49話 歪んだ理想
「死守護者か。よくこの結界を破れたな」
こちらを見据えながら、藤堂が呟いた。彼の足元には、傷を負った京也が倒れている。
「お前が藤堂か」
「見てわかるだろう?」
藤堂はニヤリと口を歪ませる。
「お前に質問がある。なぜこんなことをする? あの世界にどんな恨みがあるんだ?」
「それはお前たちには関係のないことだ」
「関係がないだと? お前のくだらない恨みなんかで、俺たちの大切な世界を壊されるわけにはいかない」
その言葉を聞いた途端、藤堂の表情が歪む。その感情が何か、優斗にはわからなかった。
「大切な世界? くだらない。あんな理不尽な世界のどこに守るべきものがあるんだ?」
「あの世界には良いものに溢れているだろう?」
「俺は、その良いものに出会えずに死んだ。お前たちのような幸せなやつを見る度に吐き気がする」
返せる言葉がなかった。今の自分では想像もつかないほどに、藤堂は苦しんだのだろう。
彼の表情は、苦痛と怒りに満ちていた。
「お前たちのような幸せなやつに、何がわかる? 俺のようなやつが幸せを求めたら、なぜいけない?」
「藤堂。お前は、向こうの世界を破壊したいのか? それで本当に幸せになると思っているのか?」
「思っているに決まっているだろう?」
「そうか」
優斗は深呼吸をし、
「ただの自己満足だな」
と言った。
藤堂は顔を強張らせる。
「そんなことをしても、残るのは罪悪感だけだ」
「なぜそう言いきれる!」
「お前が向こうの世界を破壊すれば、幸せな人はいなくなる。皆が、お前のようになるだろう」
「だからどうした! 俺の望みはそうなることなんだぞ?」
「お前は、たくさんの鏡を見ることになる。自分の姿を、客観的に見ることになるんだ」
「何を言っている……?」
「藤堂。お前は理不尽な世界を恨んだ。そのお前が理不尽な世界を作ってどうする?」
藤堂の目が揺れる。焦点はどこにも合っていない。
「俺は――」
藤堂は天を仰いだ後、その拳を握りしめてからこちらに向き直る。
「俺は、間違ってはいない。これが俺の理想だ。必ずお前たちを潰す」
「藤堂!」
「今日は引かせてもらう。次は必ず皆殺しだ。覚悟していろ」
藤堂は体を闇に溶かし、消えていった。
辺りには静寂が広がった。
「藤堂が私たちを導いてくれる。お前ら死守護者には何も言わない。」
生け捕りにした敵幹部は、その一点張りで断固話さないという姿勢だ。
「仕方ない、か……」
サラディンは自分の能力を発動し、生け捕りにした女の記憶を覗く。
無駄な情報は見ず、必要なもののみを取り出していく。
同様に生け捕りにした男にもそれを行う。
全てのデータを整理し終えると、藤堂の目的と、その達成の方法が見えた。
「これは!」
驚きのあまり、無意識に声を出してしまう。
深呼吸をしてから、再びデータを見る。
藤堂の目的は、彼が言っていたものと変わりはない。そして、情報通り彼はイーターを自在に操れる。彼はその力と自らの戦闘力を駆使して向こうの世界を破壊する。
藤堂についていくと決めた者たちは、向こうの世界で理不尽な人生をおくっていた者たちらしい。藤堂に期待しており、命を捨ててもいいという狂信っぷりだ。
どれだけ話し合おうと、彼らの意思は固い。話し合いで諦めさせることは無理だろう。
ならば、取る方法は一つだ。調査に向かった剛力が帰還した後、皆で一斉に攻め込む。出来うる限り死者は出さないように、現在戦力になる者以外はつれていかない。中途半端な人員には、後方支援を任せる。
サラディンは浮かび上がること全てをメモする。忘れないように、丁寧に書いていった。
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