人くらいの人間が異世界に追放されている」
浩介の世界はどうなっているのか。多少珍しいというだけで、人を追放して良い訳がない。
優斗はその事実に納得していないが、浩介はそのまま話を進める。
「まあ、それはそれとして。優斗、お前に渡したいものがある」
浩介は拳を突き出す。グーの形に握られた手の中からは、何かが光っている。
優斗は手を伸ばし、それを受けとる。それに実体はなく、何かが体の中に入ったような感覚だけが残った。
「これは?」
「いずれわかる。今は、気にしなくていい」
そう言われ、とりあえず頷く。
浩介は優斗に背中を見せたかと思うと、遠くの方を指差した。
「あっちの方で敵と交戦した。まだ転移の痕が残っているだろうから、急げば黒幕のもとへ行けるはずだ」
「敵の正体は何だ?」
「この世界の創造主だとさ」
その言葉を聞いて絶句する。危惧していた事象が現実となったのだから、驚かないわけがない。
「勝ち目はあるのか?」
「さあな」
浩介は素っ気なく返事する。相手が創造主だとするならば、実力は計り知れない。
「サラディン。主力のメンバーを集めてくれ」
「わかった」
サラディンがナビを開き、剛力に通信を入れる。数回ほど会話を交わし、サラディンは通信を切った。
数分後。優斗を始め、剛力、サラディン、奏、アイカ、京也、鈴佳の7人が集まった。
「創造主とは、また大きな相手だね」
剛力が言う。
藤堂と比べ物にならないくらい、創造主は強いだろう。こちらを管理しているならば、能力なども知られているはずだ。
浩介は一歩前に出ると、皆に説明を始める。
「俺が知っている限りでは、敵は主に三人。創造主と、配下二人だ。イーターもいるかもしれない。逆に言えば、それだけだ。創造主の所に辿り着くには苦はないだろう」
浩介は言う。
「何か、質問はあるか?」
理解したらしく、質問はない。
「優斗」
そう言いながら、浩介が背中を押す。
優斗は深呼吸をしてから、一言。
「行くぞ!」
皆が走り出す。創造主に勝てるか、不安は大きいが、立ち止まってはいられない。
戦いは、今回で最後だろう。




