2話 理想
眠いです……
いつも通りの日常。学校に行き、授業を受けて友達と話す。
しかし、物足りない。確かに今の人生は充実しているだろう。人から見たら、かなり羨ましいかもしれない。
だが、違うのだ。この日常を変えなければならない。今の人生を楽しいと感じるには、超能力が必要なのだ。
今までの人生でたくさんのゲームをやり、アニメを見て、本を読んだ。その中でたくさんの超能力を見てきたが、優斗の中では理想の超能力は決まっていた。
彼の理想は――荒れ狂う雷。その力を身に宿すことで、戦闘能力を上昇させる。
よく、風になろうという表現があるが、それでは物足りない。荒れ狂う雷は行く手を遮るものすべてを豪快になぎ倒していく。
それが彼の理想だった。
「優斗、お前はまたなんか厨二なことをかんがえているのか?」
不意に話しかけられると、クラスメイトの一人がいた。
「お前だって、変な妄想ばかりしてたんだろ」
「失礼な、俺の妄想はハイクオリティかつ理想的なんだぞ。それに、妄想をしないやつは男じゃない」
そうきっぱりと言い切った彼は赤石浩介。優斗の理想の理解者であり、彼もまた現実に退屈している一人だ。
「そういえば、浩介は今期のアニメはどれを見てる?」
「今期のアニメといえばあれしかないだろ。ハーレムマスター坂町だろ」
「あ、あれ見てるのか? 何となく予想はできたけどさ……」
「そういうお前だって、邪気眼勇者とか見てるんだろ?」
「別にいいだろ、俺の好みに合ってるんだから」
いつものように、休み時間に理想談義をする二人。
女子からの視線が気になるかもしれないが、負けてはいけない。人生の退屈さを忘れさせてくれる浩介の存在は、優斗にとってとてもありがたい。
熱く語っていると時間の経過が早く感じる。あっという間に時間が過ぎ、再び授業が始まる。
日直の生徒が号令をかけて挨拶を終えると、優斗はすぐさま空想に浸り始めた。
そこは廃墟だった。次から次へとわいてでる敵をただひたすらなぎ倒していく。
ひとたび拳を振るえば大気が震え、それが衝撃波となって敵を消し飛ばす。
これが理想。拳ひとつで生き残れるこの世界は、まさに理想だった。
この世界では自分が最も強く、他を圧倒する力を持っている。戦いは快感であり、理想なのだ。
日々、優斗はこの世界で戦い続けていた。
他人からしたらただの空想にしか見えないだろうが、優斗にとってはイメージトレーニングの一貫だった。
来るべき覚醒に向けて、少しでも強くならなければならない。このイメージトレーニングは自分の命に繋がる。優斗はそう考え、常に戦い続けている。
そんな彼の力を見込んだ誰かが、彼の運命を操作した。
「さて、どうなるか楽しみだな」
漆黒のローブに身を包んだ何者かは、不敵な笑みを浮かべながら空気に溶けていった。