第94話: ゴブリンさん、十四階層から帰ってくる
翌日。
俺たちは青梅ダンジョン管理所に集まった。
「今日は14階層帰りっスね」
「ゴブタロウの子供も気になるけどな」
「どっちも金だな」
「儲かってしょうがないっスね!」
今でもかなり儲けているというのに、さらに稼げるのが確定したのだ。
確変状態に入ってる。
俺たちは管理所を抜け、青梅ダンジョンへ入った。
見慣れた通路を進み、大部屋へ向かう。
入口に近づくと、いつもの台車の音が聞こえてきた。
秋田鉱山組は今日も働いているらしい。
ごろごろ。
ざらざら。
鉱石を運ぶ音が、もう大部屋の日常になっている。
大部屋に入ると、まず秋田鉱山組が目に入った。
休憩しているハイゴブリン。
台車を押すファイター。
ツルハシを担いでゲートへ戻っていくマジシャン。
お前、マジシャンなのにツルハシ似合うな。
そして反対側。
14階層探索組が戻っていた。
「おお、いる」
「でも、だいぶ減ってるっスね」
床には疲れ果てたゴブリンたちが座り込んでいた。
それでも、魔石バッグはしっかり積まれていた。
偉い。
命より魔石。
お前らの命の価値をよく理解してくれてオイラ嬉しいぞ!。
「チアキ、数えてくれ」
<確認します>
昨日14階層へ送り出したのは1397匹。
12階層帰りから13階層まで見てきた812匹と、檻Bで成体化した585匹を合わせた大部隊だ。
ハイゴブリンオス1123匹。
ゴブリンファイター134匹。
ゴブリンマジシャン140匹。
帰ってきた数は、
<帰還数は815匹です>
「うわ、減ったな」
「14階層、重いっスね」
どんどん階層ごとに難易度が上がってってるなぁ。
ただ、全滅ではない。
むしろ14階層まで行って815匹戻ってきたなら、うちの牧場としては昨日700匹ほど生まれたので、数だけなら損益分岐点を割っていない。
この時点で毎日14階層の攻略も回せそうな気がしてくる。
あざっス!
死んだゴブリンの内訳はこう
ハイゴブリンオスが502匹
ファイターが41匹
マジシャンが39匹
合計582匹が未帰還
南無南無。
ただし魔石バッグを見た瞬間、心の切り替えは早かった。
人間とはそういう生き物である。
たぶん俺だけじゃない。
『隊長、14階層、きつかったっス!』
盾を抱えたファイターが言った。
もはや盾の原型を留めていなかった。
ボロボロの板を持ってるみたい。
「新しいやつは出たか?」
『出てくるのは同じっス!』
『ファイター多いっス!』
『マジシャンも多いっス!』
『ハイゴブリンも強いっス!』
なるほど。
種類が変わるというより、全部が普通に強いらしい。
12階層、13階層でも同じ流れだったが、14階層ではさらに一段上がっている。
階層が下がるたびに、同じゴブリンの性能が上がる。
ゲームだったら色違いで済ませるやつだ。
現実だとこっちのゴブリンが死ぬ。
「攻略自体はできたんだよな?」
『できたっス!』
『階段も見つけたっス!』
『15階層、入口だけ見たっス!』
「また見たのか」
『今回は見ただけっス!』
今回は15階層まで行かなかったか。
結構やられたらしいしな。
自重したか。
よしよし。
魔石の入ったバッグを確認してみる。
「これ、またすごい金額になるな」
「14階層まで行ってますからね」
<ファイターとマジシャンの比率が高いなら、平均単価も上がると思います>
チアキ先生のありがたい言葉で、俺の頭の中に札束が浮かんだ。
借金を返し終えた俺には全て手元に残るお金だ。
えーっと、FIREするなら2億とかあればいいんだっけか。
5日くらいでいけるな。
というか今がもうFIREしてるのか。
働いてないもんな。
ふむ。
俺は自由だーーー!!!
