13話 奏
奏の説明メインです。
再び向こうの世界に着くと、優斗はすぐに戦闘体制に入った。体を実体化させて周囲を見回すが、イーターは確認できない。
その時、ピロリーンとナビが音を出した。サラディンが言っていたプログラムが届いたようだ。インストールを始め、しばらくまつ。奏も同様にインストール作業をしている。
「ああもう! 早くインストールしなさいよ焦れったいわね!」
奏が恐ろしい形相でナビを睨み付けている。いや、インストールぐらい待てるだろうと思いつつ、ナビを確認すると、ちょうどインストールが終わったところだった。
起動するとレーダー画面が出てきた。円の中心から出た棒がくるくると回り、イーターの場所を毎秒ごとに更新して映し出してくれる。一方の奏は、まだ半分ぐらいしかインストールされていなかった。
「悪いな、俺は先に行くわ」
嫌味ったらしく笑みを浮かべ、片手を挙げて走り去る。後ろから怒声が飛んでくるが気のせいだろう。
イーターを探しつつ、町並みを見る。デッドガーディアンズに入ってから二日しか経っていないというのに、久々に見たような気がする。毎週のように通ったゲームセンターに、お気に入りのファストフード店。たった二日だけで、こんなにも懐かしく感じてしまうのは初めてだった。学校の友達は、今何をしているだろうか。浩介と理想談義をして熱くなることももう無いのか。
レーダーを確認すると、赤い点が複数写っていた。イーターの反応だろう。もうひとつ点があり、こちらは青色。奏の反応だ。赤い点は意外と近くにあり、走っても1分とかからないだろう。
走り出すと同時に、「ストラグルモード」と言う。コンバットスーツから力が供給され、走る速度が上がっていく。大きく踏み込んで体を飛翔させると、まるで空を飛んでいているかのような感覚だった。
奏は、ようやく終わったインストールに文句を言いつつ「ストラグルモード!」と言う。体に力が供給されていくのがわかる。
――私は死んだ。
こうやって意識があるからこそあまり実感が湧かないが、確かに私は死んだ。理由は簡単で、人生に疲れて自殺したのだ。
期待して入学した高校では初日にへまをやらかしてしまい、いじめの対象となってしまった。当然気が強い奏は当初のうちは反抗していた。だが、友人は出来ず助けの手は差し伸べられない。そのうちに抵抗することを諦めてしまった。
いじめの内容はありふれたものだった。最初のうちは教科書などを隠されたり、悪口を言われるだけだったが、そのうちにエスカレートしていった。反抗しなくなった奏を都合よく捉えたいじめっ子達は、殴る蹴るなどの暴行や金銭の要求。いじめが激しくなるにつれて奏は現実を怖く思い、そのうちに理想の世界を追い求めていた。
当然親には助けを求められなかった。心配をかけたくはないし、なにより自分が惨めに思えてしまうからだ。何度か先生がいじめの現場を見つけたが、助けるどころか先生まで一緒になって暴行を加えてきた。そのことによって、奏は学校に自分の味方はいないのだと気づいてしまう。
気がつくと、自分は道路の真ん中で立ち止まっていた。車が来るのはわかっていた。しかし、避けようとする気は起きない。前から来た車は、明らかにスピード違反だった。その車に跳ねられたとき、ついにこの世界から出られる、そう思った。
人生の最後に、彼女は笑った。死ぬことが出来るのは嬉しいし、それになにより車の運転手の姿を見たからだ。奏を最も苦しめた、いじめっ子達の親玉。無免許運転で事故を起こしたのだ、相当な罪に問われるだろう。恐怖に歪んだそいつを見たとき、奏はやってやったと思った。
気がつくと、そこは廃墟だった。自分は死んだはずだが、なぜか生きている。もしやここは天国なのだろうかと思い回りを見回したが、やはり現実だ。
なにかがおかしいと思い自分の体を見ると、体にぴったりと張り付いたスーツを着ていた。所々に装甲がついているが、奏はそれよりも恐ろしい現実を見てしまった。ぴったりと張り付いたスーツは、奏の胸の薄さを強調する。異世界に来たのかもしれないが、これは嫌だなあと考えつつ、新たな世界に思いを馳せる。
しかし、そこで1つの後悔が生まれた。両親のことだ。なぜ気づかなかったのかと自分を責める。娘が、親を残して死んでしまったのだ。テレビでよく見るが、その親を見る度に心を痛める。絶望から解放してあげたいと考えつつ、今は人を探すしかないと思い、歩き出した。
数日間廃墟をさまよい、どうにか人の気配を見つけた奏は、助けを求める。とても妖艶な雰囲気を放つ彼女は、自分とは対照的な胸を持っているが、気にしてはいない。
一通りの事情を聞き終えたあと、アリアと名乗った彼女は、大きな胸を強調しながらこう言った。私たちのところに来ないかと。
久々に人と笑顔で話した気がした。剛力という男は、見た目からは考えられないほど紳士だった。彼は、奏に安心してくれと言った。ここにはそんな輩はいないと、そう言ったのだ。
そして、戦い方を見極められたあとに、再び違う部屋につれていかれた。そこで、サラディンと名乗る爽やかな青年と会った。彼曰く、奏に入ってほしいチームがあるらしい。もうじき来るから待っていてくれと言われて待っていると、同い年ぐらいの少年がいた。優斗と名乗る彼を見たとき、奏は昔を思い出してしまう。
なんでこんなやつと。そう強がって見せた。いじめられていたこともあり、奏は上手く話すことが出来ない。口下手すぎる自分を後悔しつつ相手の様子を窺うと、案の定、言い返してきた。しかし、彼の悪口からは悪意が感じられず、どちらかと言うと仲のいい友人同士のからかい合いのようだった。
そして、本日に至る。レーダーに反応したイーターを狩るのだ。親を絶望から解放しなければ、イーターに狙われてしまう。悪いが優斗には譲れない。
奏は視界に入ったイーターに向かい、手をかざした。
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