第96話: ボンさん、タワマンへ引っ越す
朝、スマホが鳴った。
画面を見ると、不動産屋からだった。
このタイミングで不動産屋。
つまり、あれである。
「審査が通りました。お金を振り込んでもらえたらいつでも住むことが可能です」
電話口の店員が、やたら丁寧な声でそう言った。
タワマン最上階。
家賃350万円。
初期費用1200万円。
「ありがとうございます。後ほど伺います」
言ってから、自分で少し笑った。
声が落ち着いている。
昨日の換金額は7258万6000円。
その前は6894万3000円。
初期費用と家賃を合わせても、最近の一日分より安い。
住む世界が変わったなぁ。
俺はすぐにグループチャットへ連絡した。
「タワマン通った」
数秒で、コハルから返信が来た。
「行くっス!!!」
ブタオからも来た。
「キッチン見に行く」
チアキからも届いた。
<契約書類と支払い手順を確認します>
みんな反応が違う。
コハルは住む気。
ブタオは料理する気。
チアキは管理する気。
俺の部屋だったはずなのに、もう完全に共同拠点である。
昼前、俺たちは不動産屋に集まった。
契約書に名前を書く。
家賃350万円。
初期費用1200万円。
パンピーなら目が飛び出る金額だ。
だが、俺たちにとっては一日で稼ぐ金額よりも安い。
支払いを済ませると、店員が鍵とカードキーを渡してくれた。
え、カードキーで入れるんですか?
そうですか
俺はついに、最上階タワマンの鍵を持つ人間になった。
なお収入源はゴブリン牧場である。
そのままブタオの車で、みんなの家を順番に回ることになった。
まずは俺の部屋。
改めて見ると、本当に狭い。
布団。
服。
パソコン。
細かい生活用品。
全部合わせても、チアキの収納にすっと消えた。
<完了しました>
「早い」
「引っ越し業者、泣くっスね」
「荷物が少ない人生だったからな」
「急に寂しいこと言うなよ」
次にブタオの家へ向かう。
こいつの家も俺と同じくボロアパートだ。
ブタオの荷物は、服より調理器具と食べ物関係が多かった。
その次にコハルの家へ行き、服やゲーム機や細かい雑貨をまとめて収納する。
最後にチアキの部屋へ寄ったが、荷物はもともと少ない。
というより、必要なもののほとんどを異空間に入れていた。
引っ越し作業は半日どころか、ほぼ移動時間だけで終わった。
チアキ物流、強すぎる。
タワマンへ戻る。
エントランスを通る時、コンシェルジュが自然に会釈してきた。
俺も自然に会釈した。
エレベーターで最上階へ上がり、カードキーで扉を開ける。
広いリビング。
大きな窓。
遠くに見える青梅の街。
昨日内見で見た景色と同じなのに、今日は違う。
ここが俺たちの拠点になった。
「うわ、やっぱ広いっス!」
コハルが窓際まで走った。
ブタオは迷わずキッチンへ向かった。
チアキは収納とコンセント位置を確認している。
「キッチン、俺が使いやすい配置にするわ」
<通信環境と作業場所も確認した方がよいですね>
「もう完全に共同拠点だな」
「最初からそのつもりっス」
この部屋は、俺の家というより探索者チームの共同拠点になった。
まあ、悪くない。
リビングは広い。
防音も強い。
風呂もでかい。
キッチンもブタオが喜んでいる。
俺の前の部屋より全部上だ。
上すぎる。
「風呂用の椅子とかシャンプーとかもいるっスね」
「生活用品が急に現実味出してきたな」
「足伸ばせる風呂に、安いシャンプーは似合わないっス」
「飯作るなら、鍋と包丁と皿もいるな」
「ブタオはキッチン担当か」
「当たり前だろ」
「ですよね」
家具も家電も、ほとんど足りない。
俺たちは一度リビングの真ん中に立ち、何もない空間を見回した。
広い。
広いが、空っぽだ。
金はある。
なら買えばいい。
となると?
「電気屋行くか」
「いいな」
「高級美顔器ほしいっス」
「自分で買えよ?」
「わかったっス……」
俺たちは大型家電量販店へ向かった。
冷蔵庫。
洗濯機。
テレビ。
炊飯器。
電子レンジ。
掃除機。
空気清浄機。
店員に案内されるたびに、俺はだいたい同じことを聞いた。
「一番いいやつで」
店員の目が毎回少し大きくなる。
分かる。
俺も言っていて少し楽しい。
昔ならそもそも電気屋なんて来ない。
そもそも新品買うとか貴族かと思っていた。
男は黙って中古!!