続いて装備を確認する。
黒鉄盾は272個あった。
昨日はファイター134匹に配ったので、余りは138個。
帰ってきたファイターは93匹。
つまり41個の盾が戻っていない。
手元に残る盾は231個。
黒鉄剣と黒鉄槍は、それぞれ230本ずつ残っていた。
合わせて460本。
ハイゴブリンオス1123匹のうち、黒鉄武器を持てたのは460匹だけだ。
帰ってきたハイゴブリンを見ると、黒い武器を持っていないやつがかなり多い。
拾い物の武器すら失って、素手に近いやつもいる。
「装備、足りてないな」
「足りてないし、持ってても消えてるな」
「14階層だと黒鉄でも厳しいっスか?」
「厳しいけど、むしろよくここまで持った方だろ」
秋田鉱山5階層の素材だ。
黒鉄鉱石は量産しやすく、硬く、加工しやすい。
ただし、14階層用の特別素材ではない。
それが12階層、13階層、14階層まで役に立っている。
なっつんの腕もあるだろうが、素材としては十分働いた。
「黒鉄くん、頑張ったな」
「急に素材に優しいっス」
「ゴブリンより盾を心配してる?」
「盾は買うと高い」
『隊長!?』
生き残ったファイターが抗議してきた。
冗談だよ。
半分くらい。
帰還確認と装備確認を終えたところで、昨日の赤ちゃんたちを見る。
檻Bにいた赤ちゃん641匹は、もう成体になっていた。
ハイゴブリンオス518匹。
ゴブリンファイター60匹。
ゴブリンマジシャン63匹。
14階層で582匹減った。
今日の成体化だけで641匹増えた。
差し引きでは増えている。
なんだこの仕組み。
神か。
母檻側のハイメス赤ちゃんも成体化していた。
ゴブタロウ檻のハイメスは601匹。
スカー檻は45匹。
チビ檻も45匹。
ヤリ檻は61匹。
「ゴブタロウ檻、600超えたか」
「もう檻っていうか、集落っスね」
「ゴブタロウが村長か」
ゴブタロウは檻の奥で腕を組んでいた。
昨日よりさらに偉そうに見える。
いや、実際にゴブリンナイトになっているので偉いのかもしれない。
ゴブタロウのくせに生意気だ!
そして、今日の出産チェックである。
本日のメインイベントと言ってもいい。
メスゴブリンたちはいつものように赤ちゃんを抱え、土の滑り台トンネルへ運んでいく。
ころころ。
ぎゃあぎゃあ。
ずるずる。
聞き慣れた音が大部屋に響く。
「頼むぞ、ゴブタロウ」
「何を頼んでるんスか」
「新商品」
「商品って言ったっス」
チアキが無言で数を拾っていく。
檻Bへ転がってくる赤ちゃんの中に、明らかに雰囲気の違う個体が混ざっていた。
普通のハイゴブリン赤ちゃんより、肩のあたりが妙にごつい。
小さいくせに、腕や胸元に黒っぽい硬い模様がある。
昨日のゴブタロウに少し似ている。
「これか?」
「これっスよね?」
<見てください! 元気なゴブリンナイトの赤ちゃんですよ!>
来た。
本当に来た。
「ゴブタロウ! お前、やったぞ!」
『フンッ』
ゴブタロウはまた鼻を鳴らした。
腹立つ。
さらに、母檻側に残された赤ちゃんの中にも、同じ黒っぽい模様のある小さなメスがいた。
ハイメス赤ちゃんより体つきがしっかりしている。
小さいのに、妙に胸を張っている感じがする。
「メスだ」
「メスっスね」
「ナイトのメスか?」
<ゴブリンナイトのメスですね>
「うおおおおおお!」
思わず声が出た。
ハイゴブリンの時と同じなら、ナイトメスがいるだけで次の繁殖がかなり楽しみになる。
「ボン、テンション高ぇな」
「お金製造機っス!」
チアキが集計をまとめる。
<ゴブタロウ檻は、ハイメス赤ちゃん57匹、ゴブリンナイトメス赤ちゃん6匹、ハイゴブリンオス赤ちゃん510匹、ゴブリンナイトオス赤ちゃん57匹です>
「ナイトが63匹か」
「だいたい10分の1っスね」
ゴブタロウ檻の赤ちゃんは合計630匹。
そのうちゴブリンナイトが63匹。
さらに、その中のメスが6匹。
だいたい10分の1の、そのまた10分の1。
数字としては分かりやすい。
これが指数関数的に上がっていくのか。
考えただけで鼻血が止まらんぜ。
「ゴブリンナイトって、魔石いくらなんだ?」
<資料上では、1匹15万円前後の扱いですね>
「15万!?」
「63匹だから……わかんねぇ!」
「多分1000万超えてるっスよ!?」
<945万ですね>
チアキ以外バカしかいなかった。
続いてスカー檻、チビ檻、ヤリ檻も確認した。