今は違う。
値札を見ることすらしない。
いい物を買う。
以上。
「冷蔵庫、これでかすぎない?」
「ブタオ用だな」
「俺、そんな食わねぇよ」
「食うだろ」
「食うけど」
認めるのが早い。
ブタオ用の巨大冷蔵庫。
コハルが選んだドラム式洗濯機。
チアキが選んだ通信機器まわり。
俺が選んだでかいテレビ。
全部、チアキの収納へ入っていく。
店員たちは、目の前で大型家電が消えていくたびに固まった。
「配送は……」
「大丈夫です。持って帰ります」
「持って……?」
チアキが無表情で軽く会釈する。
店員はそれ以上聞かなかった。
探索者という職業は、便利な説明札である。
次に家具屋へ行った。
ソファ。
ベッド。
ダイニングテーブル。
椅子。
棚。
カーテン。
こちらもだいたい同じである。
「一番座り心地がいいやつで」
「一番寝心地がいいやつで」
「一番でかいやつで」
「ボンさん、雑っス」
「細かく選ぶセンスがない」
「金で解決してるっス」
その通り。
金で解決できることは、金で解決する。
お金持ちってキモチぃぃぃぃ!!!
タワマンへ戻り、チアキが収納から家電と家具を出していく。
冷蔵庫がキッチンへ収まり、テレビがリビングに置かれ、ソファが窓際に並ぶ。
急に部屋らしくなった。
さっきまで空っぽだった空間が、生活できる場所になる。
「おお、住める」
「いや、家具が入ると違うな」
ブタオはキッチンで炊飯器の位置を調整している。
コハルはソファに座り、足をばたばたさせている。
チアキはテーブルの横で、スマホに必要品リストを作っていた。
<追加で日用品、食器、消耗品が必要です>
「また買うのか」
<生活には必要です>
「ダンジョンより買い物の方がやること多いな」
「ゴブリンは勝手に行ってくれるっスからね」
そうだった。
昨日、14階層へ向かわせた探索組も、そろそろ戻っているかもしれない。
引っ越しと買い物で一日が終わりそうになっているが、牧場の確認は必要だ。
「よし、ダンジョン行くか」
「今日はいくらかなぁ」
「14階層っスからね。7000万行かないくらいっスよ」
「今日の買い物10回以上できるな」
俺たちはタワマンを出て、青梅ダンジョン管理所へ向かった。
車で15分。
近い。
この距離感がかなりいい。
高い家賃には意味がある。
ん?
あれ?
もしかして……
チアキのゲートがあるからこんな郊外に借りる必要なかったのでは……?
いや、気づいてないことにしよう。
そうしよう。
管理所へ着くと、ゆきちゃんがいつも通りスマホを見ていた。
「引っ越した?」
「引っ越しました」
「成金」
「否定できないっす」
「私も引っ越そうかしら」
「上納金たっぷり支払ってますからね」
「いつもご苦労様です」
ゆきちゃんはいつも通りだった。
この淡泊さ、落ち着く。
俺たちは管理所を抜け、青梅ダンジョンへ入った。
大部屋には、14階層探索組が戻っていた。
ナイトを混ぜたおかげか、15階層帰りほどの崩れ方ではない。
チアキに確認してもらうと、帰還数は1044匹。
ナイトオスも57匹中全員が戻っている。
減った分は、ほとんどハイゴブリン側らしい。
昨日生まれた檻Bの赤ちゃん778匹も成体化していた。
帰還組と合わせると、今日の探索戦力は1822匹。
出産チェックも数字だけ確認する。
本日の赤ちゃんは915匹で、ナイトメスからもちゃんとナイトが生まれていた。
「今日も14階層だな」
「タワマン買い物で金使ったからっスか?」
「働く理由ができてよかったな」
『ウラーーーラーーーラーー!!!』
俺たちは、ナイト入りの大部隊をもう一度14階層へ向かわせた。
そのあと、14階層帰りの魔石バッグを持って管理所へ戻る。
「換金お願いしまーす」
「6242万8000円」
「引っ越し代、戻ったな」
「戻りすぎっス」
タワマンへ引っ越して、高い家電と家具を買って、そのあとダンジョンへ行ったらまた6000万以上入った。
人生、どうなってるんだ。
まあ、最高です。
現在のゴブリン牧場の状況(4646匹)
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・ゴブタロウ檻(ゴブタロウ/ゴブリンナイト + ハイメス720匹 + ゴブリンナイトメス13匹 + 赤ちゃん73匹)
ゴブタロウ(ゴブリンナイト)1匹
ハイメス720匹
ゴブリンナイトメス13匹
ハイメス赤ちゃん65匹
ゴブリンナイトメス赤ちゃん8匹
・スカー檻(スカー + ハイメス54匹 + ハイメス赤ちゃん5匹)
スカー1匹
ハイメス54匹
ハイメス赤ちゃん5匹
・チビ檻(チビ + ハイメス54匹 + ハイメス赤ちゃん5匹)
チビ1匹
ハイメス54匹
ハイメス赤ちゃん5匹
・ヤリ檻(106匹)
マジシャン13匹
ファイター12匹
ハイメス74匹
ハイメス赤ちゃん7匹
・檻B(825匹)
ハイゴブリンオス赤ちゃん583匹
ゴブリンナイトオス赤ちゃん77匹
ファイター赤ちゃん81匹
マジシャン赤ちゃん84匹
・秋田鉱山組(966匹)
ハイゴブリンオス711匹
ゴブリンマジシャン109匹
ゴブリンファイター146匹
・青梅14階層探索組(1822匹)
ハイゴブリンオス1275匹
ゴブリンナイトオス119匹
ゴブリンファイター197匹
ゴブリンマジシャン231匹
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