スカー檻は、ハイメス赤ちゃん4匹、ファイター赤ちゃん43匹。
チビ檻は、ハイメス赤ちゃん4匹、マジシャン赤ちゃん43匹。
ヤリ檻は、ハイメス赤ちゃん6匹、ファイター赤ちゃん28匹、マジシャン赤ちゃん30匹。
<本日の赤ちゃんは788匹です>
「増えるなぁ」
「ネズミより増えるの早そうっス」
赤ちゃんの内訳を見ながら、俺は少し考えた。
ファイターとマジシャンをどうするか。
これだけゴブタロウが進化するなら、スカーやチビ、ヤリ檻のファイターやマジシャンも、どこかで進化する可能性があるかもしれない。
「スカー、チビ、ヤリ檻は一旦そのままだな」
「今のままか?」
「全部のメスをゴブタロウに任せるのが短期的には一番効率がいい気はするけど、スカーたちも進化するかもだしな」
「ファイターって進化したら何になるんスかね?」
「なんだろな。ボクサーとか?」
「殴る専門になるって弱体化してね?」
そもそもファイターってなんだよってところからな気がする。
まぁまったり待とう。
「よし。今日は15階層だ」
「ついに行かせるんスね」
「行くのは俺じゃないからな」
「最低の鬼畜っス」
俺は探索組の前に立った。
ゴブリンたちは、疲れているやつも、新しく成体になったやつも、ぎゃあぎゃあとこちらを見ている。
「お前ら、今日は15階層だ」
『15階層っスか!?』
『強そうっス!』
『魔石も高そうっス!』
「よく分かってるじゃないか」
『隊長の教育っス!』
教育した覚えはない。
俺の教育ってなんだ。
ブラックな教育しかしてない気がする。
「無理に攻略はしなくていい。15階層を確認して、損害が大きくなる前に帰ってこい」
『全部倒すっス!』
『全部持って帰るっス!』
「え? 話聞いてた?」
『ウラーーーラーーーラーー!!!』
ゴブリンたちは、ある分の黒鉄盾と武器を持ち、7階層ゲートへ向かっていった。
15階層。
そろそろゲート設置しないとだよなぁ。
ゴブリンナイトの数が増えたらいくか。
探索組を見送ったあと、コハルが魔石バッグを浮かせた。
14階層帰りの成果物である。
バッグの数も多いし、ひとつひとつが重い。
コハルの念力で浮いているから楽だが、人力なら腰が終わっている。
「換金行くか」
「楽しみっスね」
俺たちは管理所へ戻った。
「換金お願いしまーす」
「はいよー」
ゆきちゃんが画面を見て、少しだけ眉を上げた。
「6894万3000円」
「……」
「……」
「……」
全員が黙った。
前回の4876万5000円でも十分おかしかったのに、さらに跳ねた。
「六千八百万?」
「ほぼ七千万っス」
「一日で?」
<一日で、ですね>
俺は液晶をもう一度見た。
6894万3000円。
間違いない。
「え、これ今回だけ全部もらったらダメっスかね?」
「どうした金の亡者よ」
「今の貯金と合わせて借金返せるなと思ったっス」
コハルの借金は1億円。
そんなとてつもない金額でも、今までの稼ぎと合わせれば借金返済できるのか。
「早く返さないといけない理由とかあるの?」
「ないっス。気分の問題っス」
「却下で」
「ガーンっス!!」
数日の差なんて誤差だろ。
我慢しなさい!
現在のゴブリン牧場の状況(3990匹)
⸻⸻⸻⸻⸻⸻
・ゴブタロウ檻(ゴブタロウ/ゴブリンナイト + ハイメス601匹 + 赤ちゃん63匹)
ゴブタロウ(ゴブリンナイト)1匹
ハイメス601匹
ハイメス赤ちゃん57匹
ゴブリンナイトメス赤ちゃん6匹
・スカー檻(スカー + ハイメス45匹 + ハイメス赤ちゃん4匹)
スカー1匹
ハイメス45匹
ハイメス赤ちゃん4匹
・チビ檻(チビ + ハイメス45匹 + ハイメス赤ちゃん4匹)
チビ1匹
ハイメス45匹
ハイメス赤ちゃん4匹
・ヤリ檻(92匹)
マジシャン13匹
ファイター12匹
ハイメス61匹
ハイメス赤ちゃん6匹
・檻B(711匹)
ハイゴブリンオス赤ちゃん510匹
ゴブリンナイトオス赤ちゃん57匹
ファイター赤ちゃん71匹
マジシャン赤ちゃん73匹
・秋田鉱山組(966匹)
ハイゴブリンオス711匹
ゴブリンマジシャン109匹
ゴブリンファイター146匹
・青梅15階層探索組(1456匹)
ハイゴブリンオス1139匹
ゴブリンファイター153匹
ゴブリンマジシャン164匹
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